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    renshu_asg

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    過去に書いたmhykフィガファウの小説 ファの過去にフィが迷い込む話? 再掲 やおい・読み味少し苦いかも 未成年飲酒描写あり

    「初めて貴方の依頼を耳にした時分、正直困惑しました。流石に、今回は注文が過ぎましたよ。ただ、400年モノのワインはありませんでしたけど、貴方の大切な方が生を受けた丁度その年から400年続く老舗の醸造所はどうにか見つけたんです。中央の、小さな村にある工房ですが、これがまた素朴な味わいで……今回は特別ですよ、今後はこんな労力はとても割けません」
    シャイロックは、カウンターの下に身をかがめて沈み込むと、ワインの瓶を抱えながら再び姿を現した。その一連の流れ、ワインを両手で抱えるその何気ない所作ひとつとっても、非常に絵になる、洗練された男だ。そして彼が店に立っている時などは、よりその特性が際立った。その点、予定不調和を嫌うフィガロにとっては、基本的に好ましい男だった。あくまで、”基本的に”だが。
    「ありがとう、忙しい中、ベストを尽くしてくれて、とても感謝してる。でも君のことだ、本当は出来の良かった年のワインを何百年もどこかに隠しているんじゃないのか」
    しかし、そんな彼を見ると、それを崩したくなる衝動に駆られることも、また事実であった。仮面を被り本来の自分を出さないという点で自分とスタンスが似ていながら、他人との衝突はまず起こさず、起こったとしてもすかさず緩衝剤を置くことが出来る男。そんな彼が、自分の為に感情を乱してくれる(ように演出してくれる)爽快感。これは、一度味わったらなかなかやめられなくなる。
    「やましいことのある貴方じゃないんですから、そんなこと致しませんよ。あなたも、自分の欲には疎い癖に、他人(ひと)が絡むとたまにとんでもなく欲張りますね。」
    シャイロックはいつものように、言葉を選び、フィガロの拙い揶揄いに丁寧に応答する。
    「きみだって、きみの美学の為なら泥臭いことだって平気でするだろ?そういうことだよ」しかし、フィガロは構わず平気で相手の心の中に土足で踏み入ろうとする。
    「心当たりがありませんし、仰っている意味自体が、よく理解できないのですが」嫌な客だ、と、シャイロックは思っているのだろうか。
    「う〜ん、このまま続けたいのは山々なんだけど、今日はこのやり取りをしにきたわけじゃ無いんだよね、悪いけど、失礼するよ」フィガロは、オブラートにも包まず事情を伝えると、雑談もそこそこに席を立った。
    「承知しました。それでは、またのご来店を」店を軽い足取りで出て行くそんな失礼な客を見送りながらも、シャイロックは笑顔を崩さない。



    「おまえか」
    フィガロがバーから出ると、意外な人物とすれ違った。黒い装束に身を包んだ、一見帽子と色の入った眼鏡で顔がよく見えない、狷介そうに見える人物。しかし、彼の本質はその印象とは正反対だということを、フィガロはよく知っていた。
    「ファウスト」
    彼……ファウストは、フィガロに声をかけられると少し歩いて立ち止まり、首だけでこちらを振り返った。恐らく、無視することと反応を返すことの面倒さを天秤にかけ、後者を取ったのだろう。
    「安心して、いま、お暇するところだからさ」
    意外にも、いつもよりは比較的、ファウストの心をかき乱す言葉をフィガロは選ばなかった。
    「別に、お前が居ようが居まいが、僕には関係のないことだ。……そうは言っても、店から酒をくすねてくるなんて小賢しい真似をするのは、見過ごせない」フィガロの手には、先ほどシャイロックから譲り受けた素朴なワインの瓶が握られている。
    「さすがにその決めつけは酷すぎない?きみに贈るために俺がシャイロックに見繕ってもらったものかもしれないじゃない」フィガロは、このワインを取り寄せた理由が彼にバレたらどうしようと少し冷や汗をかく。それを誤魔化すため、おどけてみせる。
    「仮にそれが事実だとしても、僕は口を一切つける気はない」ファウストはあくまでも、冷たい態度を崩さなかった。
    「えー、ツれないなぁ」そんな気は毛頭ないのに、フィガロは甘い言葉を吐く。ファウストは、そんなフィガロの相手にも飽きたのか、フィガロの横を通り過ぎようとしたが、ふと踵を返し、フィガロに近づいてきた。そして、右手をこちらに寄越し、
    「それ、貸せ」と、脈絡のない発言をした。
    「え」流石のフィガロも、その台詞は想定外だった。流れがわからない。
    「寄越せと言っている」内心慌てているフィガロを他所に、ファウストはさらに距離を詰め、ワインを引き渡すよう要求する。
    「は、え、?……さすがのフィガロ先生も困っちゃうなあ、きみ。ムードっていうものがあるでしょ……」フィガロは、いつもと様子が違うファウストに、面食らった。しかし、見覚えがないわけではない。この強引さは、昔と口調は違えど、彼がかつて自分の弟子だった頃によく見せた一面だった。
    「……ふん」
    ファウストは乱暴にフィガロからワインの瓶を奪い取る。そして性急に呪文を唱え、ワインのコルクを開ける。
    「お、おい、ファウスト!」そして、その中身を一気にあおりはじめた。フィガロは、かつての弟子の突然の暴挙に、ただただ困惑することしかできない。
    「一体なんのつもり」酒を一気にあおることは、人間でも魔法使いでも、危険だ。ファウストはしばらくだ黙り込んでいたが、彼のふらふらと足元が覚束なくなってきたので、フィガロが慌てて肩を支える。
    「……なんでも、ないと、言っている、だろう」酒がもう回ってきたのか、ファウストの呂律が怪しくなる。
    「何か変なものでも食べた?何か嫌なことでもあった?フィガロ先生が話を聞くよ」フィガロには珍しく、純粋な良心から、そうファウストに声をかける。すると、ファウストの頭がガクンと下がった。慌てて顎に手を添え顔を確認すると、ファウストは、スースーと寝息を立てて、気持ちよさそうな顔で寝落ちていた。
    「……え、今寝るの」フィガロは、廊下でファウストを抱えるというこの信じられない状況に一瞬途方に暮れたが、
    「とにかく……今はとやかく言っていられないね」
    彼の傷のことを思い出し、小声で呪文を唱えると、彼をぬいぐるみに変え、胸ポケットに忍ばせた。向かう先は、魔法舎で自らにあてがわれた自室である。

    (こんな無防備な顔、随分と久しぶりに見たな)
    ファウストを無機質な自室のベッドに寝かせ、ベッドの近くに椅子を持ってきたフィガロは、ファウストの顔を遠慮なくまじまじと覗き込む。
    (シャイロックに、悪いモノでも仕込まれたか)
    シャイロックとは、間接的ながら、浅からぬ因縁がある。……しかし、彼に限って、そんな姑息な真似はしないだろう。
    (……いや、やっぱり悪い気は感じられない)
    あどけなさの残る寝顔は、普段の物憂げな表情より、ずっと幼く見える。いまのところ、悪夢に苦しんでいる様子もない。
    ……そのとき、瞬きをした一瞬の隙に、自室だったはずの空間が、だだっ広い草原へと様変わりした。地平線まで、ずっと若い緑が広がっている、とても広大で美しい場所だ。フィガロは、突然の出来事に、素早く脳を回転させ始める。
    (一体、何が起こったんだ……) 周りを見渡すと、ベッドに横たわるファウストの姿だけが、変わらずに残っている。そして、ファウストの身体は強い魔力を帯びているようで、指一本触れることができない。
    (ファウストの傷の力が、いつもより強くなってる)フィガロは、この状況をそう結論づけた。
    手始めにまずは状況を確認しようと、フィガロは当たりを見回す。すると、草原に一本だけ生えた大木で木登りをして遊んでいる、二人の幼い子供たちを見つけた。髪の色、纏っている雰囲気から推測するに、恐らく、幼い頃のアレクとファウストだ。
    (多分、君の故郷か。……良いところだ)
    傷が見せる幻想に、先日目撃したような、怨嗟と憎悪に満ちた恨みの気は、感じられない。しかし、いつもより力を増した傷は、ファウストの夢の中までフィガロを引きずり込んでしまったようだった。
    (こんなとこで石になれたら、本望なのかな……いや、わからないな)フィガロは呑気に、半分切実に、そんなことを考える。
    すると、また周囲の風景が切り替わり、今度は暗い木材造りの倉庫のような場所に変わった。
    瓶詰めの食品や乾物が所狭しと並べてあるところを見るに、恐らく食糧不足の冬に備えるための貯蔵庫だろう。そこにまた例の二人の姿を見つけ、フィガロはこっそりと二人を覗き見る。ワイン樽の蛇口をこじ開け、二人の手には自宅から持ってきただろうワインには似つかわしくないマグカップが一つずつ握られている。
    「大丈夫だって!葡萄から作ったんだ、きっと美味しいに決まっているじゃないか!」
    「いや、さすがにまずいって……、母さまに怒られる」
    「その時は僕も一緒に謝ってやるから、ね!」
    ファウストが恐る恐る、彼の瞳と同じ色の液体で控えめに口を湿らせ、ゆっくりと、こくり、こくりと飲み干し始める。禁欲的な幼い彼がワインをあおる姿は、見るものが見れば、ひどく背徳的に見えただろう。
    「う〜ん、期待してた味とは違うな。もっと葡萄の味がしっかりするといいんだけど」同じくアレクもワインを飲み干し、そんな蠱惑的な表情を浮かべるファウストには目もくれず、独り言のような感想を述べる。
    「……そうだな」ファウストは呆れたように、しかし親しみを込めて、アレクにそう応えた。
    「きみのトラウマ……いや、ギリギリ、トラウマではないのかな」フィガロは、おおよその状況を把握した。この事態は、恐らくあのワインのせいだ。詳細に知っている訳ではないが、アレクとファウストは中央の小さな村で生まれ育ったと聞いた。偶然にも、フィガロがシャイロックに依頼して探し当ててもらったあのワインが、その村にある醸造所で作られたものだったのだろう。
    (……そういえば俺、ファウストの個人的なこと、好み、生まれ、全く知らないし、知ろうともしなかったな)このワインだって、自分の為だけに、自分に都合の良いファウストの象徴のようなものを用意して、それを見つめることで満足しようと、諦めようと思っていた。しかし、自分のことだけ考えて求めるだけで、ファウストの為を思って、何かしようと自ら考えたことが、今まであっただろうか。
    (そりゃ、昔からずっと一緒にいた、アレクに勝てないよ)
    そんなことに思いを巡らせていると、村を一望できる丘のような場所に周囲の風景が切り替わる。
    フィガロは丘を見上げた。すると、ファウストが大きく手を振りながら、こちらに大きな声で呼びかけてくる。
    「フィガロ様!どうしたんですか、早くしないと、置いて行ってしまいますよ!」
    ファウストの傍らには、アレクと、レノックスと、ファウストによく似た女の子と、妙齢の女性が、優しげな顔をして立っていた。
    「そんなこと言うなよファウスト、いま、行くよ」
    (……願望夢も極まれり……いいや、素敵な夢だね。とても、綺麗で、眩しすぎるよ、俺にはさ)
    フィガロは立ち上がり、ファウストたちの方へ小走りで向かった。
    (結局君のいちばんには、なれないのか)
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