アルカヴェwebオンリー展示作品「君、傘は持って行かないのか?」
今にも玄関を出ようとする後ろ姿へ、カーヴェは思わず声をかける。扉の向こうではきっと雨が降っているのだろう。ざあ、ざっ、と続く音にもお構いなしの同居人は、玄関に置かれた二本の雨傘へ見向きもしない。彼が朝食にしたであろうピタのスパイスとコーヒーの残り香を感じつつ、「体調を崩して困るのは君だぞ」と続けようとした台詞は込み上げた大きな欠伸に飲み込まれてしまった。
教令院で勤めるアルハイゼンと比べれば、カーヴェの生活リズムは不規則なものだった。納期に追われていた先週までとは異なり、今日の主な仕事といえば、午後の早い時間に打ち合わせが一つだけ。その時間までには雨が止んでいるといい。セットした髪は広がり、衣服の裾に泥が跳ねる。雨の日の不都合を思い浮かべ、カーヴェはうんざりとした気分を抱えた。
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