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    るりとらのを

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    るりとらのを

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    【固定】ディルック夢

    誓いの言葉 「お別れする時はちゃんと殺してね」

    風の強い夜、隣でベッドに寝転がる彼女は小さく呟いた。「別れる予定でもあるのかい」何でもないように聞けば彼女の真珠のような瞳はその輪郭を揺らし、ポタリと水滴を落とした。
    「私は貴方のもの、私の帰る場所は貴方自身なんだよ」
    言い聞かせているのだろうか声が震えている。遠くで雷の音が響いた。恐らく数分後にはこちらにも雨雲を連れてやって来るのだろう。彼女はそれが来るのをわかっているかのように怯え、体を震わせていた。

    「最初に連れ出してくれたのは旅人だった。村を襲った盗賊は、私達の能力目当てだった。いちばん若いのは私で他は全員殺されたの、多分誰か生き残ってたら私の価値が下がるから」

    流した涙も乾かぬ内に瞼を下ろす。僕は黙って彼女の独白を聞いた。

    「私は死んでやるって思った。でもそれは今じゃない、あいつらが1番悔しがるような事をして死んでやるんだって。だから私、コツコツ作ってきた真珠をね、1個ずつ丁寧に傷をつけたの。売り物にならなければ彼らは大損害、でしょう?当たり前だけど直ぐにバレてね、拷問されて、ご飯も出されなくなった。けど真珠はまた作れって。おかしいよね、唾液まみれの真珠を手下が大事そうに回収していくの」

    雨雲がこちらまで来た。ポツポツと窓に当たる音が少しずつ増えていく。彼女は雨に気付いていないのか、喋り続けた。

    「そろそろ栄養失調で死んじゃうなって時にね、ヒルチャールの群れが私達の…いや彼らのアジトを襲ったの。大きなヒルチャールが居てね、斧を振り回してた。夜中だったから皆寝てたの。私は起きてたけど。ヒルチャールはね、彼らを皆殺しにした。ざまあみろってね、でも私はまだ生きてた。これから死ななきゃ行けないのに。檻は鍵がかかってて、手枷のついた私は檻にそれをぶつけて鳴らしたの。私を殺してって。その時───音を聞き付けた旅人がヒルチャールを難無く退治してくれて、私は檻から開放された」悔しそうに眉を顰める、僕は手を伸ばし、恐る恐るそのシワを撫ぜる。けれど、次の言葉に僕の手は止まった。

    「殺して欲しかったよ」また一つ、頬に残った跡を辿って涙が落ちる。

    「でも旅人は止めた、ホント無責任だった。助けたあと直ぐに近くの協会に私を預けて去っていってね…神の使いは私の死を許さなかったみたい。地下に閉じ込められて死なないように監視されてた。狂った使徒だったね。でも彼らも死んだよ、1年後くらいに。旅人は私の情報と自分の命を天秤にかけて死んだって聞いた。本当に馬鹿だった…」

    誰かに助けられ、また誰かに利用されては他の脅威が迫ってくる。関わった者は善であろうが悪であろうが皆死んでいく。まるで死神のようだ。しかし、彼女がそうなのではない、彼女は…ただの人間だ。

    「死神みたいでしょう?」僕の考えていることはお見通しなのか、ゆっくりと瞼が開き目が合った。

    「でもね、死神は善も悪も選ばない。手を差し伸べた時点で、それはもう決まっているみたい。だから…」

    「死神の鎌が僕の首元を狙っている。そう言いたいのかい?でもそれは1度回避した筈だ」そう、それは数日前の話だ。よく晴れた朝、近くのブドウ畑へ散歩しに行ったパールが、夕方になっても戻らなかったことがあった。痕跡を探そうにも彼女は元素を操ることが出来ない、ただの人間だ。迷子になっているのか、はたまた誘拐されたか。恐らく誘拐の線が濃いだろうと推測し早々に的を搾って情報を探れば、それは簡単に見つかった。数キロ離れた岩場を根城にしている盗賊が近頃いい稼ぎ話を仕入れたそうだ。十中八九、パールのことだろう。

    急いでその場所へ足を運べば、途中アビス教団が足止めをするように行く末を阻んだ。話しぶりからしてアビス教団は盗賊と手を組んだらしい。それぞれの目的が一致しているのは目に見えている。相手の出方を探るまでもない、片っ端から攻撃を繰り出せばアビス教団はニタニタと気色の悪い笑みを浮かべて杖を振るった。「…不愉快だな」彼らを全員倒れした頃には雨が降り始めていた。早く、早くパールを見つけなければ。

    根城とされている岩場にはカモフラージュの枝が入口を隠していた。焼き払いたい所だが生憎の雨でそれは叶わない。乱暴に掴んでほおり投げ、隠れていた木の扉を足で叩き割ればそれは容易に開いた。中は思ったより広く、屈まなくても通れる位の高さがあった。通路は二又に別れていて、このどちらかに彼女が居るのだろう。入口から近い場所に宝を置くわけが無い、きっと彼らは1番奥に居るはずだ。そう考え、近場の石を掴んでそれぞれに投げては反響音の浅い方へと足を進めた。

    何度か分かれ道が続いたが止まることなく進む。連れ攫われて何時間経ったのだろうか、パールの安否が知りたい。歩くスピードを早めれば、ざりと地面に何かが擦れる音がする、これは砂だろうか。数メートル先は所々白く見える。この先にあるのは…恐らく砂浜、岩壁を通り抜けて海側に続いているようだ。出口が見えた瞬間、走り出した。きっとこの先に、彼女が───。

    「…っパール!」荒れた海を背に、彼女は鎖に繋がれたまま歩かされていた。上着やスカートだけでなく金目の装飾は全て剥ぎ取られており、晒された素肌には幾つもの傷が付けられていた。僕の声に振り向くパールと盗賊、素早く大剣を投げつけ周りにいた2.3人をふっ飛ばすがパールに付けられている鎖を持っていた男が、彼女を人質に攻撃を止めるよう叫んだ。

    「何しに来たの」砂浜にぺたりと座り込んだパールは僕を見つめている。僕は迷わず助けに来たと伝えれば、彼女は項垂れて首を振った。「助けなくても平気、私はこの人達の物になったよ」彼女の言葉を聞いた男はゲラゲラと笑う、「もうお前のモンじゃねえってことだ、諦めるんだな」

    「嬢ちゃんの方が物分りがいいな、そんなにこいつが''よかった''か?」

    「彼女とはそうゆう関係じゃない」

    「何でもいいけどよ、こいつに戻る意思がねぇんだ、分かるだろ?」

    「彼女の意思は聞いていない。返せ」

    「それで返す奴がいるかよッ」

    武器を構え直す男達、その中でハンマーを持った奴が先陣を切って突っ込んでくる。元素は使えないが特に問題は無い、身を捩り避け、その勢いを殺さず相手に剣を振り下ろす。まず1人、倒れた奴を蹴っ飛ばせば周りがどよめいた。

    「流石闇夜の英雄様だ…でもこれなら、どうかな!」パールの鎖を握っている男が、鎖をジャラリと鳴らし引っ張る。後ろ手に縛られた彼女はよろめきながら立つ、まずい、止めなければ。瞬時に判断して彼女の元へ足を向けるが簡単には行かせて貰えず、背後を取られ両腕を押えられてしまった。

    「お前が抵抗する度、嬢ちゃんを殴る。まずは腹からいくか」

    「やめろ!」拘束を解こうと肩を大きく動かせば、それを見た男はニタリと笑いパールを殴った。鈍い音と共に彼女は小さく唸り、その衝撃で砂浜に倒れ込んだ。

    「もっと抵抗してもいいんだぜ、嬢ちゃんがただ殴られるだけだ。あぁ、俺には女を殴る趣味はねぇから早く降参してくれるとありがてぇんだがな」態とらしくため息を着く男をギロりと睨めば、おお怖いと笑う。それが合図だった。

    あれから抵抗できない僕を殴り、蹴り、唾を飛ばす。一旦引いて奇襲をかけ彼女を攫うか、雨が上がるのを待つか…止まない攻撃を受けながら考える。流れる血が顔にかかって邪魔だ、人越しにパールを見れば彼女はボロボロと涙を流しこちらを睨みつけていた。僕が死ぬと思っているのか、やめてと声を上げている。この程度で死ぬわけが無い、そう言いたい、君は死神ではないと、証明したかった。彼女に気を取られていて次の攻撃の受身がとれず、男の拳が顎にきまる。まずい、チカチカとする視界によろける身体、雨の影響で思ったより力が入らない。

    雨の音が、酷く耳に残っていた。


    ***


    過去の記憶から意識を戻せば、パールは僕から背を向け、シーツにくるまり始めた。くぐもった声でボソボソと呟いている。
    彼女に近付き、そっと耳を澄ます。あの時と同じ、雨の音が部屋に響いていた。

    「攫われた時、どうしてきたの?って本気で思った。だって今まで誰かのものになったことは何回もあるけど、誰も取り返そうとする人はいなかった。それにあの盗賊はアビス教団と手を組んだって聞いた」

    「僕が殺られるとでも?」

    「うん…私のせいで抵抗できなかったよね。血も流れてたし…このままじゃ本当に死んじゃうと思った」

    鼻をすする音がする、止まりかけていた涙がまた流れる。本当に、僕は彼女を泣かせてばかりだ。彼女がくるまっているシーツを優しく捲り、こっちに来るように背中に腕を回せばおずおずと僕の胸元に帰ってきた。泣き続けているからか少し体温が高い。落ち着かせるように優しく背中を叩く。数分もすれば落ち着いたのか、彼女はまたぽつりぽつりと話し始めた。

    「私はあの時、貴方に死んで欲しくないって思った。だから神の目が私の前に現れたのかもしれない」雨の中、人気のない浜辺で鎖に繋がれていた彼女を再び思い出す。<貴方の枷になりたくない!>そう泣き叫ぶパールの前に突然、神の目が現れた。水の輪が彼女を囲む様に浮かび上がり、そしてそれは尾びれの長い龍のような魚を生み出した。彼女は神に認められたのだ。狼狽える盗賊達を横目にパールは水元素を放つ、彼女はもう、守られるだけの存在ではなくなったのだ。

    「神の目が私に力をくれた。貴方を守りたいという気持ちが、形になったみたいで嬉しかった」盗賊を全員倒した後、拘束具を外せば、内側には血がこびり付いていた。ハッとなり彼女の手首を見れば、その視線に気付いたのか「もう手枷を付けられるのはゴメンだね…」と古傷の上に重なるように出来た傷をそっと隠しながら笑っていた。

    もうこれ以上傷つかないようにと自分の元へ置いたのに、僕は約束を守れなかった。僕がパールの居場所になれるようにと思っていたが、逆にパールを危険な目に合わせてしまった。何が多少のリスクはあれど敵が明確になって好都合だ?その多少のリスクで、容易く彼女は僕の元から手を離れていってしまった。最悪殺されていたかもしれない。僕は、選択を間違えていたのだろうか。

    自分の不甲斐なさに、握った拳に力が篭もる。また、何も出来ない自分に戻ってしまう───。あの忌々しい記憶が浮かび上がろうとしたその時、不意に腕を引っ張られ、彼女に抱き締められた。酷く冷たいその身体は、弱々しく震えていたのをはっきり覚えている。

    「また、貴方のものになっても…いいかな」不安そうな顔をしたパールは心臓の音を聞くように僕の胸に耳を当てた。

    「私ね、もう誰か物になるのは貴方で最後にしようと思う。こんな気持ち初めてだよ、貴方じゃなきゃ嫌だって、貴方を守りたいって願ったのは。だから…何度連れ攫われても、必ず迎えに来てくれる?」

    「…僕の物になった以上、今以上に危険な目に会う可能性もある、恨み妬みも買うだろう。それでも構わないなら好きにするといい。ただ、誘拐されないように多少は気を付けてくれ。君は目を離したら直ぐにどこかへ行ってしまうからね」

    「うーん、珍しいキノコを見つけても近寄っちゃダメ?」

    「ダメだ」

    「ヒルチャールが変な踊りしてても見に行っちゃダメ?」

    「ダメだ」

    「カエルがひっくり返ってても?」

    「…ダメだ。本当に僕の物になる気があるのか?」

    「じゃあ離れないように手を握ってて欲しいかな」

    「まあそれなら…。」

    「じゃあ!早速手を繋いで帰りましょうか」

    にこりと笑っててを差し伸べる彼女に、そこは逆じゃないのか?と思いつつも手を預ければ、パールは思い出したように大きなクシャミをした。多少濡れていはいるがないよりマシか、と外套を着せればブカブカ〜といつものようにはしゃぎ出す。

    雨は上がり、分厚い雲は風で流れ、漸く見えた星空は海面から顔を出した光によって霞んで見える。もう夜明けの時が来ていた。朝日が拝める!と裸足の彼女は波打ち際で水を蹴って遊び出した。本当に自由だなと思いながら眺めていたら彼女は海を背に振り返る。風に揺れる髪が日の出の光に溶けて煌めいていた。

    「どうしたの?」

    「いや、少し…」君が眩しかったなんて、言えなかった。

    ***

    僕の髪とは違い真っ直ぐで指通りの良いそれを撫でながらあの朝日を思い返す。

    「まだ話の途中だったね、何度も言うが僕は君を置いていったりしないよ。それに君は神の目を手に入れた、あの時のようなことは起こらないだろう」

    「でも、例え私に降かかる脅威を退けても、貴方自信のことは守れないんじゃないかって。…私は弱いよ。きっと何年かかっても貴方を守れるほどの力は持てない」

    「僕より強くなるなんて大層な野望だね」

    「馬鹿にしてるでしょ。もうムキムキマッチョの道は諦めた」

    「多少はね。あとムキムキマッチョは勘弁して欲しい」

    「貴方が私を残して逝ったら、その後はどうしたらいい?ただの所有物は物置部屋で永遠に目覚めなければいい?」

    「物置部屋をミイラ部屋にするつもりかい?……そうだな、少し待っていてくれないか」

    彼女を残して、ベッドから抜け出す。反対側に備え付けられた飾り棚から小さな箱を取り出し、中身をちらりと確認すれば銀色に輝くそれはあった。あれからずっと考えていた、彼女と僕の関係について。所有物、お荷物、お飾りと色々名付けてはみたがそれは一時的なもので、これから先も続くとは思っていなかった。彼女との繋がりを無くさない唯一のもの、それは───。


    「渡そうか迷っていたんだ」
    ベッドに戻ってくれば、彼女は起き上がって待っていた。雨雲が通り過ぎたのか、外から淡い光がパールを照らしていた。目尻に残った雫が月明かりに反射して、綺麗だった。頭にはてなを浮かべる彼女に近付き、箱からそれを取り出す。手を取り左薬指に滑り込ませれば、元から彼女のものだったかのようにぴたりと収まった。

    「指輪…?」

    「婚約指輪だよ」そう答えれば信じられないという顔で自分の指に嵌った指輪を月明かりに翳す。

    「約束は絶対じゃない。この指輪を、いつか手放す時がくるかもしれない。でもそれは君が1人で生きていけるくらい強くなってから。身も、心もね」

    「1人で生きられるように…」

    「だから、それまでは僕のものでいて欲しい」指輪のついた左手を握り、彼女の手の甲を自分の頬へと当てる。手袋をしていない、素肌の感触が心地よかった。パールは自分の手首が目に入ったのか傷跡を見て眉を潜ませるが、直ぐに溜息とともに困ったように笑う。

    「責任を取るって言っちゃったもんね…」

    指輪に誓を立てるように、僕はそれに口付けをした。
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