『夢』波が旬の足を優しく触れるように飲み込み、そのまま海へと帰って行く。
夕日で輝く海はまるで宝石を散りばめたような美しさだった。旬はその海を眺めていると、後ろから声を掛けられた。
「……犬飼さん」
海水浴が出来る場所で、犬飼は身を一つも崩さずスーツを着ていた。けどいつも付けているサングラスは胸ポケットに仕舞っている。
「夏も、もう終わりですね」
「そう、ですね……犬飼さんは海に入らないんですか?」
「今からですか?」
すでに夕日は半分ほど、海の中に沈んでいた。着替えてくる頃には、夕日は沈み、暗い海へと変わる。
「……あ」
大きい波が、旬の足を飲み込むと、履いていたサンダルが浮き、そのまま波にさらわれた。そのサンダルを拾いに行こうと、足を上げる前に、犬飼がスーツのまま海の中に入って行く。
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