「初めて貴方の依頼を耳にした時分、正直困惑しました。流石に、今回は注文が過ぎましたよ。ただ、400年モノのワインはありませんでしたけど、貴方の大切な方が生を受けた丁度その年から400年続く老舗の醸造所はどうにか見つけたんです。中央の、小さな村にある工房ですが、これがまた素朴な味わいで……今回は特別ですよ、今後はこんな労力はとても割けません」
シャイロックは、カウンターの下に身をかがめて沈み込むと、ワインの瓶を抱えながら再び姿を現した。その一連の流れ、ワインを両手で抱えるその何気ない所作ひとつとっても、非常に絵になる、洗練された男だ。そして彼が店に立っている時などは、よりその特性が際立った。その点、予定不調和を嫌うフィガロにとっては、基本的に好ましい男だった。あくまで、”基本的に”だが。
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