8/22 新刊予定 朝起きて、顔を洗って髭を剃ったら道路を渡ってすぐのところにあるバールへ顔を出す。
「ボンジョルノ」
半分まぶたが下りたままの寝ぼけ眼で声をかければ、あとはちょっと強面のマスターが何も言わずともデミタスカップに入ったエスプレッソとコルネットがカウンターの上に出てくる。それを立ったまま食べて、ようやく目を覚ます、というのがここに越してきてからの日課だ。
虎次郎がイタリアへ来て一年が経った。最初の半年はスペイン広場近くの日本人観光客もよく来るパスタがメインのオステリアに勤めて、通訳兼ウエイター兼キッチン、の要は何でも係。最初の三ヶ月はキッチンに殆ど立たせてもらえることもなく、日本でイタリア料理を学んで調理師免許まで取っていったのに何をしてるんだ、と落ち込むことも多かった。言葉もあまり通じなくて。
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