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    poskonpnr

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    ゆりとゆごの会話 大ネタバレ

     覇王紫竜の輝きは間違いなく暖かかった。それが世界に望まれているし、ボクだってあれはあれで良かったんだと思っている。ボクは遊矢と一つに、いや、もっとだ、ボクは遊矢になりたかった。本当はボクが勝って、ボクの中の遊矢を見つめていたかったけれど、それができるほどボクは強くなかった。となれば、今の形は現実的に実行できる最善なんだよね。うん、大丈夫。分かってるよ。
    分かってるからここにいる。
    柚子と話す声の柔らかさ。権現坂に甘える声音。素良をあしらうため息。全部ボクの中に響いてくる。遊矢ってボクとは本当に大違いだ。大事なものがいっぱいあって、いろんな人に愛されている。経緯はごちゃついたけどご両親も健在で、可愛いペットに安らげる家。
    遊矢は何でも持っている。
    遊矢は変わらない。ズァークの分身としての核になるのは遊矢だったから、遊矢を軸にボク達は一つになった。願ってやまなかったのに、どうしてこうもモヤモヤするのかな。
    「ね、ユーゴ」
    「あ?」
     ボクたちは個人でいることを許されなかった。ボクはユーリ、そしてもう一つ感じる存在をユーゴと見立てて会話のようなものをしてみるけれど、これはほとんど一人芝居だ。ボク達は「人格」なんて大層なものじゃないからね。
    ここにきてもうしばらく経つ。その間に考えてみたことはこうだ。人間誰しも感情を持ち合わせる。その感情によって立ち居振る舞いが変わったりする。どんなに優しい人でも怒ると怒鳴ったりするし、気性の激しい人でも悲しいことがあると静かになってしまう。ボク達って所詮それぐらいの存在なんだと思う。「ユート」「ユーゴ」「ユーリ」がいるんじゃなくて、遊矢の気まぐれの振れ幅。だから「存在」って呼び方も、多分大仰すぎるんだよね。
    「もう飽きちゃったよ」
     こう切り出すと、ユーゴがふん、と息をついたように感じられた。
    「ここでいるのにか?」
    「うん。ボク、遊矢と一緒になりたかったけど、こうじゃないみたい」
     自分を認めてほしいって、誰かに認識してほしいって、贅沢なことだろうか。ボクってば親の顔も知らないし、ていうか本当に「いなかった」のかもしれないし、友達もいないし、他人との関わりなんて本当に希薄なものだったけど、それでもプロフェッサーっていう目的のある日々は今よりずっとずっと充実していた。行動指針があるというのも大きいだろうけど、やっぱり自分の働きが評価されるっていうのは気分がいいものだ。そこまで大層なものじゃなかったとしても、ボクをボクと知っていてくれる人がいるなら、それだけで人生の価値って何倍に跳ね上がるものなんだと思う。
    今のボク達は遊矢に感知されない。ボク達が統合されたということを事実として知っているだけだから、ボク達が自分で自分のルーツを覚えていないと、本当に、正真正銘、消えてしまう。
    ボクは、遊矢が過ごすみたいな、いわゆる温かい家庭には全く興味がないみたい。相対的に見て悪役でも一向にかまわないから、何か行動を起こしていたい。自分を起点に状況が変化していくさまを楽しみたい。自分の一挙手一投足で他人が振り回されるのを見ていたい。そう、ボクって根っからのクソガキなんだよね。
    なのに、なんでかボクはまぶしくてかわいらしい遊矢と同一になってしまった。ボクは今のボクを否定したくて仕方がない。大体、そうだ、ボクが一緒になりたかったのはただの「榊遊矢」で、ユーリ同梱の榊遊矢じゃないのに。
    「おめーは贅沢なヤツだな」
     ユーゴ(仮)がボソッと言う。
    「贅沢って、何さ。ユーゴだって自分の身体で、自分の意識で、Dホイール乗りたいって思うでしょ」
    「思うよ。思うけど、Dホイールに乗れたとしても、オレがシティで差別を受けて、その日食う飯も満足に買えなかったのは本当のことなんだ。もう一回あそこに放り出されて、手放しで幸せですとは、言えねえよ」
     ちょっとイライラした。甘えじゃん、それ。
    「ボク達って今はもう身体を失くしちゃったわけだからさ、お金とかご飯とか差別とか、関係ないじゃん。これからがどうなるかとか、考えないわけ?」
    「考えない。考えて、何になる」
     それは確かにそうだった。身体を失ったボク達に将来はない。自分で自分を忘れるまで、いつ終わるのかわからない無間地獄で生きる……いや、生きることの真似事をするだけ。
    「やだな、リアリスト」
    「お前に言われたかねえよ」
    「何が」
    「向き合う気まんまんじゃねえか、これからに」
     ユーゴの声はかすれていた。ボクの想像上の声だったかもしれないけど。
    「ふうん、本当にリアリストだ」
    「違げえよ、もう考えるの疲れたんだ」
    「なに考えてたの?」
    「聞いてどうする」
    「暇つぶしにはなりそうじゃない。ボク、バカの考えることってよく分かんないし興味あるなあ」
     身体があれば拳が飛んできたんだろう、あればね。ユーゴはまたため息をついて、でも暇つぶしには付き合ってくれる気になったようで、ポツポツと話し始めた。
    「……なんか、そのうちリンに会えるって、ぼんやり思ってたんだよ」
     リンはユーゴのガールフレンドだ。ちゃんと手順を踏んでお付き合いしてたのかもしれないけど、実際のところはよく知らない。ボクにとってのリンって捕まえる対象でしかなかったから。
    「でも身体があるうちも、あんだけ走り回ったのに会えなかった。絶対会って、抱きしめて、もう怖いことなんかないってちゃんと言いたかった」
     そうだね。「怖いこと」って、ほとんどイコールでボクのことだけど、確かに彼氏と同じ顔の男が、彼氏とは似ても似つかない態度で自分に襲いかかるのは、形容が難しい怖さだと思う。……今になって思えば、だよ。ボクにとっては当時あれが全てだったんだから、後悔なんてしてないしする予定もない。
    「もう、本当に、絶対、リンに会えないかもしれねえって思ったら、はは、ガラでもねえけど、死にそうになる……」
     そういうボクの開き直りを叩き潰すかのように、ユーゴは「死」という言葉を使った。ボクは、なぜかどうしても、相槌が打てない。なんでボクにそんなこと言うわけって文句を吐きかけてやめた。聞いたのはボクだし。そしてボクは、アカデミアでのリンの姿を思い出した。気の強い、ユーゴには似つかわしくないほどのしっかりした女の子。いや、女の子ってよりお姉さんって感じの子だった。確かに瑠璃やセレナ、柚子と顔は同じだったけど、三人にはない大人っぽさがあった。多分壮絶な出自も関わってるんだと思う。そのしっかり者が安心できるような言葉をあげて、抱きしめてやりたいユーゴ。きっとリンの弱さを知っていた。
    「……ま、確かに、もう一回会うのは諦めたほうが賢明だね。将来のことを考えないってのは得策だ」
     ボクがあえて煽るようなことを言うと、ユーゴは少し笑った。
    「だろ。だからもう考えないどこうと思ったのに」
    「のに?」
    「忘れようとするほど、どんどんリンのこと好きになるんだ」
     これがボク。四つに分かれたボクの分身。こんなこと、ボク、絶対思えないよ。照れるほど真っ直ぐな言葉が審判のようにのしかかる。考えない、はユーゴの努力目標であって、実行できていないことは嫌というほど分かった。
    会えたらいいねー、なんて流石に言えなかった。なぜかユーゴの悲しみと寂しさが伝播して、重暗い気持ちになる。ボクはそんなふうに想う相手に出会ったことがない。ないはずだけど、暴力的なほどに孤独感が襲う。ボクはずっと一人で、一人の楽しみ方はよく知っているのに、それは本当の自分じゃないって誰かに怒鳴られているような感じがした。
    「……ユーリ?」
    「なに」
    「……泣いてる?」
    「馬鹿じゃないの、ボク達に涙腺なんてたいそうなもの、ないでしょ」
    「ないけど」
     境目がないことは不便だ。間違いなく泣いてなんかないけど、ボクは自分が端の方から縮れてしぼんでしまうような錯覚に襲われた。ユーゴはこれがずっとあるから、なおさらリンのことを考えずにいられないのかもしれない。リンを抱きしめたいのと同じくらい、リンに抱きしめてほしいんだろう。
    ユーゴに対して何かしてやりたいと思ったわけではなかったけど、ユーゴが苦しいということは、ボクが苦しいということでもある。「抱きしめる」なんて大仰だし、ボクも自分がそんな分際でないことは分かってるから、小さく、ハグのようなものを、自分にする。「する」っていうのもおかしいな。そうしているつもりの気持ちになる。想像した。安心とか、嬉しいとか、穏やかとか、そういうものを。あくまで自分の不快感を取り除くための応急処置だから、誰かに好意的な行動をしているわけじゃない。この意識もまた、ボクを安心させた。
    ボク、やっぱり悪者でいたいな。場を引っ掻き回して、みんなが困っているところを見ていたい。性悪でいい、それがボクだし。優しい遊矢の分身だとしても、ボクには人の言いなりになって悪事のようなものを働いてきた過去がある。これって否定しなくてもいいのかもね。ユーゴがリンを想う、それをおかしいことだと思わないように、ボクはボクの性根の腐りっぷりを愛していたい。
    「ね、次もう一回ボク達が会うことがあったら、今度もリンをさらってあげるよ」
    「ンだそれ、喧嘩売ってんのか?」
    「それでさ、今度のときはちゃんとボクのことブッ倒して、抱きしめちゃえばいいじゃん彼女のこと。それでこそ王子様でしょ」
     ねえ、頼むよ。この場合、頼むのってズァークなのかな、レイなのかな、零羅なのかな。誰でもいいけど、早くボク達を滅茶苦茶にしてよ。空想の中で生きるのって、こんなにも。
    「いいぜ。じゃあ次はハッピーエンドで、しゃーねーから、Dホイールの後ろ乗せてやる。それで和解。そしたら一生話しかけてくんなよな」
     不自由だね。
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