本当にたまたまいつもと違う道の角を通ろうとした時
思い切りぶつかったのがはじまり
道具箱に納めていた筆やらを道にばらまいてしまって
大慌てで拾ってあげたな…
すまない!怪我は無いか?
いえ、こちらこそ
お気づきになれなくてすみません
ペコと頭を下げると
被っていたマリンキャップが落ちた
すると
ぽろんと可愛い耳がでてきた
!
?
次第に顔を青白くし私の顔の意味を知った犬の娘はマリンキャップを回収し逃げていった
その犬の娘は近くの路地で絵を売っていた
それ以外は何をしているか知らない
ちらりと前を通りすぎ絵を見る
歳は分からないが天才というのは
存在するものなのだと思った
大概絵描きなんて年老いたやつの趣味と
捉えていた私の偏見は意図も簡単に崩され
どんどんと目の前の犬の娘に引き込まれた
なぁその絵いくらなんだ?
ああ300 RUBだよ
えっ!
ん?なに
本当か?
ほかの絵は?
??
この大きさは全部300RUB
これは200RUB
このくらいになると70RUBくらい
少しでも彩りを加えられるなら
手軽の方が良いだろうし
あ、返品は受け付けてないよ
選ぶなら慎重にでも早い者勝ちだから
全部買うよ
は?
なんだダメなのか?
ダメではないが……
寧ろ良いのだが
何も無いぞ、おまけなんて
追加で何かを要求するほど
私は図々しくない
ふーん
じゃ合わせて2620RUB
払えるの?現金しか受け付けないよ
わぅ(おじが近くに寄ったので警戒して身を強ばらせた)
これだけの量だ
家に持ち運んではくれるだろう?
その時に払うよ
それは構わないが
ここから遠くないのか?
すぐ近くだ
ならいいけど
ここだ
ふーん
壁に飾るのがなくってね
ちょうど欲しかった
……
紅茶でも飲んで待っててくれ
今支払うから
うん
(本当に殺風景な空間だな……
紅茶の匂いがより一層際立つ)
はい、ありがとうな
どうも
パチッパチッ(お金を数えている)
はい間違いなく
紅茶ご馳走様でした
これで新しく絵が描けるよ
ありがとねおじさん
おぅありがとうな犬の娘さん
なんだ忘れてたのか
あの時ぶつかって来たやつの顔を
?
あ
何もしたりしない
ただ毎日あそこで絵を売る君を姿を見て
気になっただけさ
ふん……じゃあね
バタン
警戒心強いなあ
あの耳だからゴールデンレトリバーかなとか
単純に思ったがどうやら違うようだ
早速買った絵を飾る
久しぶりの心の躍動に新たな息吹を感じた
暫く犬の彼女はあそこの路地に出てこなかった
私はどうやら犬の彼女が気になるらしい
住んでいる家は?食は?絵以外は何をして?
絵を描くのだって一朝一夕で出来るはずがない
待て待つんだ私
気になる
私は彼女があの路地に訪れるのを待った
1ヶ月、2ヶ月…3ヶ月
もう儲けたから辞めてしまったのだろうか
そう諦めかけていた頃
ふとあの路地を見ると
犬の彼女が居た
しかし私が直ぐに参じたら
怯えてしまうだろうから
少し様子を見ることにした
通りすがる人全てが見る訳もなく
ただ背景として通り過ぎていた
たまに足を止め見る者もいたが
買わずに立ち去ることが多かった
まあ買うやつなんて
その価値が分かるやつだけだろうからな……
日々あの路地へやってくる
犬の彼女を見守るのが日課になっていたが
ある日から2ヶ月ほどやってこなかった
何かあったのだろうか
いや
彼女から絵を買ったくらいしか
それも1度に全部……
そんな縁しかない私が
何を心配しているのだろうか
でも変な奴に絡まれたりはしていなかったはず
仕事の昼休みや終わりごろになると
彼女がどうしているのか
無闇に心配するようになってきた
ある突然の雨が襲った日
仕事を終えて家路につくと
あの路地に彼女がいた
傘も持たず急いで店仕舞いをしていた
急いで駆け寄り
手伝うよ
!
どうも……
せっかくの絵が
大丈夫油絵だから
家帰って修繕する
君の家まで持ってくよ
ありがとう
ここ……家……
街のハズレの借家の一室に
彼女は住んでいるようだ
スッキリとした部屋だったが
似合わない引っ掻き跡がそこら中にあった
どこに置けばいいだろうか
そこでお願いします
ごと、と重い荷物を置く
ありがとうおじさん
ごめんなさい
何もお礼出来ない……
お礼なんて不要だ
それより君が
風邪をひかないか心配だ
……パタパタとしっぽが動いていた
すまない、いらない心配だったかな
ううん……
おじさんも帰り道気をつけて
出すぎたまねだっただろうか
濡れたジャケットをハンガーにかける
あの引っ掻き跡……
何か飼っているのだろうか
それとも誰かあの跡をつけたのだろうか
それとも誰かが彼女を傷つけて……?
プライベートに顔をつっこみすぎだ
落ち着け
とりあえず自分も雨を浴びたんだ
明日も仕事だしとっとと寝よう
あのおじさんなんなんだろうか
いっぱい絵を買って…かざって……
まあ儲かったし家賃払えたし
おじさん
おじさん
名前聞けばよかった
おじさん来ないな……
私が犬だからいけないのかな
新しく描いても描いても
売れてもなんだか嬉しくない
何ヶ月経ったかな
そうだ別の絵を描けばおじさんくるかな
何描こうかな
あれ
あ
あ〜……時期が来てしまった
暫く会えないや……
ふーっふーっ♡
ガリガリガリ……
今回のやついつもより苦しい
ガリガリ
んー……ふぅ……ぅ♡
おじさんに会ったからか?
ガリ……ガリ……
会いたいなぁ……
終わったか……?
あーさっぱりした
はあ……おじさん来てくれるかな
最悪雨降るなんて
撤収しないと
「手伝うよ」
!
どうも……
嬉しい、嬉しい……会えたおじさんに……♡
君の家まで持ってくよ
家?まずい引っ掻き跡埋めてない
どうしよう
でも助けてくれようとしている
この善意を無下にしてしまうのか
ありがとう
できない
久しぶりのおじさんに会えたのに
歩いている間何を話せば良いんだろう
話すことやってなかったから分からない
あ、家に着いてしまった
ここ……家……
つっこまれませんように
頭が他のことでグルグルしてしまった
はっと気づくと
おじさんが荷物を
どこに置けばいいか悩んでる
そこでお願いします
終わってしまう
用事がなくなって
ありがとうおじさん
ごめんなさい
何もお礼出来ない……
お礼なんて不要だ
それより君が
風邪をひかないか心配だ
(嬉しい……♡)
すまない、いらない心配だったかな
(行かないで欲しいだけ)
ううん……
おじさんも帰り道気をつけて
にこりと微笑むおじさんを見送って気づく
名前聞くの忘れた……
とりあえず彼女に何も無くてよかった
この間購入した絵を職場の机に配置をすると
仲間たちとの会話数が増えた
彼女に感謝せねば
帰り道あの路地を見ると
彼女はいなかったが
絵たちがそのままだった
不審に思い
近づくと別の路地から諍いが聞こえた
足に何かがぶつかる
彼女のマリンキャップだ
やめろ、離せっ!
雌犬の癖に人間様のフリをして
この犬畜生め!
ぐぅ……っ
振りかざそうとする拳を掴む
おい
はあ?
ごっ
落ちていたレンガを暴漢どもに喰らわす
がぶぅっ
ってぇ!この犬
その子に手を出すな
ひぃ
ごすんっ
おじさんっ!
大丈夫か
何もされてないか
大丈夫だ
はぁ……良かった……
ガシャンとレンガを床に落とし彼女を抱きしめる
っ
お、おじさ
ぎゅうううう
ぉじ……しゃ…♡♡
くるじぃ……♡
すまない!
とりあえず撤収しよう
大事にしたくない
ふぅ
ひとまず今日はここに泊まっていきなさい
夜一人で歩かせるには危険だ
疲れたろう
ここの部屋を使いなさい
ここにあるもの全て使って構わないから
ぱたん
……おじさんの匂いでいっぱい……♡
これはっこれはっ
またとないチャンスなのでは
女の気配がないか確かめてからだ!
ふんふんふん!
がちゃ
っ
?何している
床になんて転がって
なんでもない
(しっぽ高らかに降ってる……警戒の証)
ご飯が用意できたから
準備が整ったら来なさい
はい
見られた!
はしたないと思われたか
やだ、嫌われたくない!
がちゃ……
おお
そこに座っててくれ
なにか手伝います
いいよ客人は座っててくれ
すとんと椅子に座ると
召し上がれ
ぺりめに……
ぺりめに……
ぺりめに!?
ペリメニ!
ペリメニ!!
おじさん!ペリメニ好きなのか?
ん?
いやたまたまだ
しゅん
ペリメニばかり食べるなよ
スープもちゃんと…
口をつぐみ早くしろと
目で急かしヨダレを垂らしながら
待つ彼女を見て何も言えなくなった
ご馳走様でした!
口にあって良かったよ
とても美味しかった
ありがとうおじさん
まあ、紅茶でも飲め
いただきます
前も思ったの
紅茶の淹れ方上手だね
そうなのか?
うん
……
「「あの」」
!
君からお先にどうぞ
ん……おじさんの
名前を知りたいです
今更かもしれないけれど
奇遇だな私もだ
むふふっ
私はヴァシリーサ
おじさんは?
私はイリヤだ
イリヤね
分かった
そうだ
イリヤ、イリヤかあ
むふふふ
ふぁさふぁさとしっぽが揺れ動く
そらさっさと歯を磨いて寝ろ
イリヤもね
朝
あの嫌な夜が嘘のような晴天
おはよう
おじ、イリヤ
言いやすい方で構わんぞ
そうそうに朝食を済ませ
身支度をする
腹は落ち着いたか?
うん
家まで送る、昨日のことだ
何があるかわからんからな
狭いあの部屋に帰る
イリヤの居ない部屋に
さてとここだよな
そうだ覚えがいいんだなイリヤは
…まあな
荷物はあの時と同じ場所でいいよな
頼む
荷を下ろすイリヤ
でも大丈夫今は
名前を知っていて家も分かるから
寂しくない
さてと、じゃあな
次は気をつけろよ
うん
またねイリヤ