適材適所②「Amazing grace……How sweet the sound……That saved a wretch like me……」
まだ誰も来ていない練習場。誰より早く練習場に着いた月下は椅子に座り、ギターを弾きながら何やら口ずさんでいる。
もうギターボーカルは辞めると決めた。その方が、バンドの今後のためだ。でも、まだ縋りついている自分がいるのは確かだ。なんて我ながら未練ったらしく、みっともないんだろう。売れるために、私情は捨てないといけないのに。
か細くどこか物悲しげに聞こえるその歌声を聞くものは、誰もいない。
かと思われた。
「月下さん、その歌……」
「ッ!?」
いつのまにか、紅音がそばに立っていた。演奏と歌に集中していたせいだろうか?月下は慌ててギターを床に置きガタンッと立ち上がる。
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