ハンカチ「これ、落としましたよ」
突然肩を叩かれて、振り向くと綺麗な青年が微笑んでいた。派手なピンク色の髪をポニーテールにして、不思議な魅力を孕んだ瞳は嫉妬しちゃうくらいバサバサなまつ毛に縁取られている。
目を細めた彼が此方に差し出す薄いピンクのハンカチは、私好みではあったけれど、しかし私の物ではなかった。
「いえ、私のじゃありません」
「でも、貴女にとっても似合うと思います」
そう言って困惑する私の手にハンカチを握らせて、青年はくるりと背を向けて行ってしまった。
きっと一般的には彼の不審さを恐怖するべき出来事であるが、その美しい容姿のせいか、美しい容姿のお陰か、あまり怖いとは思わなかった。手の中にあるハンカチを見て、ただ、困ったなぁと。そう思いながら家路に着いた。
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