吸血鬼kicg 薔薇の匂いがする夜だった。全力で走っていても全身にまとわりつくような芳香を煩わしく思いながら、千切は獲物を逃さないよう神経を集中させた。ここ数年狙い続けていた獲物とようやく邂逅したのだ。このチャンスを逃せば次はいつになるのか分からない。何より、一度この目に捉えた獲物を逃すなんてプライドが許さない。
薔薇の生垣が迷路のように入り組む庭園を駆け抜けながら銀のナイフを握りしめ直した。
吸血鬼の始祖のひとりが棲みついたらしい。そんな僅かな情報を頼りにこの街にやって来たのが昨日のことだ。そこからさらに情報収集し当たりをつけてこの庭園で待ち構えていれば、果たして夜半に獲物は現れた。先手必勝とばかりに撃ち込んだ銀の弾丸は六発、うち二発は確実に獲物を撃ち抜いた。さすが始祖というべきか、小さな弾丸ふたつでは致命傷にならなかったようで相手は一瞬よろめいたがすぐにその身体を翻して走り出した。
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