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    ジュン

    正良が好き。思いつきを載せる。

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    ジュン

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    リハビリ
    正良

    モブでてくる
    飲食バイトしてる良
    酔っぱらい正

    色々荒いです

    酔いに任せて勢いでやけにひどい飲み方をしている客がいるものだ。
    良守は注文を片手に、厨房で眉間にシワを寄せる。
    この客は入店から、度数の高い酒を種類問わず飲み明かしている。良守はフードやドリンクを作っているだけなので、この客が何歳で何人でこの量を消費しているのかはわからない。だが、これはあまり褒められた飲み方ではない。というのは、このアルバイトを始めてからの経験で簡単に理解できた。
    時計を見れば、そろそろ終電が無くなる時間帯だ。
    杞憂であればいいが。
    つい、ため息が溢れる。

    「墨村さん、このドリンクもう持って行っていいですか?」

    ウェイターに声をかけられて、良守は「あぁ、ちょっと待って」と手際よくグラスに氷水を入れて盆に乗せる。

    「あれ?お水、頼まれてましたっけ」

    ウェイターが首を傾げる。
    良守は苦笑をこぼして、手を合わせる。

    「悪いけど、持っていってあげて。この人すげえペースで飲んでるみたいだから」
    「わかりました。じゃあ、いってきますね」

    愛想良くウェイターがフロアへ出ていき、件の客の元へ向かった。
    そして、ウェイターは客の顔を見て良守に関心をする。赤らんだ頬、据わった目、客はどうみても泥酔した様子だ。この店は席数が多いので誰が何を頼んだのか、そんなことを一々気にかけてもいなかった。
    (確かにこれは水飲んだほうがいいわ…)
    ウェイターが机に酒と水を並べると客は呂律の回らない声で「ありがとう」と言った。
    そして水をその場で飲み干し、空になったグラスをウェイターに差し出す。おそらく先程の礼は配膳ではなく、この水に対するものだ。

    「おかわりいりますか」

    良守は客が何人いるか知らないので卓の満席を想定して二杯分の水を用意していた。ウェイターは必要があれば置いていこうとしたのだが…

    「んー。大丈夫」

    もう客は日本酒に手を出していて、これ以上は不要だと言わんばかりに猪口に口をつけたので、ウェイターはその場を立ち去った。

    「戻りましたー」
    ウェイターが笑顔を消して厨房へ戻ると、なにやら良守は楽しそうにパフェを作っている。

    「……墨村さんって甘いもの好きなんですか」
    「なんでわかったんだ!?」

    良守が大げさに驚くので「そんなの見りゃわかりますよ」と半目であしらう。

    「俺、パフェ作りたくてこのバイトはじめたんだ」

    だとしたら完全に店間違えてるっしょ。
    とウェイターは心のなかで呆れかえる。
    時折、良守がボケているのか天然なのかわからなくて困惑するが、数ヶ月ここで働いてみてコレは天然なんだろうと気づいてからは、深く突っ込まないことにしていた。

    「でも全然パフェ注文入んねえんだよなー」

    そりゃあそうだろ。この店でスイーツを食うやつは稀だ。
    手際よく良守がパフェを作り上げていく、その様子をウェイターは皿を拭くふりをしながら観察する。

    「そういうのしたかったら、もっといいバイトあるんじゃないっすか」
    「えっ、たとえば?」

    喫茶店しかないだろ。と思ったが、ウェイターにいたずら心が働く。

    「メイド喫茶、とか」
    「メイド喫茶??」
    「えっ。墨村さん、まさか知らないんですか。メイド喫茶っていうのは」
    「ばか!それくらい知ってる!でもそういうのはメイドが作るからいいんだろ?」
    「……墨村さんジャージメイドとか似合いそうっすけどね」

    ウェイターが笑うと良守は目を見開く。

    「俺がメイドすんの?」
    「メイド喫茶なんだから、そうっしょ」
    「じゃあ嫌だ」

    良守が頬を膨らませて「おら、パフェ持ってけ」とウェイターを急かす。

    (可愛いーな、墨村さん)

    にやけ面でウェイターがフロアに戻り、さてこれはどこの卓のパフェだ?と伝票を確認して眉をひそめる。

    「おまたせしました」

    パフェを注文したのは例の大酒飲みだった。
    この酒飲みがパフェ?しかもこの客はそういったものを好みそうな見た目をしていない。
    ひとことで言えば、渋くて男前。

    「ありがとう」

    そう笑った顔も、大人の男らしくて今からこの可愛らしいイチゴパフェを食べるとは思えなかった。

    (もしかして、あとから女がくるのか?)

    まあ、別にどうでもいいか。
    ウェイターは深く考えることをやめて、また厨房へ帰る。


    「なあー、あのお客さんなんか言ってた?」
    「え?」

    厨房へ戻ると良守が笑顔で駆け寄ってきた。

    「なんかってなんすか」
    「あ、いや。なんもなかったらいいんだけど」
    「別に、普通にありがとう…って感じでしたよ」
    「ふーん」

    そっけない返事とは裏腹に良守が少し嬉しそうな顔をして、疑問が残る。

    「あの。もしかしてその客、知り合いっすか?」
    「いや、違う」

    違うんかい。
    ウェイターが肩を落とすと、良守が「実は初めてなんだ」と笑った。

    「なにが?」
    「聞いて驚け!さっきのはな、俺がこの店で働いて初めて作ったパフェだ!」

    たまげた。
    そんなレアメニューだったのか。

    「よく、レシピ見ずに作れましたね」
    「関心するところはそこじゃねえよ!もっと感動しろ!記念すべき第一号だぞ」
    「まあ墨村さんにとってはそうでしょうけど、この店始まって以来初ではないんで」
    「なんだよドライだなー!」

    良守はケタケタ笑いながら皿洗いを始める。
    その手伝いをしようかと腕まくりをしたところで、ウェイターは別のウェイターに呼ばれてしまう。またフロアへ戻らなければ。
    今日はバイトが少ない。そのわりに客入りが多いので、良守も場合によってはフロアへ出ることになるだろう。

    「墨村さん」
    「おん?」

    厨房へ顔だけで覗かせて、ウェイターが良守を見つめる。

    「なんだよ」
    「いや。もしフロア出るなら、それ落としてからにしてくださいね」

    そう笑って、ウェイターは立ち去った。
    良守は首を傾げる。指さされたところを鏡で見て、ハッとした。
    そして、すぐさまティッシュで拭う。

    「もっと早く言え…」

    頬にクリームがついていた。





    数分のうちに店内が慌ただしくなってきた。
    次第に厨房のバイトたちも手分けをしてフロアへ出ていく頻度が高くなっていく。

    「墨村さん、すみません。ドリンク作ったらそのまま配膳行ってもらえます?」
    「おう!任せろ!」
    「あ、エプロンしたままで行かないで」
    「すまん!」


    良守は見た目のわりに腕っぷしがあるのか、ビールジョッキを両手いっぱいに持って数往復しても、ケロッとして戻って来る。いっそ常時フロアに出てもらったほうがいいのでは?とウェイターたちからは推薦の声が上がり、厨房からは「墨村に仕事増やすな!」と反発の声が上がっているくらいだ。


    「墨村さんは実際のところどう思ってるんすか」
    「うん?」

    忙しさの波が引いた頃、ウェイターが良守に雑談を振る。皿を洗いながら良守はウェイターの言っている意味がわからずにきょとんとした顔をした。


    「ウェイターのほうが時給上がるし、そっちに専任するってのは?」
    「えー、でも俺パフェ作りたいしなぁ」
    「パフェなんて滅多に出ないじゃないっすか」
    「これからは分かんねえだろ……」
    「じゃあパフェは作っていいならどうです?」
    「うーん。やっぱ俺、そういうのは向いてないと思う」
    「そうっすか?」

    ウェイターからすると良守は元気で声もよく通る。適性は充分あるように見えるが。

    「だってほら、敬語使えないし」
    「あー。そっすね」

    実際、ウェイターのほうが歳上だ。
    しかし良守のほうが長く働いているので、ウェイターはそのことについては特に気にはしていなかった。

    「だからヘルプでちょろっと出るくらいでちょうどいいかな」
    「でもまぁ。敬語に関してはそう心配しなくても大丈夫すよ。俺でいけてるくらいし」
    「いや、お前意外とちゃんとしてるじゃん。お客さんの前だと別人だし」
    「…そっすか?」
    「そうだよ。なんか、執事っぽいっていうか」
    「なんだよそれ」

    褒められているのか揶揄われているのか、よくわからなかった。

    「じゃあ俺が執事で、墨村さんはジャージメイドでやりましょ」
    「またそれかよ…」

    良守が拗ねて会話を続けなくなったので、ウェイターは別の話題を投げかけた。

    「てか。そういやパフェの人。さっき盛大に寝てました」
    「まじか。生きてる?」
    「イビキかいてたし生きてるんじゃないっすか」
    「やば。どうすんの?」
    「さあ?店長はほっとけって。でも女子は誰が起こしにいくか揉めて殴り合いしてたかな」
    「……俺、行ってくるよ」
    「え?」
    「ソイツけっこう酔ってんだろ?女子になんかあったら大変じゃん」
    「あっ、墨村さん」

    ウェイターが止める間もなく、良守はエプロンを脱いでホールへ出ていってしまった。

    (男前…)

    でも、あとで女子に何か言われそうだ。
    なんせ女子たちは、その客を起こしに行きたがっていたから。
    あとから非難されるのは、目に見えている。

    そのときは庇ってやろう、とウェイターは苦笑した。







    「お客さん」


    ゆさゆさ。小さなぬくもりが肩に触れるたび、真っ暗な世界がグラつく。

    ここはどこだっけ。
    わからない。

    飲みすぎた。
    こんなはずじゃなかったんだけど。

    暑い……


    「お客さん!」


    うるさい。
    なんなんだ、静かにしろ。
    迷惑だろ。


    「こいつ全然起きねえ……ちょっと痛い目見せるか」


    喧嘩売ってんの?ばかなやつ。素人に負けるほど、俺はやわじゃないよ。


    「結」


    囁き声とともに、脳天へ鈍痛が降りかかる。


    「痛っ…てぇ」


    頭を抱えて声がした方を睨む。
    すると、ウェイターのような男が呆れた様子で俺を見下ろしていた。


    「帰れ」


    こいつ……なんだ。
    それが客に対する第一声?

    「客がなに?何言ってんのか全然わかんねえよ」

    まったく、どっかの誰かみたいな声で喧しくて堪らん。


    「もう。おまえ飲み過ぎ……ほら、立って」

    やめろ。触るな。
    振り払いたくても上手く力が入らない。

    「こら!しゃきっとしやがれ!」

    腕を掴まれて、無理矢理立ち上がらせようとしてくる。生意気だなぁ。ムカつくなぁ。
    軽薄な笑みが漏れ、反抗心が燃えあがる。


    「ちょっ!?」

    細い腰。ちゃんと食べてんの?

    見上げた先にあった男の顔は、怒りで赤く染まっている。

    満足だ。あっぱれ。
    勝った、そんな気持ちになってきて気分がいい。

    「〜っ離れろ!なにしてんだ!立て!」


    あー。なんか本当に良守みたいじゃん。
    すごく懐かしい。この感じ、悪くないな。
    この店、喫茶店みたいな雰囲気で居心地がいいし酒安いし。パフェあるし。
    おまけに良守みたいな店員までついてくんの?
    良いところだ。毎日通っちゃいそう。
    ていうか、良守。あいつ今なにしてんだろ。


    「会いたい……」
    「はぁ?!誰に?いいから離せっ!」


    これってセクハラになるのかな。
    お金払ってるからいいか。
    いや、そういう店じゃないんだっけ。
    兄弟だから許される?
    いや、これ良守じゃないわ。


    「ごめん。酔ってた」


    謝って許してもらえるもんかな。
    でもまあ……

    「ごめんね」

    笑って、目を見て言えば許される。たいてい、そうやって凌いできた人生だった……しかしコイツ目がどこにあるか、ちょっと分かんない。
    あやかしかァ?


    「もう、ほんと勘弁しろ。いいかげん帰れ」
    「あ?」


    驚いた。肩を抱かれて無理矢理連れ去られる。
    大したもんだ。俺、けっこう重いのに。
    大胆な店員もいたもんだ。




    「墨村さん!」


    良守が男を担いで店を出ていこうとするのが見えて、慌ててウェイターが良守の元へ駆け寄る。


    「大丈夫っすか」
    「大丈夫。コイツ酔ってるだけだから」
    「いや…」

    ウェイターは良守を心配して言ったつもりだった。


    「店の外に捨ててくるわ」
    「えっ。それ大丈夫すか」
    「抵抗されたらやり返すから平気」

    いや、ウェイターは担がれた客を心配して言ったつもりだった。


    「会計あとで俺がするわ、ちょっと待っててな」
    「あっ、え?」


    良守が自動ドアを抜けて店外に出ていく。そして店横の路地に男を投げ飛ばして、手を払って店に戻ってきた。


    「墨村さん、力強いっすね……」
    「え?」
    「あ、いや。なんでもないっす。会計どうしますか」


    ウェイターが客の伝票片手にレジへ向かうと良守がポケットから財布を取り出したので、慌てて静止する。


    「ダメですよ。いくらなんでも知らんやつの肩代わりすんのは」
    「……まじでごめん」
    「え?」


    突然、良守がいじめられた子猫のような顔をしてウェイターに謝るので、彼はたじろぐ他なかった。


    「あれ、俺の兄……みたいな」
    「あー。なるほど」

    チーン。レジが会計を済ます音が二人の間に軽快に響く。


    「あざっした」

    形式上ウェイターが軽く頭を下げる。
    良守は苦虫を噛み潰した表情で頭を下げかえす。

    「ごめん。ほんとごめん。すぐ戻る」
    「ゆっくりで大丈夫っすよ。店長になんか言われたら適当に言っとくんで」
    「あっそっか。まず店長に言って」
    「いや店横で死なれても困るんでさっさとお兄さんどうにかしに行ってください」


    ウェイターに店外へほっぽり出されて良守は深いため息をついて、兄の元へ行った。






    「てめぇ…」


    路地でくたばっているかと思いきや、正守はビルの壁に寄りかかってタバコを吹かしている。


    「よお。お前も吸う?」
    「ふざけんな!」


    良守は正守の頭を殴って、口に銜えたタバコをつまみ地面に投げ踏みつける。


    「路上喫煙禁止!」
    「ポイ捨てもダメだよ」

    正守はケタケタ笑って良守が踏みつけたタバコを懐から出した携帯灰皿に捨てた。


    「夜風が気持ちいいね」
    「もっと他に言うことないわけ……」

    良守がしゃがみ込んで正守を睨みつける。


    「ごめんね」
    「許さん」
    「そういわずにさ。今日は何時に終わるの」
    「答える義務は無い」

    酔っているせいかヘラヘラしている正守の態度に、良守は呆れて何もかもがどうでもよくなってしまった。
    正守に会うのは何年ぶりだろう。
    こんな形で再会するとは、お互いに思いもしなかった。


    「じゃあな、俺もう仕事戻るから。あとは自分で何とかしろよ」

    思いのほか冷たい声が出てしまった。と後悔する前に良守は立ち上がって、正守に背を向ける。

    もう、会うことはない。


    「行くな」

    手を掴まれて、ビクッと肩が揺れる。
    酒のせいで正守の手のひらがとても熱くて、心臓が飛び出た。

    「大人なんだから一人で帰れるだろ…」

    振り返って後悔した。
    正守が、じっと良守を見つめている。
    こんなふうに下から見上げられるなんて初めてかもしれない。不思議な感覚で目眩がした。


    「金がないのか?それともスマホ?……なんとか言えよ」
    「良守」


    名前を呼ばれて、ずくり。心が絆される。

    「なに」
    「ほんとに良守か?」
    「……うん」

    こんなに弱々しい声で話す正守を初めてみて、うろたえてしまう。


    「待ってる」
    「は?」


    待ってる?なにを。
    良守が眉を寄せると、正守が立ち上がって視線が高くなる。
    見下されて、相変わらず背丈の差を嫌でも感じさせられる。

    「良守を」

    顔を覗き込まれ、喉が引きつる。


    「いっておいで」


    肩を押され、街道へ戻される。
    それにより良守は人工的な光に包まれた。路地の影と黒衣によって正守が闇に溶けていく。


    「兄貴…!」

    路地へ戻ると変わらず正守はそこにいて、良守は息を呑む。


    「なに?」
    「あっ、いや……」


    気まずい。
    どうしよう、良守は悩んで咄嗟に「どうだった?」と聞く。


    「どうって?」
    「……パフェ、美味かったか」


    あぁ、顔が熱い。なにを馬鹿なことを聞いているのだろう。あんなものは誰が作ったって味が変わるものではない。なのにこれではわざわざ良守が作ったのだと明かしたようなものではないか。なんだそれ、恥ずかしいやつすぎる。言わなければ正守が気づくこともなかったというのに。
    だめだ、正守の酔いが移ったのかもしれない。
    良守は赤くなる頬を見られたくなくて、軽くうつむいた。


    「実は…パフェが食べたくてこの店にしたんだ」
    「え?」
    「とっても美味しかった。ごちそうさま」

    正守が笑って良守の頭を撫でる。

    「また食べたいな……」

    そう囁かれて、良守は羞恥が限界を超え、その場から逃げるように立ち去ってしまう。




    「あっ。墨村さんおかえりなさい」

    厨房で作業をしていたウェイターに声をかけられ、良守はぶっきらぼうに頭を下げる。


    「すまんかった」
    「別に何も迷惑かけられてないっすよ。店長が言ってたけど、墨村さん出ていったのちょうど定時だったみたいだし」
    「え?もうそんな時間?」
    「はい。だからもう今日は上がってください。お兄さんもほっとけないっしょ」


    いや、それは別に…
    と良守がドギマギしたのをウェイターは見逃さなかった。


    「じゃあ飲んでいきます?」
    「は?」
    「飲んでってください。奢ります」


    そう言った。ウェイターの手には、この店で一番安いグラスワインがあった。


    「いやでも俺まだ…」
    「時計、見て下さい」
    「え?」
    「十二時過ぎてる。墨村さん、お誕生日おめでとうございます」


    無理矢理、グラスを手に持たされて良守は戸惑ってしまう。

    「早く飲んでもらっていいっすか」
    「えっ」
    「金は後で払うけど、流石に厨房で飲んでるの見られたらあれなんで」


    ウェイター手を掴まれて、良守は唇にグラスを当てられる。
    そして覚悟を決めた良守はグラスの中身を一口で飲み干した。

    「うぇ!!」

    途端、アルコールが喉を焼いてむせかえってしまう。

    「無茶しすぎ。水飲む?」
    「いい…」
    「そう。じゃ、いってらっしゃいませ」


    ウェイターに外行きの笑顔で見送られ、良守は正守の元へ向かった。




    「……おまたせ」
    「ううん。じゃあ、いこっか」
    「!!」

    酔っているせいか動作が雑な正守に肩を組まれ、良守はビクッと震えあがる。


    「近くにいい店があるんだ」
    「えっ、いや。兄貴もう帰ったほうが…」
    「良守に奢られっぱなしじゃ俺の気がすまん」
    「じゃあ金だけ返せ」
    「そう硬いこというなよ。誕生日だろ?」


    ぐっと肩を寄せられ、良守はその距離の近さに耐えられなくなる。

    「重い!離れて歩け!酔っぱらい!」
    「酔ってない。俺ぁはぜんぜん酔ってない」
    「酔ってんだよ!呂律まわってないし、俺に寄りかかってなきゃまっすぐ歩けてないし!大人しく帰れ!」
    「いやだ。せっかく休みとったんだぞー、ぱあっと飲み明かそう」
    「帰れ!!」
    「うん?良守……おまえ」
    「ひっ?!」

    立ち止まった正守に、くいっと顎を掴まれて良守は無理矢理鼻先が当たるほど近く正守と見つめ合うことを強要される。


    「酒の匂いがする……なんで?」
    「えっ、いや。それは」
    「はたらきながら店の酒のんでんの?わるいバイトだなぁ」
    「ちげえわ!!バイト仲間が誕生日祝いって帰りに奢ってくれたんだ!」
    「ふーん?」


    そう言った正守の顔が、極悪に歪む。
    あ、これ。なんか、まずった?
    良守が気づいた時にはもう遅く。
    正守は良守の首に腕を回し、その巨体に似つかわしい腕力で容赦なく痛めつけた。


    「ぎゃああ!!なんでだ!!ギブっ!しぬ!!」
    「じゃあ俺と付き合ってくれる?」
    「しぬ!わかった!(何軒でも)付き合うから!離せっ!!お願いだから!!!」
    「そうこなくちゃ」

    パッと腕を離され、良守は噎せ返りながら尻もちをついてしまう。

    「ってぇ!!」
    「何してんのさ」

    クスクス笑って、正守が右手を差し出してくる。
    良守はそんな正守を恨めしく見上げて、己だけで起き上がってみせた。

    「今夜は帰さない、とか言ってみたかったんだよなー」
    「あっそう……」
    「連れていきたいところが山程あるんだ。早くついて来い」
    「はいはい……」


    なんでこんなことになっちゃったんだろ。
    そう思いつつも、夜風の冷たさで熱くなる頬が早く引いていくことを良守は願うのであった。



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