「ブラッドリー、いるか?」
「あ?」
「シャイロックからあんた宛に届け物だ。よかったら開けてくれ」
ガチャリとひとりでに開いたドアから中の様子を覗くと、どうやら愛銃の手入れをしている最中だったようだ。
「やっときたか、待ちくたびれたぜ」
「何か特別な酒なのか?確かに凄く高そうだが…」
「…お前も飲むか?」
「えっ!いいのか!」
「お使いのご褒美をやらねぇとな」
「お、俺は犬じゃないぞ…」
「ははっ」
ブラッドリーは愛銃の手入れをしながらカインを招き入れる。慣れた手つきで最後の仕上げをする。
手を止めないまま、先程から感じる視線に顔を上げる。
「なんだよ、じろじろ見て」
「あ、いや、悪い。なんだか、普段は荒っぽいあんたも銃の手入れをする手つきは丁寧だよな。あと表情も優しい」
「そりゃあそうだろ。物持ちの良さは手入れで変わるからな。こいつは特に自慢の品だ。てめぇだって気に入りのモンはそうだろ」
「そうだな。俺も陛下から頂いた剣や、この髪留めは長く使いたいから手入れも入念にしている」
カインは長い髪を纏めた髪留めに触れる。
「へぇ、そいつになんか思いれでもあるのか?」
「あぁ、これは昔…」
ブラッドリーの酒を飲みながら、カインは思い出を語っていく。ブラッドリーは嬉々と語るカインを見ながらさてどうやって"そういう雰囲気"に持っていこうかと算段を立てていた。
「おしゃべりはそれくらいにしようぜ、色男」
*******
「ん……」
カインは目を覚ますともぞりと体を起こした。
ベッドまでとはいかないが十分広く大きなソファにブラッドリーに抱えられるように眠っていた。
この部屋で朝を迎えるのは久しぶりだな、と思いながらブラッドリーの腕から抜け出しシャワーを借りる。この部屋のシャワーを使うのはもう慣れた。
シャワーを浴びさっぱりとして戻るとブラッドリーがソファに座って欠伸をしていた。
「あれ、起きたのか」
「誰かさんに起こされたんだよ」
「(昨日戻るって言ったのに離してくれなかったのはあんたじゃないか)」
「んだその顔。いいからこっち来いよ」
「…」
ブラッドリーの手にはカインの髪留めが握られていた。
どうやら髪を結んでくれるらしい。
珍しいな、と思いつつ変に勘ぐって機嫌を損ねられても困るので、カインは大人しくブラッドリーの隣に座った。最近、こういう風に、甘やかされてると感じる。好き合って恋人という関係にあるのだか、カインはブラッドリーに甘やかされると感じるとなんとなく落ち着かない。
「ほれ、後ろ向け」
ブラッドリーは魔法で引き寄せた櫛で丁寧にカインの髪をすく。この櫛もきっとどこからか頂戴したものなんだろうな、とカインはぼんやり考えていた。
ふと目線を上げると、前方にあるブラッドリーのお気に入りたちが並べられた棚のガラスに映る二人の姿が目に入った。
「(あ……)」
そこに映るカインの髪を纏めるブラッドリーの表情が、いつもの好戦的な瞳が鳴りを潜め、優しい表情をしていた。
カインは最近この表情を見たな、と思い出そうとしていると、カチッと髪留めが止まる音がした。そして、するりと髪から髪留めを撫でられる感覚にハッとする。
そうだ、これは、まるで、彼の愛銃を扱っている時のようで。
じわりと体温が上がる感覚がする。
それを見計らったように、バチっとガラス越しにブラッドリーと目が合った。
いつものようにニヤリとした表情で揶揄われると思ったが、カインの予想とは裏腹にブラッドリーは穏やかな、至福の時間を噛み締めるような眼差しを向けていた。
カインはブラッドリーの名前を呼ぼうと振り向くと、間髪入れず荒々しい口づけにその声ごとのまれてしまった。