素足をくすぐるような砂の感触が心地良い。春が来るのはまだこれからだから、打ち寄せる波はまだ冷たかったけれど。きらきらと波間を照らす陽射しのおかげで凍えることはなさそうだった。
ばしゃ、と波を蹴とばす。貝殻でも拾って帰ろうか。
「ハソン」
嗜めるような声音で名前を呼ばれ、ハソンは振り返った。ここまでハソンを連れてきた男――イ・ギュが、少し離れた所で難しい顔をして立っている。いつもそんなに難しい顔をしていて疲れないのだろうか、せっかく海にいるんだからもっと楽しそうな顔をすればいいのに。
海に行きたい。
ハソンがそう言い出したのは、江陵からソウルへ帰る車の中だった。名残惜しそうな目で窓の外を流れる海岸線を見る。月に一回、妹と義父に会いに行けること。それは、ハソンが自分によく似た少年と住むことになったときに交わしたいくつかのルールのうちの1つだった。
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