Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    kisaragikirara

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 15

    kisaragikirara

    ☆quiet follow

    髪の毛が可愛いねって言う話を書きたかったのに脱線しました。4の後ぐらいの話です。めちゃ過去を捏造しています。

    恩返し さくら、綺麗で長い黒髪。最近は高いところでお団子にしている。
     マリア、短く切りそろえた細やかな金髪。初めて出会った頃と変わらず、今もなおきらきらと美しい。
     アイリス、緩やかなウェーブの金髪。十四歳になって、肩に届くほどに伸びた。
     ボクは?
     もうよく覚えていないし思い出す必要もないけれど、小さい頃からずっと髪はこの長さにしていた。長いと邪魔だし、隙になる。髪を好きにいじることなんて戦場では許されない。その考えがすっかり根付いてしまって、未だに髪を適当に首あたりで切ってしまっていた。
     それから、この理由はなんとなく恥ずかしくてまだ誰にも言ったことはないけれど、ボクの髪はかなり強い癖っ毛だから。伸ばしたら、きっとあんまり良くないから。何が良くないのか、その答えは上手く言葉に出来ないけれど、少なくともアイリスみたいに綺麗になるようには思えなかった。
     首を軽くもたげ、ドレッサーの前で伸びてきた毛先をいじってみる。ここに来たときより幾ばくか豪華になった部屋の中で、このドレッサーは一際輝いていた。艶のある深いチェスナットブラウンの枠に、楕円形の綺麗な鏡がはめ込まれている。誕生日、ちょっぴり背伸びしたくて、アンティークのお店にマリアと買いに行った。家具を買うなんて戦いにひとつも必要ない事だから、もう十八歳なのにやり方が少しも分からない。ボクが店内をうろうろしている間マリアは後ろでずっと見ていてくれて、値段が高いと迷っているボクを後押ししてくれた。大ぶりの装飾が施された木彫りの枠が綺麗なんだ、それだけで選んでいいのと問うと、マリアはそれが一番良いと言ってくれた。ボクには少し似合わないかもしれないけど、それでも朝起きたとき、稽古終わり、眠る前、いつ見てもどきどきして嬉しかった。
     でも、豪勢な飾りに囲まれて映るボクは少し憂鬱そうだった。不格好に伸びてしまった髪。アイリスやさくらと違って血色のない頬。瞳は銀髪と相まって何だか冷たく見える。もしこの短い髪がさくらみたいに、長くて真っ直ぐだったらどうだろう。紅蘭みたいに知的な三つ編みだったら?かすみさんのように柔らかく結んでみたら、きっとかえでさんが大人っぽいってボクを褒めてくれる。
     そう、かえでさん。ボクはまだ女の子らしいとか、年頃らしいとか、そういうことがうまく分からないから、いつもかえでさんの反応を頼りにしていた。かえでさんがボクの無頓着に悲しそうな顔をしたら、ボクはもっとアイリスや織姫を真似る。さくらとすみれに話を聞きに行く。そしてかえでさんが褒めて笑ってくれたら、ボクは嬉しくなって、それからマリアにこっそり教えにいくんだ。
     そういえばドレッサーを買った時も、その日の夜にかえでさんを部屋に呼んだ。ボク一人にしては広い部屋に、ぽつんと置いてある豪華なドレッサー。ボクが人に家具を紹介するのに不慣れで、ドアの近くで次に言う言葉を探している間に、かえでさんはすぐドレッサーを見つけた。それがボクの見せたかった物だってすぐ気づいて、かえでさんは何度も何度もそれを褒めて、それからボクを優しく抱きしめてくれた。今すぐにでもお化粧を教えてあげたいわ、とボクの頬を優しく撫でてくれて、なんだか熱くてその日の夜はなかなか寝付けなかったんだ。
     かえでさんは、ボクのことを妹か娘のように思ってくれているのだと思う。十七歳のかえでさんがボクの体をきつく抱いて、微笑みかけながら輸送車まで送ってくれたのをおぼろげに覚えている。欧州星組の編成時にも事あるごとに声をかけてくれていた。少しでもレニの心が開かれるようにって、色んな人に声をかけて協力してもらってたんでーすよ、そう織姫は笑って言った。ボクが花組にやってきたとき、未だに戦いのことしか言わないボクを見て、きっと傷つけてしまっただろう。あやめさんと別れてすぐだというのにそれでもボクを歓迎してくれたかえでさんの強さに、ボクは今ようやく気づきはじめた。
     きっとかえでさんの中で、ボクは悲しい女の子なんだ。九歳でよく分からない実験に巻き込まれて、髪は伸ばさず、スカートもワンピースも着ないで、感情の起伏も乏しい。だから多分、ボクが髪を伸ばそうとしたら嬉しいし、洋服を沢山買ってくれようとしてくれるし、ボクの笑顔が好きと言ってれる。ボクが幸せな女の子になるのを諦めないで、ずっと大切にしてくれる。
     ボクもかえでさんに褒められるのは嬉しい。マリアやカンナに褒められるのももちろん嬉しいんだけど、かえでさんのは特別なんだ。親というものはよく分からないけれど、きっとボクにとって親同然だから。かえでさんが喜んでくれると、ボクが少しづつ幸せを手にしているってわかる。ボクを助けてくれた恩返しができてるってわかる。
     ふと見た窓の外では、日の落ちた濃紺の空を帝都の灯が照らしている。マリアとすみれは今晩二人でお買い物に行くらしい。今日はみんなでお鍋にしようってさくらが言っていた。平和な帝都が戻ってきたのが、日々のあちこちにつぶさに感じられる。ああ、もう戦いのことなんて気にしなくていいんだ。今度、かえでさんと可愛い服を買いに行こう。浅草に活動写真を見に行こう。それから、今年は髪を伸ばしてみるんだ。くせっ毛だけど、花組のみんなならもっと良く……いや、かわいくなれる方法を知っているはず。ねえかえでさん、ボクもっと幸せになって、かえでさんに恩返しがしたいんだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💖👏😍🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    kisaragikirara

    DOODLE※本編後&同棲続行中
    冬服を買いに行く二人のお話。
    冬服を買いに行こう!(ミレ霧) 水色のキャミソール、穴の空いてしまった白いパーカー、デニムのノースリーブワンピース。
    「霧香、あんたってほんとに冬服持ってないわけ?」
    クローゼットに頭を突っ込んでミレイユは話す。ん、といって霧香はちょっとだれてしまったピンクのニットとクリーム色のニットをミレイユの前に突き出した。
    「これ以外は?」
    そうミレイユが詰めると霧香はさながらしょんぼりした子犬のようになって、だめ……?というふうに上目遣いで見つめてくる。ミレイユはこの目に弱い。
    「……駄目!駄目よ!」
    霧香に、というよりかは自分自身への叫びだった。一昨日、霧香の冬服がないんじゃないかというのに気がついたミレイユにより提案されたお買い物。霧香はどうやら寒いのがあんまり好きじゃないらしく、それから今日までやだやだと渋っている。こんなにかわいくおねだりされると、どうせ家から出たくないだけなのだけれど、もしかしたらあたしと家でいちゃいちゃしたいのかなとか、今日はそういう気分なのかなとか考えてしまって、耳の端が熱くなってくる。頬まで真っ赤になる前に慌てて妄想をかき消した。
    4179

    kisaragikirara

    DOODLE※最終話から二年後、二人で同棲&お付き合いしてます
    いい夫婦の日に合わせて書いたけどぜーんぜん間に合わなかったやつです。
    苺の花言葉は「幸福な家庭」だそうで、相互さんに紅茶の色々教えてもらったのですが上手く活かせずしょんぼり……
    というか全然夫婦とかじゃないかも。そーいうことに興味が出始めた学生カップルみたいになっちゃいました。ミレイユが左かも怪しいです。
    いい夫婦の日(ミレ霧) 冷たい風が強く窓ガラスを叩く昼下がり。霧香は頬杖をついてカタログをぺらぺらと捲る。その横に湯気の立ちのぼる紅茶が置かれた。苺の甘い香りが冬の冷たさと混ざり合う。
    「霧香、そこはあんたにはまだ早いわよ」
    霧香が見ているのは有名なアクセサリー店の結婚指輪特集だった。ベビーピンクの幸せなページにシルバーの輪っかが所狭しと並んでいる。霧香はその中の一つ、小ぶりで細身のものを指さした。
    「これ可愛い」
    「ふうん、なかなかいいデザインじゃない」
     あれから二年の月日が経った。二人にはもう暗殺以外の道なんて残っていないから、まだ相変わらず銃を握る日々が続いている。けれど、霧香は前よりよく笑うようになったし、ミレイユはどこか丸くなった。本棚には世界の名作が分かりやすく書き直された児童書の一角ができ、食器棚には猫の絵が入った皿やマグカップが増えた。
    2819

    recommended works