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    ゆき📚

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    ゆき📚

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    【ロ兄術】《 浮かぶ罪の行方は迷子で》
    何気なく配信されていたものを見てみたらそこは沼でした。
    七海には虎杖君を甘やかしてほしいし虎杖君は七海に甘えてほしい
    そんな事を思いながら己の気持ちを落ち着かせる為に書きました。
    ※書いている時点でアニメ10話・原作9巻まで読んでいた
    お得意の雰囲気小説
    どんなものでもどんと来いな方よかったら読んでください

    ##JJKS
    ##七虎

    浮かぶ罪の行方は迷子で 「会ってほしい子がいるんだ」
     顔半分が隠れていても隠れていなくてもきっとこの男―五条悟という人間の思考は掴み切れないものなのだろう。
     七海建人はそんな事を思った後まぁ掴みたいとも思わないけれどもと誰に言い訳するでもなく付け足した。
     「誰ですか?私は今から現場に行くんですが」
     「その現場に連れて行ってほしんだ。僕の生徒をひとり」
     五条の言葉に七海の眉先がぴくりと反応する。
     また厄介な事を、と思いながら「貴方が連れて行けばいいでしょう」
     「それができないから七海に頼んでるんじゃーん、僕は僕で別件があるんだよ。ほら僕って人気者だから」
     どこまで本気で言っているのか、軽口は流すが基本と七海は「だとしても今回じゃなくても―」
     「いいやタイミングが良かった、こんな事言っちゃなんだけどね。君が僕の代わりとあらば僕も安心して悠仁を任せられる」
     その人物の名前を聞いて七海は五条が受け持っている生徒の名前と顔をそれぞれに思い出しそれがあの宿儺の器とされる人物の名前と合致がいくと「私にその器と現場に行けと?」
     「おもしろい子だよ。でもこっちの世界には来たばっかりだからさ百聞は一見にしかずって昔っから言うでしょ?君なりに呪術師とは何かを教えてあげてよ。君も気に入ると思うよ。今時いないくらいのおもしろい子だから」

     そうして会った宿儺の器―虎杖悠仁は自分が想像していた以上に平凡で、異端で、子供だった。

     「ナナミンッ」
     自分は教師では無い、先生と呼ぶのはやめてくれ。そう言ったのは確かに自分自身だが、まさか愛称で呼び出すとは想定していなかった。
     彼を見ていると本当にこの体にはあの両面宿儺の魂があるのだろうかと思う瞬間があったが、すぐに実際にそれを自分は見ている。奴は確かにこの少年の中に在るという現実を思い出した。

     呪霊だと思って対峙した異形が実は人間だったと知った時、彼は本気の怒りを見せた。
     あまりにもまっすぐすぎる怒りを見せる彼の目はよどみなく美しいとさえ感じてしまう程
     そんな彼を見る中で自分の胸に静かに何かが沈んでいく―
     忘れていた事、忘れようと思っていた事、そんな事は生きていれば吐いて捨てる程にある。
     どんな仕事をしていても、それはある。

     ***
     
     「ナナミンはさ、何でサラリーマンになったの?」
     ある日の昼前 七海は所用で訪れた高専内にある休憩スペースで椅子に座って紅茶を飲んでいると通りかかった虎杖が彼の存在を見つけた。
     「うわッナナミンじゃんッ!」
     そう言ってぶんぶんと手を振りながら自分の座る椅子の隣にぼすんと勢いよく座ってきたので七海は持っていたカップをテーブルに置いた。
     「お久しぶりです」
     「久しぶりッ元気にしてた?」
     ニカッと白い歯を見せて笑顔を向けた後、最初っから敬語なんて使う気はさらさら無いのをそのままに自分に話しかけてくる虎杖にのらりくらりとひと通り会話に付き合った後、ふとそんな事を尋ねられ七海は「前にも言ったでしょう」と返したのだった。
     「呪術師はクソってやつだろ?その後サラリーマンやって労働もクソだって気がついたって」
     「そうですよ」
     「でもさ、サラリーマンになるって決めた、えっとつまり呪術師がクソだって思ったきっかけってなにかあったのかなって」
     「…………」
     なんて事を聞いてくるんだろうと思い七海は眼鏡越しに隣に座る相手に視線だけを向けて驚いた。
     他人の為に本気で怒り、それ故に他人を想う
     彼のそんな瞳に影が見えた。
     それは彼と、継ぎ接ぎのいけ好かないヤツ―真人を倒すために共闘した後の姿を思い出させた。
     倒す為に救う事のできない人間を殺した。それが救いになるなんて言い訳だ。慰めは現実の前では時には澱となる―

     「そういった事は軽はずみに聞く事ではないですね。誰にだって触れられたくない事はある」
     「ッ、ごめん」
     自分の返しに焦ったように彼の口からこぼれた謝りの言葉を聞いて七海は少し後悔した。
     もっと違う言い方があっただろうに、そう思いながら先程の明るさが嘘のように黙り込んでしまった彼の姿にいつかの誰かが重なるような気がして息が詰まりそうになる。
     七海は遠くを見つめるように顔を正面に向けると静かに目を閉じ息を吐いて、そうしてゆっくりと目を開けた。
     「ここにいれば理不尽だと思う事やおおよそ理解しがたい現実を否が応でも目の当たりにします。貴方も知っているでしょう」
     「うん…」
     「私はね、そういう現実から目を背けたんですよ。物語の外側にいようとしたんです」
     
     『もう、あの人だけでいいじゃないですか』
     自分の心が折れた瞬間だった。思えば残酷な言葉を吐いたものだ。

     「ですが結局何処にいたって目につくモノはつくし社会は廻る。無視をして逸らして、そうして気がついたんですよ」

     呪術師はクソだ。
     他人の命さえ時には天秤にかけなければいけない。
     労働はクソだ。
     他人の命なんて天秤にかける程ではないという現実がそこにはあった。

     行き着く先が一緒なら
     生き甲斐くらい求めたっていいだろう

     「貴方は知った経験した。それでも私にとっては君という人間はこの学校に通って学びを享受する子供なんですよ。大人は子供を守る事が役目です。まぁ今となっては説得力に欠けるかもしれませんが」
     七海がそう言うと虎杖は「そんな事ねぇよッ」そう言ってぶんぶんと首を振った「俺、ナナミンがそうやって言ってくれる事今はすげぇ嬉しい」
     素直に伝えてくれる彼のこういった所を七海はとても好ましく思い、だからこそ自分の胸の隅の隅が静かに痛む。これも自分が大人になった積み重ねのひとつなのだろうか、それとも―

     「私の前ではいつまでも君は子供のままですよ」
     「それはそれで成長望まれてねぇって感じがするんだけど」
     不服そうに唇を突き出す虎杖の瞳から見えていた影がいつの間にか消えている事を七海は確認する。

     「今はゆっくり積み重ねなさい、青春は誰にも邪魔されぬ子供の特権です」
     「いつかナナミンの青春も聞いてみたいな」
     「たいしたものではありませんよ」

     クソみたいな世界であろうと、揺るがぬものを持って生きていこう。
     いつかまた天秤を見ねばならないその時まで―

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