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    @conishi524

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    mew LIFE STYLE現パロ
    地雷がある方は読まないでください。


    円形の木製テーブルはネコが乗るコトが想定に入っとるらしくかなり頑丈で、イチイチ揺れたりズレたりが無くて中々気に入っとる。但し、乗るのが並みのネコなら。

    ギッ……

    テーブルへの着地音はせんのに、コイツが乗ると必ず天板が傾くモンで、木ィの脚と擦れて軋む不快な音がなる。

    「オイ……乗るな言うとるやろ」
    「………………」

    オレの仕事用のタブレットとノートPCを真上から覗き込むように、デッカイ図体を縮めてテーブルにうずくまるネコ。
    ダラダラウットーシー前髪と、ボッとした半目、獣人特有の上がった口角は愛嬌があるとか何とか言われとるがオレはそうは思わん。そのミギハシにはピッと欠けた茶碗みたいなキズがあり、“元ノラ”の育ちの悪さをアピールしてくる。

    コイツはこの【保護ネコ・獣人カフェ mofa】にて働いとる獣人キャストの“トージ”。
    年齢不明、おとこのこ、十二月三十一日生まれ。

    他んネコより体格がヒトマワリもフタマワリも大きく、運動神経も遥かに優れとる。

    「アッ!止めろや!落ちる!」

    コーヒーの入った安っぽい紙のカップにカオを擦り付けられ、スー、スーとカップがテーブルのハシへ移動する。
    コレは、カップに嵌めてあるプラのフタを外せと、さもなくばコーヒーをブチ撒けたると、そういうオドシや。
    こんクソネコは、獣人のクセにニンゲン様の飲み物をヨコドリするコトに執心しており、一度ムシして仕事を続けたら床に落としたカップを更にマエアシで弾かれ、シャツとスラックスをコーヒーマミレにされたコトがあって、以来、シブシブフタを開けてやり、長くザラついた舌でもってコーヒーが掠めとられるンを、ユビを銜えて見とるしか出来ん。
    ホンマモンのネコと違ってカップの底マデはカオを突っ込めんから、最後にチョビーッと残る冷めきったコーヒーを飲むンはいつもオレや。正直キモイが、飲み切らんといつまで~もこんネコがカップからキョーミを失わんので、シャーナシに。
    今日もイヤイヤ残りのコーヒーを飲み切る。低反発の薄型クッションにアグラをかき、仕事を続けてるとクチの周りをペロペロと舐めていた“トージ”がフンとハナイキをヒトツ吐いてテーブルを降りた。上ったトキと同じく、着地音はせんが、テーブルは反動で軋む。オレはバックスペースキーを三回叩く。

    「ンナ」
    「ジャマや。来るな」
    「ナ」

    キーボードを叩くウデとアグラのアイダに巨体を突っ込み、モゾモゾとポジションを整えている。コレをよかすには、エサの時間になるンを待つか、有料のネコ用キャンディを買うてやるしかない。

    「やらんで。さっき他ン客に買わせたのン見てたからな」
    「………………」

    フス~フス~と寝息が聞こえて、アグラに乗せたマエアシにホオを乗せ寝始める。シメタ。今の内に仕事進めな。










    そもそも何でオレがこないケッタイな場所に通てるか。

    もともとオレはこの近くにある至ってノーマルなワークスペースを利用していたンや。ソコの個室は防音が効いてて左右に他人おるンが全く気にならんホドやった。
    やのにある日新しくソコを使いだしたジジイが、ジジイ特有の爆音クシャミを連発、その上気に入ったんか毎日のように通い出し、オレは三日目でキレ、ジジイの個室のカベを蹴り大声で怒鳴った。
    キレ返したジジイがオレん個室に凸してきて喚き散らし、応戦したオレまでその場で出禁を喰らったいうワケや。
    そんなこんなで、新たにワークスペースを探しとったワケやが、オモロイコトにドコに行っても二、三日すると爆音クシャミジジイとバッティングしてまい、そのたんびに出禁の店を増やし、とうとう近場で最後の店を追い出されたトコロで、エエ加減にせえやとオレはジジイにがなり立てた。

    「何してくれとンじゃクソジジイ!!ココら一帯全滅やんけ!!働らいとらんで耳鼻科行けや!!」
    「ネコアレルギーなのにムスメがどーしてもってんでネコ飼い出したんだから仕方ね~だろーがヨッ!!」
    「そんなん知るかいな!!オトコ立てられんオンナ何て張り倒して追い出したったらエエねん!!」
    「オレは婿養子だッ!!」
    「早よイエ出ろボゲッッ!!」

    こない情けないオッサンのせーで、オレは快適な労働場所を失った言うンか。
    テレワークが主流になって早数年。もう今更ワザワザ自宅から数十分の本社に出社して仕事なんてする気にもなれんし、かと言って自宅に仕事を持ち込みたくもない。
    どないしよと考えるコト数秒。
    オレは悟クンに電話を掛けた。

    「ちゅうワケやからァ、悟クンちで仕事してエエ?近いし、部屋も余っとるやろ」
    「イヤだよ!狂っとンのかオメーは!ンでテメーと毎日ツラ合わせなきゃなんねーんだっつの」
    「ほなカギくれたらエエやん。勝手に入って勝手に出てくわ」

    ギャーギャーウルサイ電話口がフイに静かになり、一拍置いて、一緒に住んどる傑クンに相手が代わったようやった。

    「あのさア直哉、ネコカフェって行ったコトある?」
    「はア?ワザワザ金払て何で畜生小屋行かなアカンねん」
    「ネコは置いといてさ、最近のネコカフェって、ワークスペースを兼ねてるトコロも多いンだよ。近場のをリストアップしてあげるから試してみたら?そのオッサンもアレルギーってンだからネコカフェには来ないでしょ」
    「ハア…………」
    「ぶっちゃけ直哉が来ると悟がハシャイじゃって仕事にならないと思うンだよね笑 迷惑だからさ~頼むよ笑」
    「自分ホンマエエ性格しとンな」

    電話を切ってコンビニの喫煙所でタバコ吸って待っとったら、傑クンからリストが届く。
    とりあえず、一件目から見るだけ見てみるか。
    ほんで難癖付けて悟クンちに転がり込も。大体悟クンのメンドー見るンは傑クンの役目やん。他人のせーにするのどうかと思うナア。
    店のホームページを開き場所を確認する。
    ウン。元々使ってた店のスグ近くやし、チョードエエな。
    完全会員・予約制らしいが、空きがあれば当日予約も可能。
    料金は…………ハ?三十分千円?ワークスペースの二倍なんやけど……。
    別に金の心配なんかしとらんケドも、何や畜生の分際でズイブン舐めたショーバイしとるやん。店の名前は、【保護ネコ・獣人カフェ mofa】…………………………………………もふぁ?(直哉の背景が宇宙になる)









    「いらっしゃいませぇ♪初めてのご利用とのコトで~、ご説明させて頂きますゥ♪」
    「ドーモ…………ワークスペースとして使えるって聞いたンやケド」
    「モチロン可能ですよぉ~♪」

    やたらアイソのエエ店員のオンナの説明をテキトーに聞き流し、ロッカーにコートやらを預ける。仕事用のカバンだけ持って手を洗ってからフリードリンクをとりに行くと、やけに本格的なコーヒーサーバーと多種多様の豆が用意されとって目を剥く。

    「オーナーのシュミでぇ~す♪」
    「ア、ソオ……」

    案内された先のトビラに手をかけると、ネコの逃亡防止のために引き戸はやけに重たく、ユックリと開いた。

    「クッションのフロアではスリッパは脱いでご利用下さぁい♪」

    入口から入って左右を見ると、ミギがフローリング、ヒダリがクッション敷きになってて、平日の昼間なのにソコソコヒトが入っており、比較的空いとるのはヒダリのクッション敷きのホーやったので、スリッパを脱ぎ空いてる円形のテーブルに荷物を置きカベを背に座り込む。入り口が視界に入るしウシロからヒトが来んので集中出来てちょうどエエ。
    モチロンネコ畜生にキョーミなどナイオレは、ノイズキャンセリングイヤホンをつけスグサマ仕事に取り掛かった。










    しばらく集中してPCを見つめていたが、キリのイイトコロで一時中断する。この後の段取りをアタマん中で組み立てながら、スッカリ忘れて冷え切ったコーヒーにクチをつける。

    「ウマ……」

    ナゾのコダワリ……。

    「!」

    コーヒーを啜りウデをマウエに伸ばしストレッチしとった。急に四方をカベに囲まれたような息苦しさに見舞われる。明かりが遮られ、急に夜にでもなったかのように錯覚し、ようやく目の前を見上げると、大木のようなオトコがノッタリと真ン前を横切っとる途中で、オレは思わず息を殺し、ソイツが通り過ぎるまで目を離すコトも出来んかった。

    オトコが通り過ぎ、ようやっと遮られてた明かりが戻ってきて詰めてた息を吐きだす。
    見ると、オレのミギからやってきたソイツは目の前をタダ通り抜け、フローリングのエリアにあるマドギワのソファに寝転がり大アクビをしとった。
    仕立ての悪い着流しで、カタウデを抜いてフトコロにチョイと引っかけとる、ヤクザモンのような振る舞い。まア、ウチの親父も似たようなモンやが。
    太陽をバックにしたシルエットをマジマジと見つめとると、ユランユランと背後から何かが飛び出した。…………シッポや。
    ようく見たら頭上にはフタツのサンカクが並ンどって、時たま角度を変えてさり気なく周囲の音を聞いとるようやった。

    獣人…………。

    畜生如きに気圧された、フシギとその感覚はない。
    タダひたすらに見つめていると、ソファに寝転がるソイツの前に別の客が立ち、スガタが見えんくなる。
    ハッと時計を見ると、予定の時間をオーバーしとって、ムリヤリ切り替えて仕事を再開した。案の定、チャットにメッセージが溜まっとって舌を打つ。
    意識的にさっきの出来事をアタマから追い出し、キーボードを叩いた。
    またシバラク集中しとると、フイにテーブルが揺れ、キーを打ち間違える。向かいに他の客でも座ったンか、そう思いイライラとバックスペースキーを連打しながら視線を向けると、テーブルの上に大柄のオトコが乗り、コチラをジィと見下ろしとった。

    「ハ!?」
    「ナァン」

    さっきの獣人や!

    ダラダラウットーシー前髪と、ボッとした半目、獣人特有の上がった口角、そのミギハシにはピッと茶碗が欠けたみたいなキズがある。
    シバシ睨み合いを続けとると、ソイツが目を逸らさんままに、テーブルの上の紙カップをスイ、スイとマエアシで突いて移動させとるのに気付く。
    冷えたコーヒーがほんの少し残っとるだけやが、好きにさせとくのも無性にハラが立ちカップを取り上げた。

    「ナァァン」

    オトコは、…………ネコは抗議するように大きく鳴き、オレの手許を見とる。

    「アア?何ガン飛ばしとンじゃ……つーか降りろや。ジャマじゃ」
    「ナァァンッ」

    マスマス大きな鳴き声で責められ、引き摺り下ろしたろかと考えとると店員のオンナが近付きネコを宥めるように話しかける。

    「アラアラ“とうじちゃん”、お仕事のジャマしちゃダメですよぉ~♪」
    「“トージチャン”ン~?」
    「はぁい♪この子のお名前でぇす♪」

    お名前教えてあげようね、とガキにするみたいなシャベリ方でオンナは着流しに貼られた布の名札を見せつけてくる。
    甚大の甚、卒爾の爾でトージ。

    「ネコのクセに、ケッタイな名前やな」
    「この子は“獣人”で~す、ネコちゃんとは違いま~す」

    急に早口で一息に言い切られ一緒やろボゲと悪態を付きたくもなったが、メンドクサイフンイキを感じシカトするコトにした。

    「早よ退けてくれへん?仕事にならんのやケド」
    「キーボードが気になるのかな~?とってもキョーミシンシンみたいですね♪」
    「オイ聞けや。コイツコーヒーひっくり返しそうでジャマやねん。ドッカ連れてけ」
    「とうじちゃんはぁ~、お客様のドリンクを飲むのが好きなんですよぉ~♪コーヒーが冷めたのを見計らってオネダリしにくるんですゥ♪」
    「ハア?ネコにコーヒーなんか飲ませてエエんか?」
    「“獣人”はぁ、ニンゲンの食べ物は大抵食べれま~す♪」

    ニコ!ニコ!ニコ!と圧を掛けられる。どうやら、このクソネコを退かす気ィはないらしい。ホスピタリティゼロか?レビュー☆1でボロカス書いたるから覚えとけよ。
    片手に持ったカップに残るコーヒーは僅か。この程度で追い払えるなら、サッサくれてやって新しいアツアツのコーヒー淹れたホーがオレにも得か。
    プラのフタを外し、テーブルに置く。
    ネコは待ってましたとばかりに紙カップにハナサキを突っ込みペロペロとコーヒーをナメ始める。時折ベロがカップにぶつかりジャリジャリと音が鳴る。
    コーヒーを入れようと席を立った。

    「あっお客様!カップの持ち込みはオヒトリ様オヒトツマデとさせて頂いておりまぁす♪」
    「今コイツが使てるやん」
    「ハイ♪ですからぁ、とうじちゃんが飲み終わるまでお待ち下さいね♪」

    ネコファーストにもホドがある。
    早よ飲み終われと念を送った甲斐もあり、ネコはややあってカオを上げると、満足げにクチの周りをペロペロと舐めた。
    今度こそとカップを手に取ると、チャプンと手許で音がする。傾けると、ホンノ少し残ったコーヒーが揺れた。

    「捨てる場所はありませんので、飲み残しはゴエンリョ下さ~い♪」
    「アア?じゃあどないすんねんコレ」
    「飲み切って頂くしかありませんね♪」
    「自分正気か?ネコがナメてんねんぞ?」
    「“獣人”です♪」

    ~~~ざっ、けんなや!!

    「オイコラ!クチィ付けたんなら最後マデ飲まんかい!!」
    「クンクン……」
    「ニオイ嗅いどらんで飲めや……!!」

    クソネコは、突きつけられたカップのニオイは嗅げど一向に飲もうとはせんかった。

    「ネコ獣人はぁ、マズルが短いから奥マデ舌が届かないんですよねぇ♪きゃ♡カワイイ~♡」
    「まずるゥ?」
    「オハナの長さのコトですゥ♪ネコちゃんだったら、オカオが小さいから最後まで飲み切れるんですけどね~♪」

    ハナが低いと飲み差しを他人に押し付けられるいうんか!?
    大体ハナはそないに低くないやろ!キアイが足らんねんキアイが……。
    別に、新しいコーヒーなんか飲まれへんでもエエ。エエケドも、冷え切ってなおあのウマさ、淹れたての状態ならさぞ味わい深く感じるコトやろう……そう思うと……。

    「………………………………ナア、コイツらってケツのアナ舐めたりする?」
    「しません♪」
    「グッ……!」

    淹れたてのコーヒーはとてもウマく、アツアツのウチに冷えんウチに、またあのネコに目ェをつけられんウチにイッキに煽った。
    コーヒーでアタマを切り替えていざ仕事を再開といったトコロで、またしてもジャマが入る。モチロン、あのデカイネコやった。
    今度はテーブルには乗らんとマヨコにピッタリと巨躯を寄せ、アタマをズリリと肩に擦り付けてくる。オレはバックスペースキーを三回叩く。シカトして仕事を続けた


    「ンナアアアアアンッ!!」
    「ルッサ!!何やっちゅうねんヒトのミミモトでェ!!」

    ゼロからイッキにヒャクまで音量を上げたような喧しいコエで鳴き、オレのスラックスに乗り上げてきた。
    ズリリ、ズリリとアタマを擦っとる。よお見ると、ミミの毛ェがベッタリとスラックスに付着しとった。

    「~~~ざっ、けんなや!!毛だらけやんけッ」
    「ナァアアアン」
    「早よ去ね!!」

    ミッチリ肉の詰まったカラダは、よかそうとしてもピクリとも動かん。
    スラックスのイロはグレー、コイツの毛色はクロ。メチャクチャ目立ちよる。

    「コーヒーならもうないで、他の客ントコ行けや」

    紙カップを逆さに振ると、ピッとヒトシズク残ってたコーヒーの粒が落ちて、ネコはソレをペエロリと舐め寝転がった。

    「~~~~~ッ!!」
    「アラアラ、お腹が空いちゃってるみたいですね~♪オヤツが欲しいからオヒザに乗ってオネダリしてるんですよぉ♪」
    「オヤツゥ?」

    オンナはオレのウシロのタナをユビさす。クビを回すと、ソコにはガキの好きなカプセルトイ、イワユル“ガチャガチャ”があり、表面のパネルには解像度の低いネコの写真とヤボッタイフォントで、“ネコちゃんのおやつ”とプリントされとった。“一回百円”とも。
    コレを、オレに回せ言うンか…………?
    ニコ!と圧をかけられようとも、オレのプライドに賭けてこないなモンガッチャガッチャさして堪るかい!

    「ア~~オレ、現金持ってないから。ココん支払いも、カードでするし」
    「そうなんですかぁ」
    「ナアアン」
    「“ネコちゃんキャンディー”でしたら、ご帰宅時のお支払いでご購入出来ますよぉ♪」

    またしてもユビさしたンは、入り口ヨコにある小型の冷蔵庫。上にグレーのネコが寝そべっとる。トビラはガラス製で中が透けて見えとる。ゴルフボールくらいの大きさのキャンディーが棒に刺さったモンで、白と茶色の二種。トビラには“ネコちゃんキャンディー”“数量限定五百円”と貼ってある。

    「あ~あ~あ~モオ何っでもエエから、早よコイツよかしてくれや」
    「伝票お預かりしまぁ~す♪」

    ボトッ、ボトッと鈍い音がして、何やと思い目をやると、ネコがブットイシッポで床を叩いとる音やった。クネンクネンと下ろしたり上げたり、骨の入ってなさそうな動きをするシッポを見とると、“トージ”は視線に気づいてヒト鳴きし、オレのウデにシッポを絡ませてきた。

    「オレに媚びンなや」
    「……………………」

    イライラしながら凄むと、案外聞き分けよく、“トージ”はシッポを離した。そしてヒザの上で引っくり返り、オレを見上げる。
    テーブルの影から覗くギラリとしたダークグリーンのヒトミは、明るいトコロで見るノー天気さがなりを潜め、暗く剣呑な気配を放つ。ゾクリ、と背筋を何かが走り、また目ェが離せんくなる。

    「お客様ぁ、オニク味とオサカナ味、ドチラのキャンディーになさいますゥ?」
    「っ、ドッチでもエエわ、そんなん……」

    オンナのコエでハッとワレに返り瞬く。再びネコを見ると、マエアシでカオをゴシゴシと洗い転がったまんま。

    「とうじちゃんはぁ、オニクのホーが好きなんだモンねぇ~♪」

    そう言って戻ってきたオンナの手ェには、色濃い茶ァの棒付きキャンディーが握られていた。
    コレでようやっと解放される、そう思いキーボードに手を添えると、ヒザの上のネコがグネグネ動いて大声で鳴く。

    「ンナァアアア、ンナァアアア!」
    「ハア?ルッサイな、早よアッチ行け。エサ持ってンで」
    「エットォ、お客様ご自身であげて頂くモノなんですがぁ」
    「………………………………ハ?」

    ズイ!ズイ!ズイ!とキャンディーを突き付けられ、マジマジと見る。キャンディーは、ネコのコブシのカタチをしていて、肉球まで再現されている。
    …………………………ゼッタイイヤや!

    「アンタがやればエエやろ」
    「ネコちゃんも獣人ちゃんもぉ~、ちゃあんと“待て”の訓練をしてますから、お客様の手からじゃないと受け取りませんよぉ~♪」
    「まぁずテーブルに乗らんシツケをせえ!!」

    引く様子のないオンナからシブシブキャンディーを受け取る。イヤや……オレがこないなモン持たされるなんて……誰かに見られたらコロスしかない。
    ネコは、オレがキャンディーを受け取った途端目をランランと輝かせ起き上がり、忙しなく舌なめずりをし出す。
    巨体を支える手ェをオレのフトモモに置くと、ズッシリ体重が乗りシビれる。…………手?
    片手をとり、棒を握らせる。獣人とは言うがニンゲンのモノとそう違いはなく、ツメもネコのように尖ってはいないし肉球もない。そのままクチモトへ寄せてやると、ネコはひとりでにペロペロと舐め始めた。

    「ヨシ」
    「お客様ぁっ困りますゥ~!獣人ちゃん達には手を使わせないよう気を付けてるんですからぁ!」
    「何でや。自分らァで何でも出来るホーが手間かからんでエエやろ」
    「イエイエ♪自分達じゃ何にも出来ないホーが、カワイくってイイんですよぉ♪」
    「……………………」

    オンナはネコからキャンディーを取り上げて、再びオレに渡す。ネコはすかさずオレの手ェにカオを寄せてペロペロとキャンディーを舐め始める。その表情にはキャンディーを取り上げられたコトへの不満も疑問もなく、コレが“飼われる”言うコトかと怖気が走る。このネコがこない環境でのうのうと、こない扱いを甘受していることにハラが立つ。
    スイッとキャンディーを取り上げウデを高く上げた。

    「ンナアアアアッ」
    「アダッ」

    すかさずオレの肩とカオを踏み台にキャンディーを追いかける。

    「お客様、トージちゃんと遊ぶのがとってもジョーズですね♪」
    「コレ、いつまで続くん?」
    「ん~と、大体十分くらいで食べ終わると思いますよぉ♪」
    「ジュッ……、」

    オレは上げとったウデを下ろし、片手でキーボードを叩き始めた。

    「なア、コーヒー……」
    「セルフサービスでぇす♪」

    こないメンドクサイ目ェに遭うたにも関わらず、オレはその日から、ワークスペースとして【保護ネコ・獣人カフェ mofa】に通い始めた。
    傑クンの言う通り、あのネコアレルギーのオッサンは三日経っても四日経っても現れへん。
    あのネコ……トージクンは、コーヒーを狙ったりオヤツをネダルとき以外は基本的に大人しく、ドッシリと、オレの背後に寝そべり陣取る。聞くところによると、フダンはどのネコも登れん高台にて、入り口をジィと見張っており、金を持ってる常連が来ると素早くトタタンと降りてくるそうや。
    そして金を持ってる常連認定されたオレは、まんまとカモになっとる。
    今では、キャンディーを小指と薬指に挟んで両手でタイピングする術を得た。トージクンはチョコマカと動き回るキャンディーを追いかけるのすら楽しんで、ザリザリと音を立て棒になるまで舐め回す。
    コーヒーは、淹れてスグ飲むを徹底しようとしているが、仕事に没頭して冷え切ったのンをタマに見つかる。
    キリのイイトコロで休憩を挟もうと、集中を解いて背中を反らす。ズム、とウシロにおるトージクンに体重がかかるが、ビクともせん。
    普段通り、アタマん中で段取りを組む。

    「あのぉ、お客様ぁ、ちょっと宜しいですかぁ?」
    「アア?」

    初来店からミョーに絡んでくる店員が、珍しくしおらしい様子で声を掛けてくる。いつもなら、店中に通るようなバカデカイコエもナリを潜めており、メンドーなニオイを感じた。

    「実は…………このお店、潰れるコトになって」
    「ハ?」
    「シーーッ!まだナイショなんですから!」

    ホナ、何でオレに言うんや、このクソアマ。
    遠回しな物言いは、するんは好きやがされるんはウットーシイ。

    「だから何なん?」
    「お店のネコちゃん、獣人ちゃん達の、異動先を探してるんですケド……とうじちゃんだけまだ決まってなくってぇ」
    「何で」
    「トライアルで他のお店に行かせてみたんですけど、カラダが大きいからか元からいるネコちゃん達が怖がっちゃうみたいで……」
    「ふうん」
    「お客様ぁ~…………」

    イヤな予感的中や……。

    「あンな、別段必要もナイから言うてへんかったケドも、オレ別に、ネコ好きでココに通っとったンとちゃうねん」
    「ソレは、見てたらわかりますケドぉ~」
    「ホナ、オレの言いたいコトもわかるな?」

    モゾモゾ、と背中でトージクンが寝返りを打つ。その拍子に、ブットイシッポがバシーンとオレのガンメンを強かにぶった。

    「………………………………」
    「ホラぁ、こぉんなにとうじちゃんが懐いてるの、お客様だけですよぉ。フダンは、貰うモノ貰ったら、シバラク撫でさせたりはするケド、スグに手の届かないトコロに逃げちゃうんですからぁ」
    「そんなん、オレがコイツにキョーミナイのわかっとるからやろ。他の客もオレんトコには寄って来んしな」

    始めの内は、トージクンに釣られてオレのソバに座る客も居たモンやが、話しかけられるたんびに舌打ちしとったら寄り付かんくなった。仕事しとるん見たらわかるやろ……。
    ほンでこのネコはソレがわかっとったから、オレのウシロに陣取り悠々と毛繕いナドしていたワケで。イワユルビジネスライクな関係で、懐くとか懐かんとかそおいったハナシではナイハズや。

    「でもぉ、お客様が帰るトキは、アソコの出口が見えるトコロに登って見えなくなるマデ、サミシソーにお見送りしてるんですよぉ」
    「完ッ全に気のせーやろ……」
    「お客様はイッカイも振り向かないでスタスタ帰っちゃうからぁ」
    「ネコがサミシソーとかカワイソーとか、そんなんニンゲンが勝手にイロ付けとるダケやん」

    ソロソロ仕事再開せな。オレは残業も持ち帰りもせん主義やねん。
    座り直してPCに向かい、シッシと片手を振りオンナを追い払う。

    「…………獣人ちゃんはぁ、ネコちゃんと違って働く場所がいくつもあるんですよぉ」
    「オウオウ、ソラヨカッタやないか」
    「ウチみたいなカフェ形態のお店だけじゃなくってぇ、お客様のお傍にベッタリくっ付いて、カラダ中撫で回されたりとか、も~~っと濃いいコミュニケーションを求められるお店…………イワユル水とか、風とかもあるンですからぁ」

    水はトモカク(つーかココも水みたいなモンやろ)、風?
    畜生相手に発情するキチガイがおるんが中々ショーゲキやな。ホンマにオレと同しニンゲンなんやろか。そおは思えん。
    このアツクてオモイカラダが、金を払って好き勝手にイジり回される。

    「………………………………マ、働かざるモノ食うべからず言うしな。今までの環境がヌル過ぎたンとちゃうか」
    「ヒトのココロぉ~~!」
    「ハハ、あるある、あるから笑」

    店はイツまでかと尋ねると、クチビルを尖らせて今月イッパイだと言う。

    今月か。

    以前に傑クンから送られてきたリストさらって新しい店探さな。
    背中のアツクルシイネコ。
    きっとトージクン以上にデカくて図々しいネコはドコにもおらんやろう。今度はスラックスが毛だらけになったり、飲みさしのコーヒーを飲まされるコトもナイハズや。

    「………………コーヒーだけは惜しいのお」















    今日もキッチリ仕事を終わらせ帰宅する。
    スグに服を脱いでクリーニング集荷のダンボールに放り、シャワーへ向かった。アッツイシャワーをアタマっから浴びて、フロ上がりに呑むエビスに思いを馳せる。
    明日は休みや。
    配信で映画でも扱き下ろしながら楽しもうやないか。
    何かツマミはあったかと考えながらも、雑にアタマを拭いヒトマズヒト心地付くべく、ドッカリと革のソファに掛けた。

    「ンナアアアアッ」
    「ヒイッ……!?」

    転がるようにソファから立ち上がる。振り向くと何か大きな大きなカタマリが、ソファの上でモゾモゾと…………、

    「ンナッ!?」
    「ンナ?」
    「なんっでココにおるん……ッ!?」

    デッカイ図体を縮めてソファを陣取りうずくまるネコ。
    ダラダラウットーシー前髪と、ボッとした半目、獣人特有の上がった口角は愛嬌があるとか何とか言われとるがオレはそうは思わん。そのミギハシにはピッと欠けた茶碗みたいなキズがあり、“元ノラ”の育ちの悪さをアピールしてくる。

    コイツは【保護ネコ・獣人カフェ mofa】にて働いとった元・獣人キャストの“トージ”クン。年齢不明、おとこのこ、十二月三十一日生まれ。

    そう、元・キャスト。
    あのクソッタレのネコカフェは、今日をもって閉店、やったハズ。
    オレには関係あらへんと、朝から赴き、定時マデカッチリ働き、自宅マデの数百メートルタクシーへ乗り、マンション内のコンビニでエビスを買い、後はシャワーを浴びて今ココや。

    「ナァアアアッ」
    「喧しいッ!今考えとんねん、てか自分、どうやって入ったん……!?」

    トージクンはマエアシでローテーブルの上のコンビニ袋をガサガサ言わす。引っ手繰って中を改めると、チータラにカニカマ、カルパスといった、フダンのオレならまァず買わんツマミのオンパレード。
    パッケージが覗いた瞬間から、トージクンの鳴き声は激しくなり、オレは目先の安寧のタメ、チータラのパッケージを開けた。
    トージクンがクチャクチャとチータラを食べとるアイダに、ローテーブルに無造作に放られた紙の束に気づく。
    チータラを持ち替え、紙束を拾うと、ソコにはトンデモナイ文言が並んでおった。



    【保護獣人譲渡契約書】



    「ウソ!?」

    ギョウギョウシイお題目の下には、

    株式会社モフモフ運営【保護ネコ・獣人カフェ mofa】(以下、乙)は、禪院直哉様(以下、甲)の里親適性を認め、本日××年××月××日

    譲渡獣人 “伏黒甚爾”ちゃん
    誕生日  “十二月三十一日”
    年齢   “推定××”
    種類   “MIX”
    性別   “おとこのこ”
    毛色   “黒”
    特徴   “長毛、クチモトにキズ”

    を正式譲渡致します。

    と続く。
    その後もツラツラツラと、目の滑る細かい字ィで、ネコの譲渡に関する規約が書き連ねられていた。
    所有権、返還請求、近況報告、ネコの健康管理、ワクチン接種、健康診断、室内飼育、衛生管理…………今までの人生においてまるで縁の無かった言葉が飛び交い、オレはメマイを覚える。
    契約書のイッチバン下には、キッチリ署名捺印があった。“禅院直哉”…………間違いなくオレの字ィや。

    「ムイシキに連れて帰って来た言うんか…………ッ!?」
    「ナ」

    ノー天気にクチの周りを舐めるネコは、アクビをヒトツしてフンとハナイキで返事した。

    「……………………もお寝よ」

    一旦落ち着け。冷静に考えれば何かしら解決策が浮かぶハズや。例えば悟クンに押し付けるとか。後はマア、悟クンに押し付けるとか。
    寝室のドアを開けると、目のハシを何かがモノスゴイスピードで横切った。

    ネコや。

    「オイゴラァッ!ベッド降りろ!ドーブツ小屋やないねんぞ!!」
    「ゴロゴロゴロ……」
    「自分フロも入ってへんやん!!最悪や~~ッ!!」

    ネコ畜生にベッドを穣るなんてゼッタイイヤやったから、デカイ図体を蹴ってズラしイジでベッドに転がる。トージクンはフマンソーにナンナン鳴いたが、モゾモゾ掛布団に潜り込み場所を調整すると、オレにケツを向けて寝息を立て始めた。着流しに開いたアナからブットイシッポが伸び、オレのガンメンを強かにぶつ。

    「ヴァッ、毛ェ入った!ペッペッ!」
    「ナオン」

    このまま寝て起きたら、このクチに入った毛ェも何もかも全て、なかったコトにならんやろうか…………。










    なるハズもなく、無情にも朝は来た。
    ザリ、ザリ、ザリ……頬がヒリヒリして目が覚める。クン、とハナを動かすと、サカナの生臭いニオイがした。

    「ドワアッ」

    飛び起きて、空に手をつき転げ落ちる。ひっくり返ったマタのアイダから、キョダイなシルエットが覗いた。ソ、空島?

    「ナアアア」
    「トージ、クン…………クサッ!?」

    舐められたカオを洗いに走る。ぬるま湯で何度擦ってもサカナ臭い……。
    トージクンは必死でカオ洗うオレに割り込み、流しッパの蛇口に舌を伸ばしヒチャヒチャとミズを飲んだ。白湯って。イシキタカイな。(※正確には白湯ではない)
    ノドの渇きをイヤシたら、当然次はメシの要求が来る。
    玄関先に倒れとった大きな紙袋を覗くと雑貨が様々入っておって、ソレゾレにフセンで説明書きがあった。
    “お気に入りのオモチャ”“お気に入りのタオル”“お気に入りのブラシ”……。そン中に、ジップロックに入ったネコのエサがあったのでソレを広告で折った箱に入れた。久しぶりに作ったなこんなん。
    トージクンは箱をカサカサ言わせながらエサを黙って食べ始めた。
    当面はコレでエエとして、早く引き取り手を探さな。
    オレは早速悟クンに電話を掛ける。

    「アッモシモシィ?悟クンネコ飼わへん?」
    『テメー…………今何時だと思ってンだボゲッ』
    「え~~~っと…………四時やね、朝のォ笑」
    『年寄りじゃねえーンだから寝とけッ!』

    トージクンに強制的に起こされたから時間を見とらんかった。
    毎朝この時間にザラザラの舌で舐められて起こされるンはゴメンや……やっぱ早よ悟クンに押し付けな。

    「あ~~~でさ、悟クン、飼わん?ネコ。好きやろ、ドーブツ可愛いがっとる自分」
    『切るから』
    「待って待って」

    追って説明すると、悟クンはフーンとキョーミナサソーに生返事で聞いてくれた。

    『ナサソーっつーか、ナイんだよ』
    「ソコを何とか~」
    『マア、オマエに生き物の命を預けるのはメチャクチャダメな気はする』
    「……………………」
    『傑が起きたら聞いてみるね』

    返答も待たず切りよった。
    悟クンの言いようは釈然とせんが、多分、傑クンも同し理由でシブシブネコを引き取ってくれるハズ。

    「少しでもミギレイなホーが印象エエよな」

    トックにエサを食べ終わりクチモトをペロリペロリと舐めるトージクンをカニカマで釣り、フロバへ誘導する。着流しの帯を解くと肌着ナドはなしに直接スハダに着ていたようで、ゴツゴツとしたムダのナイ肉体がスグに剥き出しンなった。
    上からツムジに降る視線がジリジリと。息を止めて見上げると、何度か経験した圧がまたもオレに圧し掛かる。その体躯は天井からの明かりを遮り、影の中でダークグリーンが光る。挑発的に笑っているように見えるが、コレは獣人の特徴のヒトツのハズで、畜生風情が、笑ったりナドするハズがない…………。
    湯が焚けたコトを知らせる甲高い音がして、ハッとする。立ち上がり、脱がせたボロの着流しをゴミ箱に放り込んだ。下着を脱がせウデを引いて浴室に一緒に入る。ペタ、ペタとトージクンのアシウラからマヌケな音が鳴る。店ではアシオトなんかせんかったのに。

    「…………ンウウウウウ」

    イッチョ前にシャワーを見て唸り出す。ニンゲンと同じくニホンアシで歩いて、食いモンを食い、ベッドで眠るのに、ネコと同じでフロギライらしい。
    メチャクチャイヤやったケド、オレの使てるシャンプーやソープで全身くまなく洗った。トージクンはずっとウウウと唸ってはいたが大人しく、毛ェを逆立ててたのでむしろい洗いやすかったように思う。
    フロから上がりタオルで拭こうとしたら、全身をブルブルブル!とイヌのように振るいオレをアタマっからビショビショにする。どころかユカもカベ何もかもに飛沫が飛び散りカオが引き攣った。

    「マジで、ヤメロ」
    「ナアン」
    「ホンマにわかっとンのかこのクソネコ!」

    バスタオルで乱暴に拭うと、抗議するようにンナンナ短く鳴きよる。
    ボロの着流しは捨ててまったので、オレのんを探して着せたらスネが異様に露出してハラ立った。それでも元着ていたドコの仕立てかもわからんボロキレなんかよりはヨッポドトージクンの身を引き立てておって、コレなら第一印象もイイコトだろう。
    カラダが大きいせーで洗うのにだいぶん時間が掛かってまった。もう起きてから二時間も経っとる。六時かア。

    「…………………………ヨシ!もう行くか!笑」

    仕舞い込んどる下駄を出しては見たモノの、カカトがハミ出して歩きづらそうやったので結局元のツッカケを履かせた。向こうも金に困ってるワケやないし、ちゃんとしたの買うてくれるやろ。
    車の後部ドアを開けて乗るよう促したら、勝手に助手席のドアを開けてシートベルトまで締めよった。自分、ナニが出来てナニが出来ひんのや。ゼッタイオカシイで。
    悟クンと傑クンのマンションまでは車で五分も掛からん。トージクンは、マドからカオを出して風を浴びたがり、オレは早朝の鋭い空気でカラダが芯まで冷え切った。
    エントランスにてポチポチポチとルームナンバーを打つ。
    七度目で傑クンが出て、名乗ると無言でカギを開けてくれた。
    部屋はオートロックやけど雑にサンダルが挟まれてドアが開いており、勝手に入れと言うコトと受け取りそのようにさせてもらう。ソファにトージクンを座らせ、キッチンでコーヒーを淹れた。トージクンはゲームをするのに買ったというアホホドデカイテレビの前に移動して映り込む自分を見ている。
    ガチャコと音がして寝室からボッサボサの傑クンが出てきた。

    「……………………」
    「オハヨウサン」
    「………………コーヒー………………」

    フダンなら他人にコーヒー淹れたりせんケド、今日は傑クンのキゲンを損ねるワケにはいかんからね。黙って傑クンの分のカップも取り出した。
    悟クンは育ちがイイのにバカ舌でアホホド砂糖やミルクを入れる。傑クンは味の違いは多少わかるようやがケチッてワンランク下の豆を買う。
    あのネコカフェ、コーヒーだけはウマかったなと思いを馳せる。オーナーがツテで入荷してるとかで豆の種類も知るコトが出来んかった……。

    「…………で。アレが、“ネコ”?」
    「ウン」
    「獣人じゃん…………」
    「そやね」

    傑クンはコーヒーをズズズと啜りシブイカオをする。

    「ハアーーー……………………」
    「そないにチガウかなア?ドッチもかいらしやん♡」
    「思ってもないクセに」

    傑クンはトージクンに近寄ると、立ってご覧と促す。トージクンはチランと視線を送った後、キョーミナサソーにソファに寝転んだ。ヤメロ。オレを見るなや。

    「ドコが可愛らしいってエ?」
    「ネコなんて、こんなモンやろ」
    「知らんケド?」
    「笑 そおね笑」

    傑クンは寝室に戻り悟クンを呼んできた。
    悟クンは大アクビかましながらカオを出し、キョロキョロとネコを探しているようやった。クチでは文句言うとったケド、ガキやからコーキシン旺盛やねん、悟クンは。
    チョイチョイとソファをユビ差すと、覗き込み、ポカーンとクチを開けてスス、と後退していった。

    「ウソじゃん!!」
    「イヤイヤイヤ…………」
    「デケ~~ニンゲンじゃん!!」

    コネコでも期待しとったンかな?

    「なア、エエやろ?飼ったってよ」

    オレが両手を合わせてオネガイすると、傑クンは親指で額を掻いた。
    悟クンはまたトージクンの近くに寄って行って、何やら観察をしとる。めくれた着流しを直した。案外世話好きやモンな。傑クンに似たンかもせんな。

    「悟、どうする?」
    「エエ……デカすぎるだろ……イエが狭くなる」
    「ヘヤ余らしとるやん」
    「ちゃんとお世話出来るンなら飼ってもイイよ」
    「オレが世話すンの!?」

    悟クンは頬を膨らませて抗議している。

    「フタリでさア、仲良う世話したったらエエやん。どうせ子供なんて出来ひん仲なんやから」
    「そおゆうデリケートな部分にヨク踏み込めるな」
    「カス」

    何やら最後のが決定打になったらしく『生き物の命を預けられない』と言う理由でブジトージクンを引き取って貰えるコトになった。
    カフェから貰った書類やら雑貨やらは後日持ってくるとして、ヒトマズオレは、トージクンを置いてマンションを去った。

    なんたる解放感…………。ホラ……朝陽が輝いて見えるよ。

    あのフタリの言うコトを認めるンはシャクやが、やっぱオレにネコ飼うなんて土台ムリなハナシやったんや。ソモソモ、他人との暮らしがムリ。オレ、自分の時間大切にしたいタイプやモン。
    車を走らせてまた五分。駐車場にて降車した瞬間に着信が入る。

    『あのネコ逃げた!!』
    「早ない!?」

    聞くと、目を離したスキにベランダのマドを開けてソコから抜け出したらしい。あっこ二十五階ですケド!?
    ネコにはチップが埋め込まれとって、どっかしらで保護されるとソコから情報を取得出来るらしく、オレの方へ連絡が来るそうだ。
    ただ、譲渡されたネコなんかはプラスで譲渡前のカイヌシにも連絡が入るらしく、こんままやったらあのネコカフェにも逃がしたコトがバレる。
    譲渡先に問題があると判断されたバアイは返還請求と言うモノが行えて、ネコは元いた場所に引き取られてまう。
    マトモな保護施設なら次のカイヌシを待つだけやが…………。
    水だの風だの、オンナの言うとったコトがミョーにアタマをヒツコク過ぎった。

    「……………………」

    電話を切り舌打ちをして駐車場を出る。
    サッキクルマで通った道を、今度は徒歩で戻った。途中ある公園や茂みをイチイチ覗きながら歩くンはまどろっこしくイライラが募る。
    休日の早朝、街にはイヌの散歩をしとるババアしかおらん。あないチンケなイヌ、トージクンならワンパンで殺せる。もしそうなったら、イヌネコのケンカで済まされるんやろうか?相手がニンゲンやったら?
    ニンゲンを襲った畜生は、殺処分と相場が決まっとる。
    通りがかるババア全員にデカイネコ見んかった?と聞くと、ミナイチヨウに同情するようなカオをする。脱走防止トビラをつけなアカンと説教垂れるヤツもおった。
    何人目かのアタマのワルソーなイヌ連れたババアが、デカイネコを見たかもと言うので公園のベンチ裏に走ると、ヨツアシのキッタナイノラネコがワガモノガオで寝そべとって、砂を蹴りかけたらクモの子散らすように逃げて行った。

    「クッソ…………!!」

    着信が入る。

    「おったか!?」
    『ウオッ、ビビッた……イヤいねえわ』
    「チッ!」
    『心当たりとかナイワケ?』

    昨日今日で心当たりなんてあるワケないやん。
    言い捨てると、イヌのババアみたいに憐みの滲む声で落ち着けと宥められる。ジューブン落ち着いとるし、オレを見下ろしてンなや……ッ!
    エサの袋を鳴らしながら歩いたら出てくるカモと言われ、一度帰路につく。その間も、左右の細い道を覗いたりババアに声かけたりしたがスガタカタチもナイ。
    エントランスでカギを取り出そうとして失敗しタイルに落ちる。硬質な石材を打つ音がイヤに気に障り、カベを蹴った。
    エレベーターん中でスマホを出し、ネコが逃げた時のコトを検索する。クルマやニンゲンを警戒して夜マデ隠れてるとか、元ノラは行動範囲が広いとか。
    その内に、事故やなんかのハナシも出てきて、オレは思わずスマホをとり落とす。
    悟クンはオレに落ち着け言うた。マサカ、オレが動揺してるンか?たかだかネコのイッピキに?
    トージクンはフツウのネコとちゃう。大胆やし、アタマがイイ。ニンゲンのコトバも、多分理解しとる。わからんみたいなタイドんトキはワザとや。
    ソレに、ベランダのカギを開けて二十五階から脱走したンやぞ。そないなコトが出来るネコが、クルマに轢かれるなんてドンクサイワケあるかい。
    たァだ、ケッコーされるがママなトコもある。ネコカフェで、ハラがくちくなった後寄ってきたガキに乗っかられたりミミやシッポを引っ張られてもイヤソーなカオでユカに転がっとったワ。
    畜生に発情するキチガイに見つかったら、もしかして、ついてってまうンやないか?
    ゾワゾワとセスジが寒くなるようなココチがして、焦燥感に駆られる。
    エレベーターのパネルを睨む。ポン、ポンと一つずつ上昇する数字がイヤにスットロク感じた。
    スマホを拾ってドアの真ん前で待つ。
    ようやっと目的階へ辿り着き、ドアに身を捻じ込むように降りて走った。ダンダンダンと大きな音が響く。エサ持ってもう一度来た道を戻り、それでも見つからんかったらサッキ見たネコ探しの専門家に依頼する。それでも見つからんかったら…………?
    仕事のようにアタマん中で段取りを組み立てるも、ソコから先が何も浮かばん。
    フロアを左折して自宅を一心不乱に目指す。
    すると、家を出たときにはなかった黒いゴミ袋がドアの目に放置されとる。全く心当たりのないソレがモソリと動いて…………、

    「ナン」
    「!?」

    ゴミ袋ちゃう!
    丸まったネコやんけ!!

    「自分何しとんねんゴラ!!」
    「ペロペロ……」
    「毛繕いしとるバアイか!!」

    オレが怒鳴っても気にも留めず、ノン気に舌を出しっぱなしにしてコテンとクビを傾げるネコ。でもよお見るとカオにススみたいな黒ずみがあって、アタマにはハッパが付いとる。ウシロアシ、ベランダから逃げたせーかハダシのままや。

    「…………………………何ッでココにおんねん……」
    「ナ~ン」

    立ちんぼしとるオレのアシにシメタとばかりにアタマを擦り付けるトージクン。ハッパがピラリと落ちた。でもマダマダようさん付いとる。オレはそのイチマイイチマイを摘まんで放り、毛並みに沿ってアタマを撫でてやった。テノヒラに強くぶつかるようにアタマを押し付けられる。

    「…………………………」
    「…………………………」
    「………………クモの巣ゥ!!」

    ユビに引っかかる不快な感触に思わず手を離すと、トージクンはアシにターゲットを変えてスリリ~スリリ~とクモの巣をなすり付けられる。
    ドアを開けてその場で待つよう言いつけ、アシを拭くタオルを絞って戻ると玄関にスガタはなく、リビングのソファに早速ヨコんなってゴロついとった。

    「アホネコーーッ!!」

    ズリズリと巨体をフロ場に引きずって行くと、ブットイシッポをテン!テン!と振り回してイヤそうなカオをした。そらそうや。今日二回目やもんな?でも自業自得やからな!?
    ザンザンシャワーをかけたらミミが一生パタパタ動いとる。テノヒラでカオを擦る。イチオー大人しく洗われとるが、フマンですとオレを睨む目つきは変わらん。
    またカラダをブルブルッとされてカベやユカを拭かなアカンのはゴメンやから、フロ場にタオルを持ち込んだ。しかしタオルを広げた瞬間にブルブルブルー!と振われて、オレがアタマッからビショヌレになるンは防げんかった。

    「自分エエカゲンにせえよ」
    「ンナンナンナンナン…………」

    タオルをおっ被せてガシガシ拭う。
    ネコと自分とを着替えさせ、ようやっと落ち着く。ソファに脱力して横たわる…………なんかジャリジャリ言うとるが。忘れとったが、さっきアホネコがドロだらけのまんまころがとったンやった。ウンザリしていたらムネの上にノシリとトージクンが乗っかる。

    「ペロペロ……」
    「…………………………」
    「ペロペロ……」
    「ヤメロ!!舐めンでエエねんオレは!!」

    聞いちゃいないトージクンのザリザリの舌で頬や耳を舐められ、漂う生臭さにエサを変えようと決意する。スグサマ検索しようとスマホを手に取ると、悟クンから鬼のような通知が届いていた。内容はドレもネコが見つかったかどうかナドで、一言、【家に居った】と送信する。スグサマ既読がつく。
    ウルさく追求される前にラインを閉じようとして、少し考えてもう一言。
    それでスマホを放り、トージクンに手を伸ばす。ミミを揉むように撫でてやると目を閉じてドルルンドルルンとノドから異音を発し始めた。
    ノーテンキなそのカオを見とったら何やチカラが抜けて、何でもエエかとオレも目ェを閉じる。するとムネの上の重みと高い体温でネムケがイッキに襲ってきた。考えてもみたら今日オレ四時起きやねん。
    起きたらまずエサを買う。ソレから着るモンと、あとベランダ開けれヘンよう何かしら対策して、朝ベロベロ舐められて起こされんようケージ設置せな。





    起きてから調べたら、エサと着るモンはニンゲンと同しで大丈夫やったし、ベランダには勝手に出るモノの外へはヒトリで行かんようやったので放っておいた。
    たァだネドコだけはナンベン用意しても、ケージに入れてシッカリカギをかけても、朝ンなるとオレのベッドで寝ておって、オレは結局根負けしてキングサイズのベッドを買いなおすコトにした…………。
    オレは毎朝四時に起こされ、ネコと自分との分二杯、コーヒーを用意する生活をしている。






























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