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    ぽみょか

    @pomyogonyoGonyo

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    ぽみょか

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    こんな感じの本が出る予定~…
    コウキぬいとあげはぬいが人類の消えた世界でちいさないのちしてるはなし(???)


    ⚠️ごりごり特殊設定本⚠️
    ※南揚のエッセンスが投影されたぬいたちが主役
    ※南揚本人は出ない
    ※ぬいが流暢にしゃべるし歌う
    ※書いてる側もふわふわした設定でなんとなくで楽しんでる

    ◆はれたそらに





    「あげはぁ、洗剤手に入ったよ。
    キャップ一杯分もある」

    ととっ、と板張りの床へ響いたコウキぬいの足音に、あげはぬいは顔を上げた。


    コウキぬいは、足が速い。
    声がかかって顔を向けると思ったよりも近くにいるから、いつもびっくりさせられる、と、あげはぬいは目をぱちぱちさせて思った。
    足の長さは、あげはぬいとそう変わらないはずなのに。どうしてあんなに、さくさく歩いて走れるんだろう。ちがうのかな、どこかの綿が。

    「ほらみて、これ」

    真隣に立ったコウキぬいが両腕を使って大事そうに差し出したのは、重たそうなペットボトルのキャップ。
    トロンとした半透明の液体が、うちがわでゆっくりと波うっている。
    ないはずの五感をふうわりなでてくすぐるのは、あたたかい色の花のかおりと、綿の身体が覚えている胸のすくような清涼感。
    明日は久しぶりのセンタクだ、と。
    あげはぬいも笑顔になった。



    ***
    洗濯をする日、あげはぬいたちの朝は早い。

    よく晴れていても天気が急に変わる日だってあるし、夏でも気温が一日中高いままだって保証もないから、なるべく朝の早いうちに洗うのをすませて、乾かす時間をたくさんとろう。
    と、コウキぬいが思いついて以来、ふたりして朝の準備を急ぐようになった。
    綿のからだは疲れ知らずだし、ぬい主たちのようにご飯をとる必要もないけれど。
    濡れたまま湿ったままで過ごしていると、カビが生えてきてしまうから。
    身体の芯の方までしっかり乾かしきるためにはそれなりに時間がかかるのだ、とあげはぬいとコウキぬいが気づいて、洗濯のやり方や適した季節を考えつくまでの何度かの梅雨は、ふたりにとってはとても厳しいものだった。

    身体の半分の綿を急いで取り換えるような、あんな思いはもうしたくない、と、あげはぬいはタオルを運びながら思う。
    ぬいにだって、ぬいなりに、誰かに見られるのは恥ずかしいな、と思う場所が幾つかあるものなのだ。

    たとえば、──お腹の縫い目のうちがわとか。



    「あげは、タオルまだあった?」
    「うん。大きいのあと何枚かと、小さいのはまだたくさん」
    「そっか、これもまだ何度かは使えるだろうけど、残り大事にしないとなぁ」

    何日か前の雨の時に軒下に出しておいたおかげで、雨水がいっぱいに溜まったバケツ。
    さっきその側までふたりで引っ張ってきた植木鉢の上へ器用に立ったコウキぬいが、おたまでぺしょぺしょと水をすくって、これまたふたりで引っ張ってきた料理用のバットにせっせと移し替えている。

    ぱしゃっ、ぱしゃん、と定期的に響くすずしい水音に聞き入りながら、あげはぬいも、ひきずってきたタオルを水のかからない位置に広げた。
    大きいタオルが一枚と、小さいタオルが計3枚。
    湿気が大敵のあげはぬいたちにとって命綱であるパイル地は、夏の朝の日差しを受けてやわらかな黄色に輝いていて。
    センタク日和だねえ、とこぼされたコウキぬいののんびりした声といっしょになって、あげはぬいの綿の心をふわふわとはずませた。



    ・身体が濡れてしまう前に落とせる汚れはおとしておくこと。
    ・たくさんの水で洗うこと。
    ・ちょっとでいいから、衣服用洗剤を使うこと。
    ・タオルでぎゅうぎゅう乾かすこと。
    ・なるべく長い時間、暖かい日陰で乾かすこと。

    ふたりで過ごしたいくつかのルールは、ぬい主がまだあげはぬいたちの洗濯をしてくれていた頃の記憶をたよりに、ふたりがふたりにできる範囲でアレンジして作り上げたもので。
    おたがいに、もうすっかり手順が頭に入っているから、てきぱき準備を終えることができた。

    「よし、準備できたしブラシしよう」
    「後がいい、ボク」
    「相変わらずヘンなこだわりだなあ。じゃ、よろしくお願いします」
    「……ん」

    全体的に白いコウキぬいの前にあげはぬいがブラッシングをすると色を移してしまうような気がするから、毎回先を譲っているのに。
    コウキぬいはいつも、そんなの気にしなくていいのに、とあげはぬいの気づかいを笑う。
    そういうところがむかつくやつ、と少しのいらだちを込めるように、あげはぬいは歯ブラシの柄を両手で持った。
    はいどうぞ、と突き出されたコウキぬいのほっぺたに柔らかい毛を押し当てると、……これも、いつものこと。
    コウキぬいが、くすぐったそうに笑いはじめた。

    「もう、じっとして」
    「あ、はは、ごめん。俺ほんとこれくすぐったくって、ふふ」

    しゃこ、しゃこ、と長い柄の上の方を持って動かすと、コウキぬいがまた、耐えきれないようにくすくすと肩を震わせる。
    少しも汚れが落ちないうちから「はい交代」と言い出しかねないあまりのむずがりように、あげはぬいはまた首を捻って考えた。
    足の速さも、くすぐったがりも。なんでこんなに違うんだろう。
    おんなじ生産工場の、おんなじぬいのはずなのに。

    ──やっぱり、綿がちがうのかも。身体のどこかの場所の綿が。

    たぶんそうだ、とひとり頷いた拍子に、コウキぬいの肩のあたりにガンコそうな汚れを見つけて。
    あげはぬいはまた、ブラシをぐっと握り直した。



    「そういえば。どうしたの、洗剤。あんなにたくさん」
    「ああ。ちょうど、この前見つけた綿と交換してくれるってぬいがいたから売ってもらった。気に入った? これ」
    「……うん。入ってるでしょ、これ。ジューナンザイも」
    「たぶんね。最初かなり吹っ掛けられたから」

    ぬい主のお母さんは、趣味でぬいぐるみを作るひとだったから。
    あげはぬいとコウキぬいは、ニンゲンが居なくなったこの家を手分けして探索した何年かで、他のぬいたちに高く売ることができる必需品をいくつも見つけることができた。
    身体に詰める綿もそうだし、ちょっとしたほつれを直せる衣類用の接着剤やぬい糸なんかも早くに発見していろいろ試すことができたおかげで、ふたりっきりの生活はそれなりに豊かなものになった。

    どうやらとても高価だったらしい、良い匂いのする洗剤を水入りのバットに薄く垂らして、ふたりでおたがいをギュウギュウ洗う。
    少し傾いた太陽の下で腕や頭を押しつけ合うと、体温のない綿の身体が不思議とぽかぽかしてくるようで。あげはぬいもコウキぬいも、やわらかな水温に目を細めながらときおりふうっと息をついた。

    刺繍になっている部分はほつれやすいしちょっとやそっとじゃ直せないからそのあたりだけ慎重に触って、あとはひたすら、ぐいぐい揉み合うこの時間。
    これはけっこう好きだな、とあげはぬいは手についた泡を払い飛ばしながらそう思った。

    ……いっしょにいる、という感じが、強くなるような気がするのだ。

    いっしょにいる、ふたりでいる、とそんな風に思うたび、いのちを貰った夜に感じた胸のぱちぱちがまた大きくなって、灯になって。
    あげはぬいの手足の先から胸の奥までまんべんなく、綿の身体全部にいのちを行き渡らせてくれるような。
    そんな想像がふわりと頭を過るのがなんだかくすぐったくて肩を揺らすと、今くすぐったがるなんてヘンなやつ、とコウキぬいが顔をのぞき込んで笑いかけてきた。



    「だいたい洗えたね」
    「うん。……だいじょうぶ、たぶん」
    「よし、じゃあ次いこうか。足元気をつけて」

    びちゃびちゃ、あわあわ、ちょっとぬるぬる。
    そんな重たい身体を引きずって、なんとかふたり、バットの淵をまたぎ越して、外から端を持って大きく傾ける。
    ばしゃあああ、とすこし濁った水が流れる勢いに必死で耐えながら、うわうわとセミの声だけが落ちてくる真夏のコンクリートに向かって、汚れた水をぶちまける。
    撒いたそばからコウキぬいが器用におたまを操って、またバケツからバットに水を足していく。
    ここから何度か、ふたりのぬるぬるがキレイになるまで気の遠くなるようなすすぎ洗いを繰り返すのだ。

    あげはぬいとコウキぬいでは許容できるぬるぬるの程度に差があるせいで、いつも言い争いになるのはこの工程で。
    お互いに、相手になにか言いたくなってしまうのは分かり切っていることだからとなるべく口数を少なく減らして、またバットの中に入ってじゃぶじゃぶとお互いの洗濯に取りかかった。




    ***

    「おわ、った……」
    「終わったねえー……なんとか日が高くなる前に」


    ふたりして、日陰に敷いたタオルに並んで寝っ転がって。今見えているどんなものよりも鮮やかな、真夏の空をじっと見上げる。

    果ての見えない、透き通ったうつくしい青になんだか少しこわくなったあげはぬいがそっと右手を横にのばすと、コウキぬいの湿った腕に手が触れて。
    そのまま、まろいかたちの手と手がそっと重なって、きゅう、と穏やかに圧力をかけてふたりぶんの手が繋がれた。
    すると、触れあっている部分から何かがジワジワからだに染み入ってきて、
    また、綿の胸が締めつけられるような思いがして。
    あげはぬいはたまらず、ぽつりとコウキぬいに呼びかけた。


    「コウキ……」
    「うん?」

    ──空って、落ちそうでちょっとこわい。


    ふっ、と胸に湧いたきもちは、口に出そうとするとなんだかとても、まるで臆病ものが言ったみたいな台詞に思えて。
    あげはぬいは少し迷って、結局、思ったのとは別のことばを言った。

    「かわくと思う? 今日中に」
    「どうだろ。あっちの方に薄ら出てきた雲があやしいよねえ。いかにも雨雲ってかんじで」
    「……ギュウギュウする? タオルで、もっと」
    「ん~……くすぐったいのイヤなんだよなあ」


    もう、コウキってそればっかり。
    呆れてコウキぬいの方を向くと、……コウキぬいは、落っこちそうなほど青い夏空をじっと黙って見つめていて。
    その横顔を見たあげはぬいは、やっぱりすこし、さみしくなって。


    空ってちょっとこわい気がする、と、
    口のなかだけで囁いた。
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