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    シノビガミ加賀家
    本家分家の設定の話

    鴉の暇潰し ひた、と首に木刀が当てがわれる。今自分は死んだ。加賀鉄志は、一抹の悔しさと共にそれを認めた。
     「ハイ、ボクの勝ち。そんで坊ちゃんの負け〜。終わり!」
     空を切る音と、次にゴトンと硬いものが床を打つ音。遊びに飽きたとばかりに、鉄志の背後を取った男が得物を放り捨てた。
     「誰が終わりだと、」
     「っと?」
     だからそれは隙だった。鉄志の手には得物があり、とどめを刺さなかったのはあちらだ。なら、シノビの戦いに終わりはない。
     振り向きざまに一閃。軽い音。赤黒い面を掠めて、しかしそれが決定的な一撃になることはなかった。
     だが、背後を取られた状態は脱した。思った矢先だった。
     超光速、死地より腕が伸び鉄志の腕を絡める。上。上から腕が伸びていて、回避のすぐさまに彼が高く跳んだのを今更に知る。
     「終わりって言ったでしょ? 生き急がないでくださいって---【天狗】!」
     飛術から繰り出される一撃。得物がない以上、それは格闘術となる。取られた腕から持ち上げられ、上下が反転する。合気柔術を応用した投げ技。刹那に床に叩きつけられる。
     「っ……!」
     「ハイいっぽーん。満足しました? 坊ちゃん」
     見上げた顔は、ずれた面の位置を直していた。鉄志は、彼の素顔を見れた試しがない。廻鴉の、始末忍の面。その下に興味はなかったが、面ひとつ奪えないことばかりが苛立ちと焦燥を駆り立てた。
     手合わせだから死ななかった。青い対抗心に蓋をすれば、死ぬのは一度で済んだ。それをまざまざと感じさせられる。
     「はっ……、次は……勝ちます」
     「アハハ、深刻な顔しないでくださいよ〜。坊ちゃん別に弱くないんですから。ボクが強すぎるだけなんで……あっ! ボクもう次の忍務あるから行きますね!」
     瞬きひとつ。その隙に男は消えた。手合わせをするたび、常このようにいなされて終わる。幼少の折より、実力の差が縮まったことはなかった。

     加賀鋼我。加賀家分家に生まれた、本家を凌駕する天才。本家の体面を保つためにその死を勘定に入れた高ランク忍務を与えられ、全てに生還し一代で三世代以上の働きを成したとすら言われる男。しかして大望はなく、与えられた忍務を忠実にこなす、ただそれだけのシノビ。
     本家の、否加賀一族の誰もが"そういうものだ"と認識した男。ただ一人、本家嫡男である加賀鉄志一人を除いては。
     その対抗心が無意味なことを知っている。けれども、"そういうもの"だから負けを認められるほど鉄志は人ができてもいなかった。

     「……あ、傷になってら」
     人混みの中、鋼我は取った面を繁々と眺めた。雑踏の中の幽霊歩き。彼の素顔を知る者はいない。
     「坊ちゃん強くなったな〜。ボクが先生してあげたらもっと強くなったかも、や、でももう遅いかな? 型も完成してきちゃったし〜」
     少しの期待。少しの落胆。結局、強いということは退屈なのだ。そう加賀鋼我は考えている。
     「……育ててみよっかな?」
     名案、ぱちんと指を鳴らす。それからすぐさま、面を付け直した。標的を見つけたからだ。
     始末忍、その命を果たすべく鴉は地を蹴った。幽霊歩きから音速へ。此度は躊躇いなく、首を啄むために。
     今日あやしてやった本家の嫡男に回らぬ汚れ仕事、それが加賀鋼我の役割なのだ。
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