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    Ren_7636u18

    @Ren_7636u18

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    Ren_7636u18

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    蛮神ナルザルが神降ろしされたときの物語。

    「奪う者、奪われる者」某年某月
    南ザナラーンの地にある商神ナルザルの片、ナルの祠での出来事だった。

    商神ナルザルを守護神とする都市国家ウルダハでは、ナル・ザル教団から派生したカルト宗教団体が水面下で活動していることが問題となっていた。

    富裕層の信者が多く占める彼らは生を司るナル神を厚く信仰しており、より富と幸福を、そして不老長寿を願っていた。

    ひっそりと活動していたこのカルト教団は、ついに神降ろしという禁忌を犯してしまった。

    神降ろしには大量のクリスタル(エーテル)と信者の祈りの力が必要であったため、危険行為とされていたためだ。

    ある雷雨の日、カルト教団はナルの祠で神降ろしの儀式を執り行った。大量のクリスタルと信者の祈り、そして神へ捧げる生贄とされる生きた少年少女とともに。

    生贄のために用意された少年少女たちは、いずれもウルダハのパールレーンや貧民街で拾ってきたみなしごだった。みなしごであれば大人たちから捜索される心配が無く、生贄としては好都合だったからだ。

    汚れて痩せ細っている少年少女たちは、抵抗する力も無くただただ死を待つばかりだった。その中にいたこの少年もまた、自分の置かれた状況に絶望し膝を抱えて蹲っていた。

    その時だった。

    祈りを捧げ儀式を行う信者たちの前に、無いはずの空からドンと大きな音をたてて稲妻のような光の柱が落ちてきたかと思うと、黒と赤が交ざり合ったような炎が舞い上がった。

    黒炎の中には闇より深い漆黒の鎧と法衣に身を包んだ人の形をした、しかし決して人とは言い難い者が立っていた。

    「おお!商神ナル神だ!!」
    「間違いない!!儀式は成功したんだ!!」
    「ナル神よ!!我に枯れることのない巨万の富を与えたまえ!!」
    「私に永遠の若さと命を!!」

    儀式に成功したと歓喜した教団の信者たちは、我こそはと欲望じみた祈りの言葉を口にした。

    ナル神と呼ばれた男神はゆっくりと眼を開けると、祠の隅から隅まで見渡した。


    違う…
    違う…
    ああ、そうだお前だ…


    ナル神はのろりと指を上げ、祈りを捧げる信者たちにこう言った。

    「私を呼んだのは貴様らか?…そうか、貴様らの祈りしかと聞いたぞ?その願い、叶えてやろう。だが貴様らの私への信仰心を私に示してくれてからだ。そうだな…そこにいる貧しく憐れな子らへ、貴様たちが慈悲を与えてやるのはどうだ?なあに簡単なことだ。お前たちが何も持たないあの子らへ快楽を与えてやればよい。」

    信者たちはナル神の言葉に驚き戸惑った。これが神の自分たちへの神託なのかと。ざわめく中、教団の中でも立場が上であろう男が立ち上がった。

    「承知しましたナル神よ。あなた様の御神託しかと受け取りました!」

    すると他の信者たちも我も我もと立ち上がり、生贄に捧げた少年少女たちのもとへわらわらと寄ってきた。神の神意に応え、願いを叶えてもらうために。

    欲に目がくらんだ醜悪な大人たちの手の数々が少年に伸びると、少年は恐ろしさの余りに隣りで蹲っている少年にしがみついた。途端、その子はぐらっと倒れてしまった。

    「ちっ、死んでやがる。」

    信者の男は倒れてしまった少年の腕をぐいっと掴み引っ張りあげると、息絶えてしまった少年に舌打ちしてゴミのように放り投げた。

    「こっちの娘も駄目だ!」
    「こいつもだ!!」

    ナル神が神降ろしされた際に消費されたのは、大量のクリスタルだけではなかった。数人いたはずの少年少女の中で生き残っているのは自分だけだと、少年は理解した。

    「生き残りはこいつだけか。へへ、お前は運がいい。ナル神の御神託によって俺たちから慈悲を貰えるんだからな!」

    大人たちの手が少年の体に伸びる。
    着ていたぼろ切れは引き剝がされ、無垢な少年の体は欲望に支配された大人たちの手によって汚されていった。
    少年は痛みと恐怖で涙を流し助けを乞うが、少年の声は誰にも届かない。


    ああ、どうして僕だけが…


    他人より貧乏な家に生まれただけなのに、両親は流行り病に罹患して死んでしまい、家だったところには知らない大人が陣取って「ここはお前の家じゃない」と追い出されてしまった。

    おなかが空いて力が出なくなって道に倒れてしまっても、道行く人たちは誰も僕には見向きもしない。倒れたところに雨が降って水たまりができてしまっても、僕は起き上がることができずに口に入ってくる泥水を吐き出すことさえもできなかった。

    もう僕は死ぬのかなと思ったところで、僕は法衣を着た知らない大人たちに拾われた。
    最初こそ神の救いだと感謝したが、食事を与えられて回復したところで僕が連れてこられたのはこの祠だった。最初から僕は殺されるために拾われたのだ。


    ああ、どうして僕だけが…


    普通の家に生まれて親家族に囲まれた温かい家庭で育ちたかった。

    誰かに必要とされたかった。

    ここにいていいよと言われたかった。

    ぼろのように見捨てられたくなかった。

    大人たちの都合のいい道具になりたくなかった。

    誰からも奪われたくなかった!!


    僕だって、僕だって…
    奪う側の人間になりたかった!!!!


    少年が心の中で声にならない声をあげたそのときだった。

    ナル神が神降ろしされたときのように、少年に稲妻のような光の柱が落ちた。少年のまわりには青紫色の混じったような黒炎が巻き上がる。少年の体を弄んでいた大人たちは黒炎に焼かれ、人の形をした炭となってしまった。それだけではない。人型の炭の頭部からは眼球がぶら下がり、股からは臓物が飛び出ている。黒炎が舞い上がる際にいかほどの風圧が人間たちにふりかかったか物語っていた。

    真っ黒な死体たちと炎の中心には痩せっぽっちの貧しい少年はもういない。

    そこにいたのは白磁の透き通った肌、月のような銀色の瞳に涙を湛えた長いまつげ、憂いを帯びた艶やかな唇、そして青み掛かった銀色の流れるような長い髪の、少年から孵化したばかりの美しい青年だった。

    「ふむ…まだ精神状態の不安定さが心許ないが、まあこのようなものか。何せ奪われる側の人間の願いによって顕現されたのだからな。」

    神降ろしされた、商神ナル神に似ても似つかない赤黒い炎のエーテルを纏った”蛮神ナル”は、炭化した人間の死体を蹴り飛ばしながら銀目の青年のもとへゆっくりと近づいた。

    「これでお前もこれからは”奪う側”だ。」

    どこかまだ呆けた様子の、一糸まとわぬ姿の銀目の青年の前に片膝をつくと、蛮神ナルはその銀の髪を一束手に取って口づけた。


    「おはよう、私の愚かで可愛い”蛮神ザル”。」



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