Bitter Valentine今日はいつもより早く家に帰ることが出来た為、弟といつもより一緒にいられる時間をとれる事に嬉しさを覚えながら家のドアを開く。
「ただいまー」
すると、リビングの方からバタバタと足音が鳴りドアからは慌てた様子の写御が出てきた。
「そんなに慌ててどうした?」
「えっ、あっ、な、なんでもないよ!」
「そっか?」
少し腑に落ちないがブンブンと首を縦に振る写御の首が取れてしまいそうで、ハハッと少し笑い頭をわしゃわしゃと撫でてやる。
それだけで嬉しそうに照れたように笑う顔を見て、"あー、可愛いな"と心の中で思うのだ。
「今からご飯作るからさ、今日何食べたい?」
そう尋ね、一旦ソファーにバッグを置けばそのままキッチンへと向かう…………はずだった。
キッチンへと入る前に服の袖を引っ張られる。誰だと思うことも無くそんなことが出来るのは1人だけで……
「どうした?」
そう尋ねるも袖を掴んでいる本人は俯きぎみで表情は見えない。疑問に思い返事を待っていると
「あ、あのねお兄ちゃんっ……その……これ」
そう言って差し出してきたのは小さな四角い箱に黄緑のリボンがラッピングされた物。
「…これって、チョコ?」
そう聞けば頬を赤く染めながら小さく恥ずかしそうに頷くので、自身でも口角が上がるのがわかる。
「今日バレンタインだもんな、兄ちゃんお前からもらえてすっげぇ嬉しいよ。ありがとな」
俺の言葉に嬉しそうに頬を緩める写御に、食べていいかと聞けば肯定が帰ってきたのでリボンを解く。
箱を開ければ中には小ぶりでシンプルな固められたチョコが4つ入っていた。
市販にしてはシンプル過ぎないかと思いふと気付く、もしかして
「これって、手作り?」
「……うん。型とチョコ買ってきてネットで調べて作ってみたんだ。あっ!チョコを溶かして固めただけだから味は大丈夫だよ!」
慌てたように言う様子にクスッと小さく笑えばさっきとは違い優しく頭を撫でる。
そうか、あの料理が出来ない写御が俺の為にチョコを作ってくれた……。
ちゃんとバレンタインの日に。凄く嬉しいはずなのにどうして少し胸が痛いのだろうか…………いや分かってる、写御の俺に対する気持ちは全て俺の願いだから……。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「ん?いや、まさか写御からチョコ貰えるなんて思ってなかったからさ〜。」
そう言いいつもの笑顔を浮かべれば1つ摘み口へと入れる
「ん、美味しい」
「ホント!?」
「ほんとほんと、上手くできてるって!」
「良かったぁ」
「じゃあ、兄ちゃん鞄部屋に置いてくるからそれまでに夜ご飯何がいいか考えとけよー」
「うんっ」
返事を聞き部屋へと戻る。
パタンッとちゃんと扉を閉じれば
「忘れてた、鞄リビングに置いたままで写御にこんなの見られたくなかったしな……」
そう1人零せば鞄に入っていた可愛いリボンの付いたラッピングが施された箱をゴミ箱へと捨てる。
「明日生ゴミと一緒に捨てるか…」
ゴミ箱へと向けていた目線を手元へと移せば、小さなチョコをひとつまみし口へと運べばビターで作られたであろうチョコに嬉しいはずなのに少し切なくほろ苦い気持ちになった。