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    rai

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    rai

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    ドラロナ ♀+ヒヨ  妊娠逃亡
    仮にロナルド♀の名前をヒカリにしてます。

    #ドラロナ
    drarona
    #女体化
    feminization

    ドラロナ ♀+ヒヨ 吸血鬼相手に妊娠なんてそうそうしないと思ってた。
     馬鹿だ。半田みたいなダンピール、この街じゃ珍しくもないのに。

     体を重ねたのは一度だけ。それも睦み合いと言えるほどのものではなく、売り言葉に買い言葉。いつもの喧嘩の延長線上のようなセックスだった。
     ロナルドは誰ともそういった行為をしたことがなく、途中までこの行為が"そう"だとはわからなかった。
     気づいた時には後戻りできなくなっていて、でもこいつとなら悪くないか、なんて思ってそのまま流された。
     上背が負けているとしても、体重も筋力も己の方が上回っている。止めようと思えばいくらだって手段はあった。それでも受け入れたのは好意があったからに他ならない。普段悪態をつきつつも、随分とこの吸血鬼に絆されていたらしい。

     初めて感じる未知の快感に興味がなかったと言えば嘘になる。経験のなさをコンプレックスに感じていたし、派手に受け取られる見た目から軽くみられる事もしょっちゅうあった。だけれど今まで彼氏がいたことはおろか好きな人がいた事すらない。
     だけど、突然押しかけてきたこの吸血鬼と共に過ごすうちに、恋人とは、家族とはこういうものなのかも知れないと思うようになった。高校卒業後すぐに家を出てからずっと一人で暮らしてきた。美味しそうなご飯の匂いのする、電気のついた明るい部屋に帰るのは久しぶりだった。かつて兄と妹と三人で暮らしていた時と同じような、騒がしいながらも楽しい生活。
     
    でも、だからって。こんな事になるだなんて思ってもみなかった。過去に戻れるならあの時の自分を殴ってでも止めたい。避妊もしないで性行為をすれば妊娠する、なんて今時小学生だってわかる事なのに。

    行為が終わってまず一番にした事はドラルクを殺すことだ。朦朧とする意識の中、気持ちよさと、倦怠感と、今の行為に対する反復でパニックになって、目の前のドラルクを殴り飛ばした。
    ナスナスと再生したドラルクに文句の一つでも言ってやろうと口を開くがそのどれもが言葉になる事は無かった。かわりに流れたのは涙だ。なんで自分が泣いているのかもわからない。嫌だった訳じゃない。経過はどうであれ受け入れたのは自分だ。破瓜の痛みも、いつも受けている怪我に比べたらどうってことない。それでもなぜか涙が溢れた。ソファベッドの上で裸のまま、小さな子供みたいに顔を覆って泣くロナルドにドラルクは「ごめんね」と謝った。
    「謝るくらいなら最初からするなよ、ばか」嗚咽交じりになんとか零す。その小さな声をドラルクは閉じ込めるように抱きしめて拾い上げた。
    「ロナルド君、好きだよ。順番が逆になっちゃったね。私と付き合って」
     いつもの軽薄さからは想像もできないくらい真摯な瞳で言われた。涙を拭ってくれるドラルクの細く節くれだった指がいつもより優しくてその言葉に偽りがないと思った。だからコクンと小さく頷いた。
     
    付き合うことになった。もともと世話焼きの甘やかしたがりのドラルクは、それはそれはロナルドをお姫様のように扱った。今までの煽るような言葉はなりを潜め、砂糖菓子のような甘さをもって接してきた。最初はなにか企んでいるのではと怪訝に思っていたが、一向にそんな素振りは感じず、これが恋人同士の甘やかさなのかと、少しのくすぐったさと充足感によってロナルドは満ち足りた日々を送っていた。

    だけど、性的な接触は、子供みたいなキスだけ。あの夜の性急さは一切感じられなかった。並んでソファに腰かけて、テレビを見ながら、手と手が触れ合う。視線が交わって、甘やかすみたいな、優しいキスが降ってくる。しかしそれだって、唇よりも額の方が多いくらいだ。ジョンにするのと変わらない、親愛を込めたそれに少しの物足りなさを感じながらも自分からなにかアクションを起こすことはなかった。なにせ経験値が圧倒的に足りないので。最初は喧嘩の延長戦だった。それがなくなった今、切っ掛けもつかめない。

    もともと吸血鬼は性的衝動が強くないのかもしれない。それに加えてドラルクは殆ど血液を摂取しない。人間と同じであるならば三大欲求の食欲が低いなら性欲も薄いのでは?
     それか、自分に"二度目"に至るだけの魅力がないのか。公言していた「うら若き処女の生き血」「綺麗なうなじの女の子」が好きだって。

    ──処女じゃなくなった、私にはもう魅力がない?
    うっかり手を出して、責任を感じて付き合おうと言っただけ? でもそんな気にはならない?

    幸せな気分と、鬱々しい気分が交互にきて、心がちぐはぐだ。そう思っているうちに体調がなんだか悪い気がして、嫌な予感がした。
    ドラルクと暮らすようになって美味しい料理に以前よりも規則的な生活。不順だったそれは毎月決まって訪れていたのに。
    そんなことあるはずがないと思うのに、不安になってわざわざ3駅隣の普段行かない薬局でそれを買った。

    説明書に沿って使用すれば結果は陽性を示している。

    え──?

    最初に思ったのは「どうしよう」だ。

    相手はあの享楽主義者のクソ雑魚砂吸血鬼だ。子供ができることなんて、きっと考えてもない。新しいおもちゃができたと喜ぶ?
    それとも、そんなつもりなかったって、迷惑がるだろうか。
    どちらにせよ、衣食住の全てを管理してる相手に、いつまでも隠し切れる訳がない。人間の機微に敏感で、ちょっとした不調もすぐに感じ取る。気持ち悪いけど生理周期だって把握されている。いつ気づかれたっておかしくない。

    堕ろすなんて選択肢は初めからなかった。だけど、このままでは退治人の仕事もいつまで続けられるかわからない。
    仕事着に着替えもしないで普段着ているジャージのまま、ふらふらとした足取りで向かったのは新横浜警察署吸血鬼対策課。

    「ロナルドォ!! 」
    「半田。あ〜……隊長さん、いる? 」
    対策課前の廊下で、会いたくないやつに見つかってしまった。常日頃からありえないくらいの執着で絡んでくる厄介な奴。高校からの付き合いの半田だ。だけど今は相手にできる気分じゃない。常とは違う態度を半田も感じ取ったのか、セ……で攻撃に及んでくることはなかった。
    「貴様……」
    何かを言おうと口を動かしたがぐっと噤む。本当に踏み込んでほしくない所には入ってこない。こういう線引きがきちんとできるから、長年友人でいられるのかもしれない。

    ちょうどその時ヒヨシが出てきた。

    「おぉ、ロナルド。こっちに来るなんて珍しいの」
    「あ、あに……隊長さん。ちょっと耳に入れときたいことが、あって」
    「ん? 極秘か。こっちに来い。半田人払いを頼む」
    何かを感じ取った兄はすぐに半田に指示を出すとスタスタと歩き出す。ヒヨシのあとをついていけば無人の会議室に連れていかれる。鍵はしっかり閉められた。誰にも聞かれることはない。椅子に座るよう促され、ペットボトルの茶を出される。

    「なにがあったんじゃ? 」
    側に立ったヒヨシに問われる。なにも言っていないのに、兄には全てお見通しらしい。仕事の時とは違う、幼い頃と変わらないその優しい兄の声に涙腺が崩壊した。
    「にいちゃ……わたし、どうしよ」
    幼い頃の呼び方で、兄を呼ぶ。この人の前では自分はいつまで経っても小さな子供なのだと錯覚する。両親のことをほとんど覚えていないロナルドにとって、兄はいつでも家族の全部を教えてくれた。父のようなおおらかさと、母のように慈悲深い兄はいつでも己を正しい方向へ導いてくれる。
    「ん? ゆっくりでいいからにいちゃんに話してみ」
    そう言って膝をつき、ロナルドの後頭部を撫でて、目線を合わせる。子供の頃、泣いて癇癪を起したロナルドを宥めてくれた時と同じ、暖かくて大きい硬い掌。
    「……きたの」
    「うん? 」
    「赤ちゃん、できたの」
    「……?! 」
    小さく呟く声を聞いたヒヨシがあからさまに動揺した。
    「どうしよう。どうすればいい? 」
    ロナルドの態度から望んだ妊娠ではないことが分かったのだろう。矢継ぎ早に質問される。
    「相手は誰じゃ。ギルドの奴らか? 半田か? それとも、」
    ふるふると力なく首を振る。
    「ドラルクか」
    ビクッ
    一気に青ざめたロナルドに、相手が誰か分かったらしい。
    「……ふぅ」
    ヒヨシはひとつ、大きなため息をついた。
    「おみゃあはドラルクと付き合っているのか? 」
    ヒヨシの掌がロナルドの両肩に回る。しっかりと目と目を合わせられて、逃げられない。
    「……」
    付き合おうとは言われた。大切にされているとも感じる。でもそれが本当に恋愛感情なのかはわからない。それはロナルドの気持ちではなくて、ドラルクのことだ。この宙ぶらりんの状態は、胸を張って付き合っていると言えるのだろうか。でもそんなこと、この高潔な兄にはとても言えない。軽蔑されたら、どうしよう。
    きゅっと唇を引き結び、拳を膝の上で固く握る。
    「無理矢理されたんか? 」
    「……ちが、う」
    なんとか蚊の鳴くような声を絞り出す。しかし、それを聞いたヒヨシは扉に向かって歩き出す。

    「えっにいちゃんどこ行くの? 」
    「ヒカリ、にいちゃんにぜーんぶ任せい。なぁんも心配いらん」
    「まってまってまって! 」
    「なに、ドタマに銀の弾丸ぶち込んで塵を流水にまくだけじゃ。死にゃせんじゃろ」
    さすがかつての凄腕退治人、吸血鬼対策課のエリート。不死に見えるドラルクの殺し方をしっかりと見抜いていた。しかし、ここでヒヨシがドラルクの元へ押し掛ければ、妊娠したことがすぐにでもバレてしまう。
    「ドラ公に、知られたくない」
    「ヒカリ……」
    止まりかけていた涙が再び零れだす。それが止まるまで、兄は優しく抱きしめてくれた。身長はとうに追い越してしまったけれど、いつまでも兄の胸は厚く大きい。吸血鬼からはあまり感じられない、ぬくもりと、心臓の脈打つ音が聞こえた。


    ***

    その翌日の吸血鬼対策課はある噂でどよめいていた。
    「ヒヨシ隊長がロナルドさんと産婦人科から出てきたぁ? ! 」
    「え……それってつまり、そういう事……か? 」
    「可能性としてはそれが一番だけど……いやでも他に同伴者ありで産婦人科にいく理由ってなんだ? 」 
    「隊長……ついに退治人にまで手出したんすね」
    「ちょっと待てー! なぁに勝手なこと言っとるんじゃ」
    そこにヒヨシが入ってきた。噂話はヒートアップし、廊下まで丸聞こえだった。
    「あっ、ヒヨシ隊長。お疲れ様です」
    「ロナルドさんと病院行ったって本当ですか? 」
    「ロナルドが貧血でふらふらしとったからかかりつけっちゅう婦人科まで送ってっただけじゃ。下世話な勘繰りはやめぃ! 」
    「なぁーんだ」
    日頃の行いからか疑われたものの一応の潔白は証明できた。
    「いや、でもロナルドさんって実際隊長に気があるんじゃないの」
    「隊長いる時なんか張り切りよう違うもんな」

    実際は皆が想像する通りの理由だった。相手が自分ではないというだけで。
    さめざめと泣く妹を説得して産婦人科に連れて行った。「兄です」といえば不審な目でも見られない。なぜか周りには兄妹だと思われないが、もともとそっくりすぎるくらいの見た目だ。それでもお互い新横浜では顔が割れている。細心の注意を払ったのにも関わらず、誰かに見られていたらしい。多少強引にでも数駅離れた病院に連れていくべきだったか。しかし魔都新横浜ほど吸血鬼との妊娠の事例に慣れている所もない。市販の検査薬は100%ではないというし、こと吸血鬼相手の妊娠となればなおさらだ。しかし検査の結果はやはり変わらずだった。
    ますます青褪める妹を今は実家に連れ帰っている。ヒヨシからゴウセツに連絡し、しばらくロナルドを休ませると伝えた。もしドラルクが何かを聞いてきても居場所は伝えないで欲しいとも。
    旧知の中であるゴウセツは理由はきかず承知してくれた。深くは伝えなかったがきっと周りにも上手く誤魔化してくれるだろう。
     

    「ただいま」
    その日は定時でさっさと家に帰った。ただいま、なんて声を掛けるのはいつぶりだろうか。その理由は喜ばしいものでないにせよ、家で待ってる人がいるというのは嬉しい。
    「ヒカリ。調子はどうじゃ? 」
    「おかえりなさい、兄貴。もう、大丈夫」
    リビングのソファの上、クッションを抱いて小さくなっていたロナルドが起き上がる。そう言って力なく笑って見せるがその顔色は青いままだ。瞼も腫れて泣いていたのがありありとわかる。
    「その……ごめん」
    「なにに謝っとるんじゃ。それよりもこれからの事を話そう」
    ソファの隣に腰かけて、なるだけ優しい声を出す。昔、泣きながら帰ってきたロナルドに同じように声をかけた。学校でこんなこと言われた。こんなふうに言って友達を傷付けたかも。そう言って暗い顔で泣いているロナルドの話を聞いて、慰めてあげるのはいつもヒヨシの役目だった。
    「うん……」
    「ずっとここにいてもいい。ドラルクに見つからないように、遠くに引っ越してもいい。どちらにせよ俺がおみゃぁの事も、腹の赤ん坊の事も面倒みるから安心せい」
    「そんな! 兄貴にそこまで迷惑かける訳にはいかないよ……」
    「大切な妹を迷惑に思う訳ないじゃろ。俺がお前にしてやりたいだけじゃ。気にするな」

    「そんな気遣いは無用です」
    二人きりだった室内に突然第三者の声が響いた。誰のって、確かめるまでもない。ドラルクだ。
    「ドラルク? ! 」
    「どうやって入ってきた? そもそもなんでここがわかったんじゃ」
    吸血鬼は招かれていない家に入る事はできないはずだ。それなのに気づいたらドラルクは”居た”。
    「あまり私を見くびらないで頂きたいものですな。ロナルドくん帰ろう。ジョンもメビヤツもみんな心配してる」
    「帰らない……」
    「ヒカリ、自分の部屋に行っとれ。ドラルクおみゃぁは俺とお話しような」
    「は? ! ちょっと」
    無理やりドラルクを押さえつけ、ロナルドを奥の自室へと促す。
    ドラルクも多少抵抗したものの、ヒヨシをどうにかしなければ無理だと判断したのか渋々と言った顔で、おとなしくなった。
     
    「まぁ座れ」
    さっきまでロナルドが座っていたソファに座るよう促す。ヒヨシはその向かいの一人掛けに座りドラルクと向かい合う。
    「……」
    「ドラルクお前ロナルドと付き合っとるんか」
    こいつ相手に腹の探り合いをしても意味がない。ヒヨシは直球に尋ねた。同じ質問をした時、ロナルドは口を噤んでいた。
    「ええ、はい」
    「どういうつもりじゃ」
    「どう、とは。好きだから付き合う。それは人間も我々吸血鬼も変わらないと思いますが」
    ロナルドの態度からなにか事情や企みがあるのかとも思ったが、ドラルクは拍子抜けするくらい当たり前のように答えた。ロナルドの事が好きだと。それでもまだ、真意はわからない。
    「お前にとってはどうかわからんが、ロナルドは俺の大事な妹じゃ。泣いてる妹を、みすみす元凶の元に帰すわけにはいかん」
    「あなたとロナルドくんがお互いを大切に思ってるのはわかります。でも、わたしにとっても彼女が大切なんです。生きる時間が違う人間と共にありたいと思うほど。……それに新しい命とも」
    「! 気づいてたんか」
    「そうかも知れないと感じることは何度かありましたからね。確信を持ったのは捨てられていた検査薬を見てからですが」
    「嫁入り前の娘に手だして傷物にしたんじゃ。歯ぁくいしばれ」
    言うが早いがヒヨシはドラルクの胸倉を摑み重い一発をお見舞いした。一瞬でスナァとチリになって崩れ落ちるドラルクにポツポツと言葉を降らせる。
    「ヒカリはな……小さい頃から両親がいない事で沢山我慢させてしまった。だから本当は俺の真似して退治人なんて危険な仕事じゃなくて、普通の仕事に就いて欲しいと思っとったんじゃ。普通に恋愛して、好いた奴と一緒になって子供が生まれて、そうやって人並みの幸せを摑んでほしいと思っとった。それなのによりによって相手が吸血鬼とはのぉ」
    「ロナルド君は我慢したなんて微塵も思っていませんよ。いつも貴方や妹さんの事を幸せそうに話す。それに貴方をとても尊敬していて、退治人という仕事に誇りを持っています。持って生まれたものに驕らず努力を続けられ、自分の力で沢山の人から愛されている。退治人としての彼女はあまりにも眩く美しい」
    「はぁー? ! そんなん俺が一番よく知っとるが」
    「そこで張り合わないでくださいよ。この真祖にして無敵の吸血鬼ドラルクが彼女を人並み以上に幸せにしてみせます」
    「……ヒカリはな誰よりも強くて優しいけど、純粋で傷つきやすい。普通の女の子なんじゃ。だからもう、泣かすんじゃにゃーぞ」
    「お兄さん……」
    「おみゃあにお兄さんなんて呼ばれたくにゃーわ。……ヒカリの部屋は2階の奥じゃ」
    「ありがとうございます! 」
    「今度ちゃんと、挨拶に来い。両親の墓前にも報告せにゃ」
    「はい」

    2階へと昇り奥の部屋の扉をノックして、返事を待たずに扉をあける。
    高校生の時に実家を出たと言っていた。部屋のレイアウトはその時のままなのだろう。事務所兼自宅とは違う女の子らしい部屋だった。彼女の育った部屋。淡い桜色のカーテンに、
    「ドラルク……」
    「ごめんね。勝手に」
    「……どうやってここに来たんだ? 看板なんて、ないのに」
    ドラルクがロナルドの事務所に最初に来た時、無断で入れたのは『どなたでもお気軽にお入りください』という看板があったからだ。当然実家にはそんなものない。吸血鬼は招かれざる家には入ることができない。それなのにドラルクはここに居る。
    「御真祖様にちょっとね」
     その言葉に納得する。あのじいさんの力ならどんな事ができても不思議じゃない。
    「それより、ちゃんと話さなきゃと思ってきたんだ。ねえ、聞いてくれる? 」
    「やだ。聞かない」
    「なんで」
    「別れたくない。聞かなければ、付き合ってるままだから」
    「どういう事? 私は君と別れるつもりなんてないよ」
    「だって、ドラ公、本当は私のこと、好き、じゃ、ないじゃん」
    「なんでそう思うの? 」
    「だって、一緒にいたって恋人らしいことしないし、ジョンとの方がスキンシップ多いくらいだし、えっ……ちだってあの一回だけだったし」
    「それは……」

    言い訳にしかならないけど、と語られた言葉はロナルドには想定外のものだった。
     あの日、初めて体を繋げた日。
    「君はあの時吸血鬼の催眠で酩酊していて、正気じゃなかったんだよ。覚えてる?」
    「おぼえて、ない」
    「そうだよね。多分、最中の事は朧気なんじゃないかな。目が据わってたし。それでも君が私の告白に応えてくれたから、嬉しくて」
    「えっ?! 」
    「何度も言ったんだよ。好きだ愛してるって。きみはそれに嬉しいって笑ってくれて」
    ──ふふ、ロナルド君好きだよ
    ──ん、私も……嬉しい。どらるく、大好き

     ロナルドが覚えているのはいつもの喧嘩と同じ罵り合いだ。そんな甘い雰囲気なんてなかった、と思う。しかし言われてみれば、記憶に不明瞭な部分も多い
    「それにさ、君はその……経験がなかっただろ。性急すぎたと反省したんだ。触れるたびにびっくりして怖がってるみたいで。だから徐々に慣れて行ってくれればいいと思った。逆にそれが君を不安にさせてたね。ごめん」

    愛されていないのかと思っていた。でもそれは杞憂だった。この目の前の吸血鬼は、めいっぱいの愛情をもってロナルドに接してくれていた。勝手に一人で不安になって怖がって、バカみたいだ。


    「ところで、」君も私になにか言う事ない?
    ドラルクが詰め寄ってきた。まさか気づいてる? 紅い瞳にみつめられ、しどろもどろに零す。
    「こどもが、できた。産みたい。でもお前にいらないって、言われるのが怖い」
    「あのねぇ。そんなこと言う訳ないじゃない。私は吸血鬼だよ? 享楽主義で、楽しいことが大好きで、退屈が大っ嫌い。赤ん坊なんて大歓迎さ! 」
    「うぅっ……」
    「無責任だと思われることをした。でもさ、君が許してくれるなら、私は君とずっと共に在りたい。その子も一緒に。ねぇ、産んでくれる? 」若く、美しく善良な君。本当はなににも縛られないで自由でいて欲しい。でも叶うならば、自分の隣で笑っていて欲しい。銀の星を散らした柔らかい髪の毛に、青空を閉じ込めたまあるい瞳。見たことがない太陽のように眩しく光り輝く君が隣にいればどんなに幸せだろう。それだけできっと、退屈とは縁遠い生活が送れる。


    ***

    「ジョンも春にはお兄ちゃんだね〜〜」
    「ヌヌ! 」
    ドラルクは脂下がった顔でにこにことジョンに話しかける。ロナルドを実家から連れ帰ってからこっち、ずっとこんな調子だ。今は事務所にも居住スペースにも遮光カーテンを取り付けて、なるべくロナルドの活動時間に合わせて行動している。朝に起きて、夜に寝る生活はなかなかに新鮮だ。
     ロナルドには退治人の仕事はセーブさせている。目を離せばすぐに前線へと飛び出していってしまって、気が気じゃなかった。本当は執筆業に専念させたい所だが、そうもいかず。結局下等吸血鬼の巣の撤去や、薬剤散布の補助指導などあまり危険を伴わない仕事を中心に行なっていた。それもドラルクがついて行ってあれやこれやと口を出す。まわりには生暖かい目で見られているが何かあってからでは遅いからと背に腹は変えられない。
     しかしそれもおなかの膨らみが目立つようになってからは周りの助言もあり産休中だ。

    「ドラ公。オータムから荷物届いた。多分また野菜だ」
    事務所からロナルドが段ボールを持って現れた。
    「ちょっと、何してるの! ジョンより重いもの持っちゃダメっていったでしょう! 座ってて」
    「いや、これそんな重くないから平気。それに座ってばっかだと体鈍るし、そもそもお前この段ボール運べないだろ」
    「はぁー? 運べますが? 余裕ですが? そんなこと言って、なにかあったらどうするの! 体動かしたいんなら日が落ちたら一緒に散歩に行こう。だからそれまでおとなしくしてて」
    「はーい」
    従わないと後がうるさい。段ボールを食卓の上におろし、ソファに腰かける。ここまで運べば封を開けてドラルクでもどうにかできるだろう。
    「ほんとにわかったのかね。ジョン! ロナルドくんの膝の上で見張ってて」
    「ヌン! 」
    ジョンがいそいそとロナルドの膝の上に登る。小さくても、立派な監視員だ。しかしロナルドはニコニコと目を眇める。

    「ジョン〜! まったく心配性なパパだな」
    愛おしい丸を抱き上げてやって目線を合わす。尖った唇は不満よりも嬉しさが勝っている。
    「ヌヌヌ! 」
    「ん? ジョンも心配性してくれるのか? お兄ちゃんだもんな〜」
    「ヌ! 」
    「はやく、会いたいな」

    今だってにっぴき、騒がしくも愛おしい日々を送っている。
    そこに加わる、小さな愛し子が産まれるのは、もう少しだけ先のお話。
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