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    saruzoou

    @saruzoou

    さるぞうと申します。
    🐉7春趙をゆるゆると。

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    POIPOI 32

    saruzoou

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    春趙つづものです。本編ネタバレあります。
    次でひとまず終わりそうです。

    そばにいること5ため息と共にマスターが差し出してくれたウィスキーを、春日はありがたくいただいてチビチビとなめる。
    馬淵の一件で趙との絆を深めていった時も、花束を作る時も渡す時も、そして渡された趙と紗栄子の会話も全て知っているはずのマスターに、何かを聞きたいけれど、もういっそ何をどう聞いていいかもわからない。
    「…いつも自分より他人を優先してきたんだろうな。お前も、趙も。ナンバの言う通り、お前らは似てるよ」
    そうなんすかね、と返そうとしたところで、入口のベルがカランと鳴る。その音に反射的に振り返ると、ひどく汚れた趙がふらりと入ってきた。
    「趙!?」
    項垂れていた趙が、春日の声にビクッと顔を上げる。
    「春日くん…」
    愛用の高級そうなレザーは黄色い粉や白い何かの破片のようなものが纏わり付き、髪も乱れている。
    「どうしたんだ、ソレ…!」
    勢いよくスツールから立ち上がり、入り口に立ち尽くす趙の腕を掴む。
    「春日くん、ごめん、花束ダメにしちゃって…」
    「花束?…いや、花束なんてどうでもいいんだ。大丈夫か、どっか怪我してねえか?」
    「怪我…?俺が怪我なんかするわけないじゃん」
    「春日。上行け」
    微妙に噛み合わない会話にじれったくなったところで、マスターの冷静な声が割って入る。
    「あ、すんません…」
    言葉通り怪我はなさそうだが、項垂れて顔を上げようともしない趙の肩を抱えて、狭い階段を上がる。
    趙がのろのろと靴を脱ぐ間によく見れば、髪やジャケットにこびりついた汚れが百合の花びらと花粉だとわかる。
    靴を脱ぎ終えて、はあと大きなため息をついた趙から無理矢理ジャケットを脱がせる。
    「春日くんごめんね…花束、ダメにしちゃって…」
    「いいんだそんなの。また作るからよ…。それより、どうしたんだ?」
    「チンピラに絡まれちゃって…。全然大したことなかったんだけど、人数多くてさ…。ちょっと目を離した隙に花束取られて、それで殴られちゃって…」
    「そういうことだったのか…」
    それなら花粉まみれなのもわかる。
    怪我がなくてよかったと、顔を上げようともしない趙の髪に絡まった百合の花びらを取りながら春日が安堵の息をつく。
    「ほんとごめんね…せっかく作ってくれたのに」
    いつの間にか自分が花束を作ったことまでばれていたが、また作ればいいだけの話だ。
    今度こそ、ちゃんと気持ちを添えて。
    「いんだよ。次はもっとスゲーの作ってやるよ」
    おおかた花びらを取り終えた頭をぽんと撫でると、ようやく趙がくすりと笑う。
    「春日くん、俺ねえ…」
    「うん?」
    「花束、すごく嬉しかったよ…。あの時ちゃんと、お礼言えなくてごめんね…」
    「趙…」
    「まあすごくびっくりしたけど…。あんなふうにダメにされちゃって、ものすごくショックで、ああ俺、花束もらってすごく嬉しかったんだなあって気づいたんだ…。無くしてから気づくなんて、ほんとごめん…」
    いつになく素直に、抱き合えるような距離で甘い言葉を紡ぐ趙に、知らず喉が鳴る。
    「…そ、そっか。そんな喜んでもらえてよかったぜ。それに、お前が無事ならほんとにそれでいいんだ。そんな謝んなよ。本当に怪我ないんだな」
    「擦り傷ひとつ無いよ。アイツらは半殺しにしてきたけど」
    すっと元マフィアらしい冷えた眼差しをして趙が低く呟くので、春日はこんな男に絡んだチンピラに少し同情した。
    「お、おう…。とりあえず、シャワー浴びてこいよ。花びら取れたけど、花粉まみれだから」
    「うん…」
    ぼんやりと返事をして、ゆっくり立ち上がった趙にバスタオルを渡す。パタンと扉が閉まって少しして、シャワーの水音が聞こえてくる。
    春日は先程脱がせたジャケットを手に取り、花粉や花びらを丁寧に払った。
    いつも愛用しているジャケットからは趙の匂いと、甘い百合の香りがして、胸の辺りがざわめく。
    そっか。
    喜んでくれたのか。
    じわじわと頬が熱くなって、嬉しくて。
    今度はどんなのを作ろうかな、などと春日が浮かれながらジャケットをハンガーに掛けると、あっという間にシャワーを終えた趙が、バスタオルを腰に巻いただけの格好で出てきた。
    「…!おい、んな格好じゃ風邪引くぞ」
    「いや春日くんがバスタオルしかくれなかったんじゃん…」
    先程仲間たちに、半ば無理矢理自分の気持ちに気づかされたばかりの春日は、半裸の趙にひどく動揺した。
    ここで皆と暮らすようになって、趙の裸など、見慣れたはずなのに。
    そう思い、ふと気づく。
    裸見るの初めてじゃねえか?
    シャワーの時は脱衣所に着替えを持って行くし、朝晩の着替えも身支度と一緒に洗面所で行っていたような気がする。
    春日やナンバはパンツ一丁で部屋の中をウロウロしていたが、趙はいつもきちんと部屋着のようなものを着ていた。
    それが元来の几帳面さからくるものなのか、見られたくない墨でも入っているせいかと思って、大して気に留めていなかったのだ。
    初めて見る趙の体は、本人がいつだったか『脱いだらすごい』と言っていた通り、見事に鍛えられていた。
    自分やハンジュンギとも違う、しなやかという表現がぴったりの大きすぎない筋肉が肩や腕、胸と背中を覆っている。そのくせ、腹回りには余分な肉が一切なく、肩や胸との対比のせいか、異常に細く見える。
    うっかりと趙の体をまじまじと見てしまい、腹の奥がぞわりと落ち着かなくなる。
    「…俺の前でそんな格好すんなよ」
    思わずそんな、八つ当たりのような台詞が小さくこぼれた。
    着替えを探して押入れに向かっていた趙は、春日のその言葉を聞き逃さず、片眉を上げて振り返る。
    「か〜すがくん、その言い方はずるいよ」
    「なにがだよ…」
    緊張に、声が喉に絡む。
    向き合った趙は、先程までのどこかぼんやりした甘い雰囲気は形を潜め、ピリッとした緊張感の伴う、裏社会で修羅場を何度も潜り抜けてきた男の顔をしていた。
    ゆらゆらと歩きながら近づいて、思わず身構えた春日の脇に手を通してぬるりと抱きついた。
    「…春日くんさあ、俺のこと好きなの?」
    「そりゃ…」
    所在なく宙に浮いた手を趙の裸の背中に回すことも出来ず、春日はひたすら動揺する。
    ようやくそういう意味で好きなんだと自覚したばかりで、この展開は予想していなかった。
    しかも趙の、この態度はなんだろう。
    恥じるでも照れるでもなく、嫌悪とも違う不機嫌を纏わせて、そのくせ体を密着させて。
    肩に顎を乗せた趙の、濡れた髪からしたたる水滴が赤いジャケットを濡らして、そこからじわりと冷えていく。
    シャワーを浴びてあたたまったはずの趙の体はすっかり冷え切っていて、むしろ自分の方が体が熱くなっている気がする。
    「…好きだと…思う」
    「思うぅ?」
    歯切れの悪い俺の言葉に趙の声が裏返る。
    「いや、好きなのは、ずっと好きだったぜ。でも、なんつーか…」
    言葉を探して腕も目も彷徨わせていると、スーツの後ろを掴まれ、ひゅっと息をのむ間に体が反転した。
    気づけば畳の上に倒されていて、さすが中国拳法の使い手、と妙なところに感心してしまう。
    春日に馬乗りになって見下ろす趙は、先程までの不機嫌さとは違う、なにか思い詰めたような顔をしていた。
    サングラスも指輪もない。
    そんなことに今更気づいて、バスタオル一枚の半裸の姿よりも無防備に見える趙にひどく動揺する。
    「趙…」
    名前を呼んで、思わず手を伸ばして頬に触れると、まるで熱いものにでも触れたかのように、ぱしんと音を立てて払われてしまい、春日はいよいよどうしていいかわからない。
    趙は小さくため息をついて、馬乗りになっていた体から躊躇いもなくバスタオルを取り払い、遠くに放り投げた。
    「え…!ちょ、おい…!」
    身を隠すものが何もなくなった、文字通り生まれたままの姿を流石に直視できず、春日は顔を赤くして趙の下から抜け出そうと身を捩った。
    「だめ。春日くん、ちゃんと見て」
    春日の腰を挟む内腿にグッと力を入れた趙が、硬い声で抑え込む。
    視線を逸らした春日の頬を掴んで正面を向かせる。
    「ちゃんと見て。男の体だよ?」
    仕方がないな、と苦笑するような顔で、趙が言う。
    何度も見た、自分を甘やかして許してくれる顔。
    この顔に、今までずっと救われてきた。
    でも、今の趙の顔には、どこか諦めのようなものが含まれていて。
    男の体だ。
    そんなことはわかっている。
    見ろと言われた下半身には、見事に割れた腹筋の下に自分に付いているのと同じものがぶら下がっている。
    女とはまるで違う。
    それがどうした。
    趙が何を思ってこんな行動に出たのかようやくわかった気がして、そしてわかったと同時に無性に腹が立った。
    ぎりぎりと太ももで締め上げるような動きをする趙の腕をがっちり掴んで腹筋で素早く起き上がる。まさか反撃があると思っていなかった趙はすっかり油断していて、目を丸くして今度は押し倒される側になる。
    「え…ッか、春日くん…?」
    まるで春日の動きが想定外だというように動揺する趙の、いつもはサングラスに隠されている大きな目をしっかりと覗き込む。
    「…あんまりバカにしてくれるなよ」
    低い声でそう告げると、趙の素肌がさあっと赤く染まる。
    その様がひどく扇情的で、裸の趙を組み敷いていることを今更ながらに思い出す。色々とまずいことになりそうだと、逃げられないよう押さえていた趙の腕を離し、素早くジャケットを脱いで趙の肩に掛け、その体を離した。
    春日の行動が、あまりに予想外だったのだろう。
    趙は裸の体に掛けられたジャケットに気づくと、すでに赤くなっていた顔を更に赤くして、ジャケットの中に潜り込むように顔を埋めて体を丸める。
    「くっそ、マジで、そういうとこ…!」
    悔しそうに意味のわからないことを吐き出す趙を、春日はジャケットごと抱きしめる。
    途端、その中で趙の体が強張った。
    「お前が男だなんて、んなこと百も承知だよ。問題はそこじゃねえんだよ」
    そう告げて春日は、小さくため息をつく。
    「…お前が好きだ、趙。ちゃんと言わなくて悪かった」
    覚悟を決めて口にすれば、趙がジャケットから顔半分だけを覗かせて、視線で続きを促す。
    「別に気の迷いとか、勘違いとか、そんなんじゃねえ。お前は多分、素っ裸になりゃ俺の目が覚めるとでも思ってそんな捨て身の行動に出たんだろ。期待はずれで悪いが、俺は今めちゃくちゃドキドキしてっからな」
    さすがに趙の顔を見ながらは言えなくて、薄汚れた壁を睨みつけるようにして一気に捲し立てる。
    組み敷いた趙の体がジャケットの下でモゾモゾと動いて、下半身に手を伸ばされる。
    「そっちじゃねえよ!そっちもヤベェけどよ!」
    腰を引いて思わず叫ぶと、趙が肩を揺らして笑った。
    「結構体張ったんだけどなあ…」
    観念したようにするりと伸びた腕が背中に回される。
    「残念だったな。俺は本気だぜ」
    「さっきまでよくわかってなかったくせに…」
    「お前のおかげでわかった」
    先程までとは打って変わって、スルスルと出てくる言葉を趙にぶつける。
    「ふうん、そっか…」
    どこか遠い目で呟いた趙がくしゃみをして、湯上がりに裸のままだったことを思い出す。
    「わり、風邪ひくよな」
    パッと身を起こした春日が、押し入れに向かい、趙の着替えを漁る。
    「これでいいか?」
    Tシャツと下着を手に振り返ると、畳の上に転がったままの趙が、春日のジャケットを抱き込むようにして何かを考え込んでいた。
    横向きになった体の、ジャケットでは隠しきれない背中から腰のラインが露わになっている。その先の綺麗に丸みを帯びた尻と、張りのある筋肉に覆われた太ももまで直視してしまい、春日は覚えのある、けれどひどく久々の疼きを下腹部に感じた。
    焦ったあまり着替えを趙の上に放り投げてしまい、びっくりした趙がひどいなあと言って無邪気に笑う。
    ほんとに、俺の前でそんな格好するんじゃねえよ。
    今度はさすがに声に出さずに、喉の奥で飲み込んだ。





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