はるのあけぼのふ、と夢の終わりと同時にまぶたを開いた。寝る前にプラネタリウムをつけていたからだろうか。星たちの楽しそうな話し声を思い出しながらサイドテーブルに手を伸ばそうとして、ふと視界の端にこんもりとした布団の山が映り込み、反対側に目をやる。
――めずらしい。トキヤがまだ眠っている。
(そっか、今朝は寒いから)
最近は朝晩も冷えこまない日が続いていて、ようやく春だね、と話していたのはつい先日。思い出したかのようにやってきた寒さはトキヤを布団にとどめておくには充分だったらしい。時計を見ると、いつもなら日課のランニングに出かける時間だ。
(かわいい……)
音を立てないように、揺らさないように、そーっとトキヤの方へ体を寄せた。顔の輪郭がぼやけない距離まで顔を近づける。
こんな風に寝顔をじっくり見るのはいつぶりだろう。暗くないうちは、もしかしたら見たことがなかったかもしれない。うっすらとやわい朝の光がさした部屋の中、布団の山が規則正しく小さく上下する。その動きと同じリズムで聞こえる、すぅすぅという小さな音楽に那月も呼吸をあわせた。それだけで幸せな心地だった。
でも、ああ――口元まで引き上げられた、その掛け布団を少しだけおろしちゃダメかな。
布団にうずめるようにして眠る姿もかわいいけれど、もっとよく、そのかわいい寝顔が見たい。いつもはすごく早起きなトキヤだ。次はいつ見られるかわからない。夜空のような髪、対称的な白い頬。長いまつ毛、それに縁取られた瞳が柔らかく笑った瞬間を思い出すと胸の奥があたたかくなって、自然と笑みがこぼれた。
かわいい、かわいいトキヤくん。
とってもかわいから、いますぐぎゅーっと抱きしめて大好きだって伝えたい。でもそしたら起きてしまう。このかわいい寝顔が見れなくなってしまう。もっとよく見たい。見ていたい。
ああ、先に眼鏡を取っておくべきだった!
うずうずと動き出しそうな両腕を宥めつつ、もう一度時計に目をやる。朝ごはんまでにはまだ時間がある。
もう少しだけ、あと少しだけ。
そうしたら声をかけて、彼を起こそう。
そして、寝過ごしてしまったと落ち込む彼にこう提案してみよう。
『ねぇトキヤくん、今日は僕と少しお散歩しませんか?』
外は少し寒いから、お気に入りのストールを巻いてあげよう。きっとかわいく笑ってくれるはずだから。
それまでは、もう少しだけ。
小さな音楽を奏でながら、このかわいい寝顔を目に焼き付けよう。