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    12
    ヤニカス兄さんと非喫煙者の2

    ふぅ、と口から吐き出した煙が真っ暗な夜闇を一瞬だけ白く染める。ふわふわと風に揺られてあっという間に消えていく煙をぼんやりと見送りながら、輝一は再び煙草を咥えた。
    禁煙、しなきゃなぁ。そうはわかっているのに、不意に訪れる焦燥感やら苛立ちやらを紛らわせたくて、つい手が伸びてしまう。吸いながら星を眺めていれば雑念も薄れていき、心が落ち着く気がするのだ。
    「……はぁ…」
    何度目かわからない溜息と共に紫煙を吐きだして、輝一は空を見上げた。
    「……禁煙…しないとなぁ…」
    そう呟いた瞬間、背後からカラカラと引き戸の開く音がした。
    「…やっぱりここか」
    「あはは…うん…」
    ひょこりと顔を覗かせる輝二に、輝一は罰が悪そうな笑みを浮かべて返す。輝二もベランダ用のサンダルに足を通すと、輝一の隣に並んだ。
    「…禁煙するんじゃなかったのかよ…」
    「うん…輝二の為にも禁煙しようと思ったんだけどね…やっぱり上手くいかないや」
    コン、と灰皿代わりの空き缶に灰を落しながら、輝一は申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
    「色々、試してはみたんだけどね。でも、どうにもこうにも我慢できなくてさ……ごめんね、せっかく俺のこと心配してくれてるのに……」
    「別にいいけど……」
    困ったように眉を下げる輝一を見て、輝二は苦笑いを浮かべた。輝二だって、煙草を吸う兄のことを嫌いになったわけではない。むしろ、喫煙者だからこそわかる苦労や悩みもあるだろうし、理解したいと思っている。けれど、やはり身体には悪いことだし、できれば控えてほしいとも思ってしまうのだ。
    「…最初のうちは多少我慢できるんだけど…どうしても不安だったり、どうしようもなく苛立ったりしてくるとダメみたい。気が付いたら手が勝手に伸びちゃっててさ……」
    「……そっか」
    「うん…またやっちゃったなぁって思うんだけど、もうこればっかりは自分じゃどうしようもないのかもね」
    はは、と自嘲気味に笑って、輝一は深く息を吐き出した。
    「…まぁでも…」
    さらり、輝一の手が輝二の頬を撫でる。その感触に輝二が目を細めると、そのまま後頭部へ回った手にぐっと引き寄せられた。
    「ん………ッ!?」
    突然重ねられた唇。驚いて目を見開いているうちに、ぬるりと舌が入り込んできた。絡みつくそれに、びく、と肩が跳ね上がる。
    「ッこ、ぃちッ…!いきなりッ、何…!」
    どうにか輝一を引き剥がした輝二の顔は耳まで真っ赤に染まって、忙しなく肩で息をしていた。そんな輝二の表情を見ながら、輝一はくす、と笑う。
    「…こうやって輝二がいつでもキスさせてくれたら、禁煙なんて簡単にできるのにね」
    すっかり短くなった煙草を水の張った空き缶の中に落としながら、輝一は悪戯っぽく微笑む。そんな兄の様子に、輝二はそのまま俯いてしまった。
    「は………っ…何、言って……」
    「…もう一回、してもいい?」
    問いかけながらも既に輝二の後頭部に手を添えているあたり、答えを聞くつもりはないらしい。ちゅ、と音を立てて口付けられてしまえば、もう抵抗などできなくなる。煙草特有の何とも言い難い苦味を感じて、輝二は僅かに顔を顰めた。
    どこかで聞いたことがある。煙草を吸う人間は寂しがりで甘えたがりだと。言われてみれば、輝一もそうかもしれない。本当は寂しがりで甘ったれなのに、その感情に蓋をして「なんでもない」と笑って取り繕って、陰で自分を傷つけて。そして、それを誤魔化す為にまた新たな傷を作っていく。輝一はそういう人間だ。
    (苦げ…)
    でも、不思議と嫌ではないのは輝一から与えられているせいか。それなら悪くないかもなと思いつつ、輝二はその背中に腕を回す。やがて吹き始めた夜風が、二人の体温をゆるりと攫っていった。
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