がのぜるぜる 争いが無いことは一般的に良いことであり、歓迎されるべきことである。無駄に失われる命が無く、血も流れず、笑い声の溢れる世界とは多数の人間達が理想とするものである。
「はあ」
理想そのままの世界とまではいかなかったが、最善だろうと思われる形で争いが終息した世界に、小さいが長い溜息がひとつ零された。実に残念そうな響きに満ちていたその溜息は、歓喜と安堵に溢れていた世界には似つかわしくないように思えたが、発した人物が何者なのかを知ったならば、なるほどと納得がいくだろう。ゲルドの王の寝所に足を踏み入れられる者とは限られているが、寝台で好き勝手に寝そべる権利を得ている者はなお少ない。溜息の主はそうした限られた者のうちの一人であった。長身であるゲルド人のなかでも、王たる男は更に体格が良い。彼に合わせてあつらえられた寝台は小柄である溜息の主を難なく受け止め、つまらなさそうに身体を転がす動きに軋みひとつ聞かせなかった。
1911