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    n_i7r

    @n_i7r

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    n_i7r

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    審眼 東の夢小説 羽村の指名で東にピアスを開けたモブキャバ嬢の話

    Fe 理科の授業は午後一番、お昼休みの直後だからいつも眠かった。出席番号順に割り当てられた窓際の実験机で、冬の日差しの柔和さに眠くてぼんやりしていたら、いつの間にか鶏の頭を解剖するのは私だということになっていた。薄い黄色に脱色した、ふやけた鶏の頭の水煮がごろんと一つバットの上に転がっている。閉じた目は窪んで破れていた。りえもみかこもあんなも口々にキモいと言って笑って嫌がった。唯一の男子の吉川は他の班の男子と喋りに行って帰ってこなかった。眠たくてぼんやりしていた、愚図でのろまな私だけがぽつんと、押し付けられたメスと錆びたピンセットを握る。丸い頭頂部に刃先を向ける。不可触民、って単語が一瞬よぎるのをすぐ忘れる。ばっちいから触っちゃいけない仕事。
     私の方を見ていない女子が高い声で叫んで何かを笑っていた。眠い。でも愚図でのろまでぼんやりしていた私が悪いのだ。鋭い替刃は音も立てずなめらかに皮膚へと侵入した。握っているのがメスだろうと針だろうと、学校は怠くて眠くて頭に霞がかかったようだった。鶏の頭骨は破壊されてゆく。




     「えー、じょーずにできるかなあ」なんて味のなくなったガムみたいな声で言いながら、灰皿の横にぶちまけられた安ピンの山から二三、握り込んで向き直る。目の前の男を見下ろす。男は微笑のまま俯いていた。それ以外にどうしようもないといった笑みだった。膝の上で握り込んだ両の拳がそれぞれ石のように、淡い色のスラックスに深い皺を刻んで鎮座している。すると視界が煙って白く霞む。痛くなるから瞼を細める。すぐ斜め後ろから吹き出された煙草の煙だった。煙で輪郭のぼやけた男に言う(心の中で)。ごめんね。悪いけど私今からあなたに穴をあけます。踏み出してヒールがこつんと鳴った。だって後ろの白スーツのおじさん、言うこと聞かないと怖いんだもん。というか私、あなたのことも怖いよ。ヤクザじゃん。
     「お膝しつれいしまーす」と言って男の膝の上に尻を乗せる。周囲で煙った笑いが起きる。「東さん羨ましいっす」って若い男からも冷やかしの歓声が上がった。チンピラ男にしては薄い胸板に片方の手のひらを載せる、あ、脈を打つ。筋肉が強張ったのがわかった。ひと撫でする。私は俯く男の顔貌を覗き込むようにして、肩をすくめて笑ってみせた。お互いの影の中で初めて目が合う。男は随分、分かりやすい表情をしていた。
    体重を預け、耳たぶに指先と唇を寄せる。「緊張してる?」。隣で薄く吐息が漏れた。「だいじょーぶだよぉ」。一切根拠のない言葉を、彼の鼓膜にだけ届く声量で囁いたら肩がびく、と跳ねた。事務所の安い冷たい消しゴムを、彼の耳の後ろに押し当てる。ここに向かって安全ピンの針を突き刺すのだ。中学の頃にクラスの不良がそうやって開けてたのを見様見真似でやっている。私にピアスホールは無い。素人にぶっつけ本番で穴を開けられるこの男も、気の毒だとは思う。思うだけだ。だってこんなものは、愚図でのろまであることへの罰なのだ。私は身体。あなたは立場。弱いということがどういうことか。二人で見世物になって思い知らされている。一瞬、煙草の煙が目に染みるから睫毛を伏せる。
     耳たぶの薄い皮膚の表層一枚、鈍ったスチールの針を試しうちに突き立てる。針先でかりかりと皮膚を削ると、古い組織が僅かに粉っぽく剥がれて白い傷になる。「このへんかなぁ」。近くで見ていた輩がそこそこ!と囃し立てた。ちらと焦点を横に滑らせる。男の喉仏が、息をする代わりに何か飲み込んで上下していた。ヤクザのくせに怖いんだ、この人。わかるよ。普通の人なら他人から付けられる傷はそれがどんなに小さくたって怖い。暴力とは、身体の輪郭という一つの自己定義に対する強襲的な侵略に他ならないからだ。手首切るからって彼氏にカッター握らせる女の子なんかいない。でもあなたは道を外れたくせしてまだ普通の人でいるつもりなんだろうか。
     親指の腹の位置を定める。押し込む。肉と消しゴムの境界は曖昧だった。隣の喉から何か絞ったような、短い声が漏れて、それは店内のEDMにすぐかき消された。針はずるずると挿入される。銀色の円筒の外周で組織液が赤く滲む。痛みというよりは恐怖に耐えて、彼の柔らかい耳たぶ以外の全身は硬直していた。
     貫通した消しゴムから針を引き抜いて、少し離れて彼を見る。耳たぶにぶら下がった安全ピンは、成人男性には全く不釣り合いで安かった。「あ」。私はちょっと上擦った声でわざとらしく呟く。「上過ぎたかも。どうしよう」。振り返って輩たちをきゅるんと見つめたら、もう一本、の指示が白おじさんからジェスチャーで成された。向き直る。だそうです。「じゃあもう一本いきまーす」。男は私を見向きもしないまま、これから折檻される幼児のように唇をわずかに噛んで、膝の上の女に諦めた体を預けきっていた。さっきより幾分か雑に消しゴムを当てがい、針を突き立てる。親指に力を込める。針先はなめらかに肉へと入ってゆく。男は短く息を震わせた。あ、なんだか、胸がどきどきしている。
     処女穴2つ貫通。後ろは盛り上がっている。手を離すと、男の左耳で銀色の安全ピンが2つ、シンクロして揺れた。男は押し黙ったまま、服の上からでは誰にも見つからないように、浅く呼吸を整えていた。具合が悪いのを隠す野生動物みたいだった。眼鏡が少しずれている。かけ直してあげようとつるに指先を伸ばしたとき、「あっ」と思わず声が出た。眼鏡を外された男がまるで他人事のように私を見上げた。彼の左耳、2つの穴から細く血が垂れ落ちている。ぶら下がったピンの下で膨らんだ赤い雫が、ぼた、と肩へと落ちた。とめどなく、もう一つ膨らんでは落ちる。
     眼鏡は私の手の中にあった。私をきょとんと見つめる彼に、私は黙ったまま眼鏡を戻、さず、ほとんど衝動的に、片手で前髪に爪を立てしゃわしゃ!と引っ掻き回した。驚いて竦む彼の顎を掴み、その額にぶつけるみたいにキスをする。



     うずくまって両耳を塞いでいる。比喩ではない。一発一発重い破裂のような銃声が私の内臓をいちいち揺らす。テーブルの下は狭く暗かったが、身動きは取れない。出ていけば銃撃戦に巻き込まれて死ぬ。
     この店の元締めのヤクザが解散したらしい。要は残されたちっちゃいシノギを巡ってのくだらない小抗争だった。私は逃げ遅れていた。他に何人が取り残されているのかもわからないが、少なくとも近半径1m、このテーブルの下には私以外に誰もいない。
     薄目を開ける。転がった鱗みたいなスパンコールが目に入る。私のドレスから落ちたのだろう。わずかに侵食する光が、ちらちらと床で何かに乱反射している。再び銃声が響いた。さっきより近い。私は再び全身をぎゅっと丸めて目を閉じた。胸がどきどきして、浅く上下する。呼気が気管を擦れる音と鼓動とが、塞がれた耳の内部で私にだけ響く。自分の呼吸の音を聞いていたら、死、の一文字が、脳裏に濃く滲んでくる。私は死ぬんだろうか。ここで。具体的な死の実感を目前にして、頭の血管が痺れて冷える。呼吸の音がする。

     突然、音が途切れた。轟音。複数。近くで何かがなぎ倒された。眩しい。私ははっと顔を上げた。
    「おい!」
     男だ。私を見下ろしている。彼がテーブルを蹴り倒したらしい。急に広くて明るい場所へと放り出されて私はにわかに自失する。
    「大丈夫か、あんた!」
     男は私の方へとしゃがみこんだ。殺される、と一瞬身を縮こまらせたが、そうではないらしいのが、強いけれど害意のない肩の掴み方で分かった。男はサングラスをかけていた。灰青のレンズの向こうの眉間がわずかに寄って、額には崩れた前髪が数本、汗で張り付いていた。まだ呼吸が荒い。男の肩の向こうを見遣ると、先ほどまで撃ち合っていた輩が数名倒れていた。倒れていない男も一名。さらに向こうに乱闘中の男たち。
    「東!そっちは!?」
     向こうの方から怒鳴られて、こちらの男も振り返って怒鳴り返した。
    「まだ一人いる!食い止めろ八神ィ!」
    「……りょーかいッ!海藤さん!」
     殴り合っているらしい。突然現れた男たちは、店内を占拠していた反社を次々なぎ倒してゆく。憮然としたまま目の前の男に向き直った。彼は左耳にピアスがある。黒と白の二つ。あっ、と思い出す。
    「あっ……」
    「おい、あんた」
     私の僅かな感嘆に雑に被さって、男が尋ねた。足へと手を伸ばしてくる。意図がつかめずその指先を目で追うと、ドレスのスカートの裾の近くで止まった。
    「この血はあんたの怪我か?」
     私も見遣る。裂けたストッキングが血で汚れ、裾は真っ赤に滲んでいた。割れたグラスの破片、床に散らばって光っていたのはスパンコールだけではなかったのだ。痛みに麻痺して気付いていなかった。
    「あ……」
     上手く答えられないでいる私の前で、男は背広をさっさと脱ぐと、私の膝に向かって放った。血に濡れた足が覆い隠される。男はそのまま私の肩を抱き寄せ、足の下に腕を差し入れた。視界が揺れ、体が浮く。
    「サツと救急車なら今呼んでる。しばらくそれで我慢してくれ」
    「……」
    「外に出る。掴まってな」
     男は私を抱え、走り出した。縦に長いキャバレーの店舗を駆け抜ける。私は寄越されたジャケットを握り締めて、下から彼の横顔を見つめた。顎に僅かな剃り残しがある。ほとんど確信していた。随分雰囲気が変わったが、その左耳のピアスは、あの時私が開けた穴に違いなかった。あの時の哀れで可愛い男の面影が少しだけ薫る。
     男は走る。進路に邪魔な机を蹴りとばす。ピアスホールはとっくに安定して、今は丁寧にあしらわれている様子だった。安物でないダイヤとオニキスが二つ仲良く並んで収まっている。きちんと選んで買ったのだろう。不安定に揺れたりもしない。あんなふうに付けられた傷を、彼は塞いだり痕跡にしたりもしなかった。ピアスホールはその意味をとっくに塗り替えられていたらしかった。身に受けた理不尽の象徴でも被虐の傷跡でもない。歴とした彼の一部であったのだ。
    「ぅおらアッ!」彼は吠える。私を抱えたまま、襲い掛かってきた輩を蹴りの一撃でなぎ倒す。走る。彼は私の顔も一切なんにも覚えていないらしかった。銃声と罵声、弾道に砕けたシャンデリアが彼の横顔の向こうできらきらとする。走る彼はあまりにも軽やかだった。身に受けたすべてを背負って立ってみせたのだと思った。だから私のことも必要ないのだ。流した血も怨嗟も傷になんかしてやらない、己の人生であるのだから、とでも言いたげな足取りが、転がる輩の腹を軽やかに、革靴で踏んで飛び越える。下の方で「ぐえっ」と言う。彼の手が私の肩を強く抱えなおす。私は彼に恨んですらもらえない。


     店前のアスファルトの上にそっと体を降ろされた。ドアを突破した途端、冬の夜の大気が露出した肌を冷やしはじめる。ずり落ちたジャケットを彼が拾い上げた。座り込む私へ、怪我した方の足ごとくるむように、彼のジャケットを上から羽織らされる。彼は私のそばにわざわざしゃがみ込んだ。「血ぃ止まってるか?」。頷いた。「他に怪我は」。首を横に振った。「……なら良かった」。彼は眉尻を下げて微笑んだ。文字通りの笑みであった。
     不意に耳元を吹き抜けて鳴る、乾いた夜風の後で、目にかかる髪を指で掻いた。彼は店へと再び踏み込もうとしている。「……サツが来るまでここで待ってるといい。気をつけて」。遠くからサイレンの音がする。「おにーさん」。呼びかける。彼は振り返らない。右手を掲げてひらひらやった。離れてしまう彼に声を張り上げる。「ありがとう!」「礼はいい!」。彼も負けじと張り上げた。「かっこいいね!ヒーローみたいだった!」「……」。ドアノブに手をかけて止まる。ややあって振り返った。あっ。ちょっとにやついている。
    「……フッ。そう大層なもんじゃあねえさ」
    「……」
    「俺ぁカタギ、あー、つまり普通の人だからな」
     そう言って手を振った。気持ち斜めに持ち上がった口角と眼尻とがかっこつけてんのを雄弁に物語る。可笑しくて笑ったら、開きかけのドアの中から野太い怒鳴り声がした。「東!こっち手伝え!」「へっ、へいッ!兄貴!」。彼は慌てて駆け込んでいった。ドアが閉まる。
     私が一人取り残されて、サイレンの音はまだもう少し遠かった。野次馬が少し集まっているらしい。肩にかけられたジャケットの端を握りしめた。人と人が話す声の間で空を見上げる。白く霞んだ息はすぐに空気に溶けて澄んだ。新宿の光害で焼けるような夜空にも燐光で浮かぶ月と、星が一つ二つ見えた。




    「もしもし、東?八神だけど。ああ、なんか依頼?でさ。お前の背広返しといてくれって。依頼者の女の子、名前も名乗んなかった。」
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