夜行梟がその男を見つけたのは、鳥の羽ばたく音さえしない夜のことだった。正確には何日か前からその姿はあった。自分を囲う檻越しに、その肩についているコインがちらちらと輝くのが見えていた。だけどそのとき、夜行梟はその男を個として識別するのを拒絶した。そのときの夜行梟にとって、男は人間たちのひとりにすぎなかった。森を汚し、自分を汚し、森の番人たる神聖なこの身を売り物としか見ていない下賤な人間たち。その一角でしかなかった。「彼を買おう」男がそう言うのを、夜行梟は羽に顔をうずめながら聞いていた。そのときはもう、唾を吐きかける体力すら残っていなかった。
男の輪郭がその眼に映り始めたのが、その夜だった。歯車が回る音と、ガタゴトと揺れる車体、かび臭い檻はそのままに周りの空気だけが華やかに移ろう。きっと移動しているのだろう。そんな変化を終えた後の夜だった。男が檻の中に入ってきて、夜行梟に語り掛けてきたのだ。
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