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    yuyuoniku

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    フォロワさんの本丸に修行に行くわたしの小夜左文字②

    小夜の料理修行 1話 小夜左文字と黒い稲妻1話 小夜左文字と黒い稲妻
    2階、1階、地下1階、と過ぎ、存在しないはずの空間を進んでいく。
    (東京までは10分くらいで着くって言ってたな)
    心配で通夜状態(ドラマで見た遺産相続バトルみたいだったな:ソハヤ談)の審神者一行を他所に、小夜はエレベーターの中で忘れ物をしていたら待ち合わせまでに自分で調達しなくてはいけないと、手持ちの荷物を確認していた。

    リュックサックの中には数日分の着替えと洗面道具、親友の秋田とお揃いの猫のメモ帳、巴形にもらったすごく書きやすい3色のボールペン、道中のお供であるカルピスとお菓子。
    お小遣いが入ったポケモンの財布も お守りも首から下げているし、お土産の詰まった紙袋は手に持っている。
    短刀のみんなや、通りがかりの稲葉江とも何度も確認したので忘れ物はない。

    しかし何か違和感がある。現代遠征の三種の神器はなんであっただろうか、現代人を打ち負かす力はある、財布はある…
    ゴウンゴウンと響くエレベーターの音を聞く。あともうひとつ、なんだったか、
    『先の遠征で端末を新幹線に置いていってしまってな…首の骨を折りそうになったことがある』
    いつも冷静で表情を変えない稲葉が、あれは恐ろしい体験だったと青ざめた顔で語っていたのを思い出した。

    「あれ…?!」
    端末がない。
    今回の"修行"も一応任務のうちのひとつのため、審神者への報告が必要だ。
    焦る小夜、もう一度ごそごそと荷物をひっくり返す。ない。
    「うううん…」

    ゴゴゴゴと不気味な音を立て続けているエレベーター内で、頭を抱えながら必死に記憶を辿っていく。
    確か、エシレでの待ち時間に金時計の前で刀ミュのスタンプを買ってもらったので「誉ぽん」を本丸へいる長谷部に送ったのが、覚えている限りの端末に触れた最後の記憶だ。
    (もうだめだ、あの端末がないと本丸に帰れない、迎えにきてくれるひとにも合流できない、現代で何をやって生活すればいいんだ…殺し屋とか?)
    小夜の頭をぐるぐると考えが巡る。
    その時、ガタン!と音がして、エレベーターの扉が開き、明るい光が飛び込んできた。
    どうやら到着したようだった。



    「あ…」
    閉まりそうになる扉を前に"開"のボタンを連打して、広げた荷物をリュックに突っ込み、急いで外に飛び出す。
    振り返るとエレベーターはさらに地下へ降りていってしまった。
    「危なかった」
    ふうと息を吐き、辺りを見回すと、そこには人、人、人、人、
    人の波が押しては返すように溢れていた。名古屋駅の比ではない量の人の数だ。
    審神者が東京から帰る度、「命が多すぎてイワシの群れに突っ込んだカジキの気持ちになる…」と呻いていたのを思い出す。なるほど、確かにこれは名古屋港水族館の黒潮大水槽で見たことがある。

    端末を紛失した今、自分がすべきことは、時間までに待ち合わせ地点に着いて豊前国本丸からの迎えを待つということ。駅の時計を見ると時刻は午後1時、約束の午後2時まで1時間ある。
    その時間までに"新宿南口"までに辿り着かねばならない。
    小夜はまず、自分の現在位置を確認することにした。

    転送装置は審神者や刀剣男士を運ぶという特性上、到着地が歴史修正主義者によって狙われやすい。
    そのため、出発地は固定されているが、到着地の座標はばらけるように時の政府が設定をしている。
    今回小夜の乗ったエレベーター転送装置は、名古屋椿町内ビル⇄新宿駅構内というものだった。

    (新宿に出たらまず、バスタ新宿を目指すんだったな)
    審神者に言われたことを思い出す。待ち合わせ地点の南口も近いそうだ。
    初めての土地で不安になりながらも、しっかりとした足取りで頭上にある案内を辿りながら歩いていった。



    新宿は、たくさんの看板や話し声で溢れており、膨大で夥しく轟々とした言葉の渦の街だった。
    小柄な小夜は何度かひとにぶつかられその度に謝罪を繰り返し、人や車者が発する音、人やそれ以外の発する気配に呑まれ、びかびかした明かりに侵され、いろんなにおいに掻き混ぜられ、気付けばなんだかよくわからないところに出ていた。
    「ここ、どこだろう…」
    ひとに聞こうと思ったが、既に現代遠征の経験がある宗三から「現代の人間に話しかけてはいけませんよ彼らはとても恐ろしいですから」と言われたことを思い出す。
    審神者から困った時は公衆電話を使うんだよと言われたのを思い出したが、緑の電話は近くにはない。
    時計を見ると、もう時刻は午後3時を過ぎており、11月下旬の太陽はやや傾き始めていた。
    「大変だ…」
    いつもの任務なら部隊の誰かが助けてくれた。修行先なら人に頼れた。

    現代は小夜の生きた時代より、はるかに物騒で孤独であった。
    キオスクと書かれた看板が見える、名古屋で見たことある気がするが、ここは南口ではなさそうだ。東南だとか新南だとか、もうわけがわからない…

    途方に暮れた小夜左文字は、なんかよくわからないけどいつの間にかかわいいペンギンの見える開けた場所に辿り着いた。時刻は午後5時を過ぎている。
    (政府のひとにみつかったらどうしよう、きっとあるじさまがめちゃくちゃ叱られるだろうな。兄様達には悪いけど本丸に帰ることは諦めた方がいいかもしれない。僕はマチルダみたいに殺し屋になって、生計を立てていくんだ…)
    よろよろとベンチに座り込み、最後のお菓子のブラックサンダーをぼりぼりと齧る。
    脳に響くようながつんとした砂糖の甘さと、ココアパウダーの苦味が口に広がってきた。
    いつもは元気が出る味なのに、今日は"最後の晩餐"を感じさせる。
    ぴゅうと冷たい風が吹いてきた。
    (人間ってどうしていろんなものを光らせたくなるんだろうな…)
    先日、審神者の故郷の駅で「これはイルミネーションというのだよ、雅だろう」と笑っていた歌仙の顔を思い出す。
    (歌仙さんの料理、また食べたいなあ)
    小夜はふうとため息をつくと、目を閉じてしまった。



    「おい、目を覚ませ!!」
    いつのまにか寝ていたのだろうか、揺さぶられて小夜が目覚めると、見たことがある顔が飛び込んできた。
    「大包平さん」

    整った精悍な顔立ちに、紅のつんつんした髪、鋼色の美しい瞳は変装用の眼鏡に隠れてはいるが、都会の光を受けてよりきらめいているように見える。
    柔らかで品のある振る舞いと、ふわりと鼻腔を撫でる柑橘のような甘さの優しい香りが、豊前国本丸所属の大包平であることを示していた。

    「心配したぞ、大丈夫か?」
    「どうして」
    時間はもうとっくに過ぎているのに、待ち合わせ場所にも辿り着けなかったのに、
    驚きやら安堵やらで言葉にできないている小夜の背中を優しく撫でながら、大包平は笑う。
    「電話をかけても繋がらなかったからな。お前の主が迷子にならないようにバスタ新宿を拠点にするとソハヤから聞いたから新宿中を駆けずり回らずに済んだ」
    小夜は、(それだけのてがかりでよく隠蔽値108の僕を発見できたな…)と感心したが、きっと大包平の主人公力の成せる業なんだろうと納得した。

    (※豊前国大包平は小夜が待ち合わせ場所に現れないので4時間ぐらい探し回ってくれた。ほんと良いひと)

    「迷惑をかけてごめんなさい」
    「いや、気にするな。ここは迷うからな」
    「ここはどこなんですか?」
    「ペンギン広場とか呼ばれているな。荷物はそれだけか?俺が持とう」
    先ほどまで怖かった東京の街並みだが、大包平のおかげでなんだか美しい大きな生き物、それこそイワシの群れのようにキラキラして見える。
    「ほら、はぐれるぞ」
    「はい」
    差し出された左手を取り小夜は(普段は 荷物は自分で持つし、手だって繋いで歩かないのに)と不思議と自然に甘えることのできた自分に驚いた。
    大包平の手は大きくて堅牢で、今まで幾多の敵を斬り命を奪ってきているはずなのに、温かく優しくてとても安心できる手だった。
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