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    ジュン

    正良が好き。思いつきを載せる。

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    ジュン

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    大遅刻ホワイトデー正良
    捏造しかありません
    比較的正常なはずです

    さて、どうしたものか。
    正守は予報外れの雨に足止めを食らい、駅舎から空を見上げていた。
    売店の傘は全て売り切れており、時間を潰そうにも喫茶店はどこも満席だ。この様子では、どうせタクシーにもバスにも乗れやしない。
    やむなく改札口まで戻ってきたが、雨足は止むどころか激しさを増している。こうして立ち尽くしていても状況は変わりそうになかった。

    「はぁ…」

    懐から携帯電話を取り出し、悩ましげに顎髭を撫でる。
    家族に迎えに来てもらうか?
    否、この大雨の中わざわざ迎えを頼むのは流石に身内とてはばかられる。
    恐らく父は食事の支度をしている時間だろうし、末の弟はまだ幼く、祖父は論外。この雨で風邪を引かせてしまったら大変だ。
    残るは次弟だが、やれやれアイツに頼んでも来るはずがないと正守は深いため息を零した。
    正守は良守に嫌われている。
    性根が優しいとはいえ、生意気盛りの弟ことだ。なんだかんだ理由をつけて断るに違いない。どんなときだって正守の思い通りにはならず、どこまでも可愛くない弟…それが良守なのだ。
    しとしと降り続く雨を呆然と眺めながらあれこれ考えているうちに、はてと思う。
    最後に良守の笑顔を見たのは、いつだっけ?
    はっきりと覚えていない自分に、思わず苦笑してしまった。
    たしか、幼い頃はよく笑う子だったように思う。
    目が合えば「にいちゃん!」とハツラツにこちらへ駆け寄ってきて、まるで雛鳥のように正守の後ろをついてくる。そんな良守の小さな手を握ってあげると嬉しそうに眉を下げるから、いつまでもずっと傍で守ってやりたい…そう思わせるいじらしさがあった。
    しかし、今はどうだ。
    そんな要素は微塵もない、欠片もない。
    会えばムスッと嫌そうな顔をしてくるし、声を掛ければ煩わしそうな態度を露骨に示す。
    良くも悪くも素直に育ってしまった結果、まったく可愛げのないクソガキに成長した。
    方印を持って生まれてきたくせに「家を継ぎたくない」だの甘ったれたことばかり抜かすし、かと思いきや自己犠牲が過ぎる姿勢で仕事に臨む始末。あまりにも未熟で軟弱だ。
    そんな良守の青さに、正守は思うところが多々あった。
    いっそシンプルに「兄の立場を奪った邪魔者」だとか「才能がないくせに家を継ぐなど笑止千万」などと思わせる、憎悪の対象になってくれたのならよかったのだ。
    しかし、奇しくも良守はそんなふうに思わせるほど愚かな人間にはなり得なかった。良守はそれなりに立場や身の程を弁えており、さらに才能も申し分ない。足りないのは“おつむ”くらいなもので、正守にとって良守は「ないものねだり」の、いわば嫉妬の対象でもある。
    力も家督も、正守が欲しい権威を全て持っているのに、良守は正守のような野望を抱かない。
    それどころか「兄貴」と呼ぶ良守の眼差しには、羨望と哀愁が色濃く混じっている。手のひらの方印が一体どんなものなのかを知っても、良守は変わらず、優しい心を失わなかった。あわれで無垢な雛のまま、すくすくと育ってしまったのである。
    本当に酷いやつだ。憎ませてもくれないなんて、家族という絆は非常に厄介で複雑な感情を正守に抱かせる。
    そうして長年モヤついた感情に苛まれ続けてきた正守は、良守が自分をどう思おうが一向に構わないといった姿勢をとるようになってしまう。つまり、良守から嫌われることにしたのだ。
    いっそ憎めとすら思っていた。酷い言葉、嫌な態度も必要があれば無遠慮に浴びせたし、笑顔の思い出が霞むほど沢山泣かせてきた。
    しかしそんな過程はどうであれ、結果的に良守の為になることを正守はしているつもりだ。ゆえに後悔はなく、他から文句を言われる筋合いもない。
    これでいい。正守は良守との距離感を、憎まれるくらいでちょうどいいと考えている。そのほうが、圧倒的に居心地がよかった。良守が憎ませてくれなかったから、こちらから憎まれるように仕組んだ。
    それは、とても単純でシンプルな責任転嫁ともいえる。我ながら愚かだと思いつつも、正守はそういう役回りを好んで買って出ていた。
    だから、良守には嫌われて当然のはず…だったのだが。

    「兄貴!」

    なんだ?気づけば目の前に、雨合羽を着た良守がいた。形がポンチョなせいか大きなヒヨコみたいだ。


    「ん…」

    良守は上目遣いで正守に傘を突き出す。正守の記憶が正しければ、良守はたくさんの人混みを掻き分け正守の元へ駆け寄ってきた。
    それはつまり…いや、どういうことだ?

    「ん、ってば!」

    しかも、ぶっきらぼうな態度で再度正守に傘を差し出してきたではないか。

    「まさか、迎えに来てくれたのか?」

    唖然としつつ声を掛けると、良守は恥ずかしそうにコクンと頷く。
    おったまげた。これは一体どういう風の吹き回しだ。この大雨の中、合羽だけで歩いて駅まで来たというのか?可愛くない弟が、好きでもない兄のために?
    呆れた。よく見ると髪が濡れているし、鼻も指先も真っ赤になって痛々しい。まだ春には程遠い季節だ、濡れて悴んで寒かったろうに。

    「いらねえの、傘…」

    少し拗ねたような声がした。
    じっと正守を見上げる、不安げな瞳に心臓を掻き乱される。
    早く礼を言わなくちゃ、意地悪な兄らしい言葉で態度で少し鼻につくような礼を…

    「わぷ!!」

    気づいた時には良守を抱きしめていた。
    びしょびしょに濡れた合羽ごと、その胸に閉じ込めていた。

    「おい!着物が濡れちまうだろ?!」

    離せと暴れる良守を、無理やり力で押し潰して黙らせる。良守が「ぐぇ」と白目を向くまで、ぎゅっと力いっぱい抱きしめてしまった。

    「すまん」

    らしくないことをした、と手を離す。
    良守は顔を真っ赤にして何か叫んでいたが、正守は他のことに気を取られていて聞き取れない。
    だってもう手遅れだ。
    長年抱えてきた、度し難い感情の理由に気づいてしまった。

    「何とか言えバカ兄貴!」

    「ありがとう良守」

    「は?」

    「だから、迎えに来てくれてありがとう」

    「お、おう?」

    良守は眉をピクピクさせて、不思議そうに正守を見つめている。無理もない。良守に対して、こんなふうに飾らず素直に礼を言ったことなんて一度もないからだ。
    普段なら「ありがとう」の次に、他に余計な一言や二言を付け加えて良守を怒らせている。それをしなかったから、奇妙に見えたのだろう。

    「…お前、ほんとに兄貴だよな」

    不服そうな上目遣いに胸がキュッとなる。
    どうしてそんなに小動物のようなクリクリとした目をしているのだろうか。
    抉りとってしまいたくなる。

    「まあいっか。早く帰ろうぜ?父さんがご馳走作って待ってるからさ」

    良守はコホンと咳払いするフリをして、気を取り直し出口へ歩み出す。どうやら正守の不可解な言動について深く考えることをやめたようだ。
    一方、正守は眉間に深く皺を寄せた。
    良守は父親に頼まれて迎えに来たのだと察し、急につまらない気持ちになる。そうだよなぁ…と落胆している自分に舌打ちをしたくなった。

    「おい良守、ちょっと待て」

    とことこ長靴で先を行ってしまうから慌てて追いかけ、渡された傘へ入れてやる。

    「ほら」

    傘を良守のほうへ傾ける。すると振り返った良守が首を傾げ、正守を見つめた。

    「?べつに俺、傘なくても平気だぞ」

    あほか。合羽を過信するなと叱りたくなったが、説教はやめだ。正守は肩の荷が降りたような、されどまた重たい荷が降り掛かってきたような未知の感覚に襲われ、どっと溜息が零れ出す。

    「風邪引いたら困るだろ。半分だけ入れてやる」

    「そっか。あんがと」

    案外とすんなり、されどおざなりに礼を言うのが非常に可愛くなかった。せめてこちらを見てから言え。

    「〜♪」

    隣を歩く良守は、遠くの景色を眺めながら鼻歌を歌っている。もはや正守のことなど眼中に無い様子だ。そんなところが良守らしいのだけれど、それがどうにも気に食わなかった。
    街路樹の枝から落ちた大粒の雨音がビニール傘に跳ね返り響くから、さらに正守の苛立ちを煽る。

    「〜♪」

    良守の小さな鼻歌は、耳をすませなければ簡単にかき消されてしまう。
    けれど、よく聞き馴染んだ歌なことは分かった。これは父が料理をするとき口ずさむ曲だ。
    父の手伝いをしながらきいた、あのメロディーの心地良さが蘇る。コトコト音を立てる鍋、いい香りがする台所。幼い正守はしばしばシンクの前に台を持ってきて、野菜の皮むきを手伝っていた。父はその横で正守が剥いた野菜を、手際よくトントン包丁で切っていく。

    『〜♪』

    嗚呼、なんて懐かしい記憶だろう。良守が生まれるまで、台所に立つ父の隣は正守の特等席だった。忘れかけていた実家での思い出が蘇り、ふっと目を細める。少し掠れた、甘い良守の歌声をもっと聞いていたい気分だ。
    しかし、あの角を曲がれば実家への一本道へ繋がってしまう。
    名残惜しく感じた正守は「なぁ」と声を掛け、良守の鼻歌を遮った。

    「コンビニ、少しだけ寄っていいか」

    「なんか買うの?」

    「うん。歯ブラシ持ってきてないし」

    「いや、それくらい家にストックあるから新しいの貰えばいいだろ」

    「あと髭剃りとか」

    「父さんのじゃ駄目なわけ?」

    「ああいうのって人それぞれ合う合わないあるんだよな」

    「ふーん?あっそ」

    渋々といった態度だが、コンビニへ向かう正守の足取りにちゃんと着いてくる。なんだかんだで根は良い子だから、簡単に悪い大人に騙されてしまう。
    本当は、髭剃りにこだわりなんて全く無い。
    寄り道をしたのは、ただ口実が欲しかったからだ。
    もう少し良守と二人きりで居たい。
    理由なんて、それだけだった。






    「欲しいものあったら、カゴに入れていいぞ」

    「別に…」

    といいながら良守は店内を興味深そうにキョロキョロ見ている。普段コンビニなんて、そうそう立ち寄ることもないのかもしれない。
    良守は少しばかり箱入りというか、世間知らずなところがある。

    「肉まん食う?」

    「食わねえ」

    口をへの字にして怒られた。
    なんでだ?と正守は首を傾げて、あぁそういえば「父さんがご馳走作って待っている」と言っていたか。面白くない。どうせなら買い食いの誘惑に負けて、贅沢な晩御飯を半分も食べられず残してしまい、正守を恨めしく睨むくらいの展開がいい。想像しただけで思わず笑顔になりかけた。


    「利守にお菓子買っていこうか」

    「アイツ、菓子あんま食わねえぞ」

    「そう?でもお煎餅くらいなら食べるだろ」


    ドサドサ適当にスナック菓子やらをカゴに入れていく。隣からジト目で見られているが無視して、チョコレートや甘い菓子も入れてやった。
    家に置いておけば良守も勝手に食うだろ、という魂胆。誰から貰ったかなんて些末なこと、少し抜けてる良守ならば数日経てば気にしなくなる。
    それに良守が食べなくとも、家族の誰かが食べてくれれば別に構わなかった。
    本音を言えば、良守が欲しがるもの買ってやりたい気持ちもある。
    でも此処に無いものは買えないし、そもそも可愛げのない良守のことだ。素直に強請りそうもないので、適当にポンポンとテンポよく菓子を買っていく。


    「ちょっと兄貴…それ責任取って全部自分で食うんだよな」

    カゴいっぱいの菓子の山を、良守は若干引いた表情で見ていた。こういう買い物に夢を感じないとは、このままだと良守はつまらない大人になってしまう。


    「別に一日で食べるつもりで買ってないから」

    「えっ、何日入り浸る気?」

    「おいおい。俺が長く家に居ちゃ不満か」

    良守と適当に会話しながらレジへ向かい、アルバイトが述べた金額を支払って、ビニール袋いっぱいの菓子を受け取る。
    それから出口で傘を広げる前に、袋から箱を一つ取り出して良守に渡した。


    「なにこれ」

    「チョコレート」

    「…くれんの?」


    そうだと頷くと良守は俯いてしまった。
    こんなもの欲しくないと怒ったのか、それとも子供扱いするなと拗ねたのか。合羽のフードで顔が隠れて、よくわからない。
    参ったな。店先でじっと見ていたからこれが欲しいのかと思ったのに、どうやら思惑は外れたようだ。こんなもの貰っても迷惑だったのかもしれない。

    「それ、迎えに来てくれたお礼」

    そこそこ値段の張る菓子だったが、あまり気負わないように肩を叩く。
    傘を広げて隣を伺うと、ちゃんと寄り添って着いてきたから内心ほっと安堵してしまう。
    しかもその横顔は、怒っても拗ねてもいない様子だった。

    「礼なんて要らねえのに」

    そんな言葉のわりに、良守はチョコレートの箱を大事そうに両手で持っている。

    もしかして嬉しかったのか?


    「俺さ。雨が降る前、台所でスナップエンドウの筋剥きしてたんだ」

    唐突に良守が話し出す。

    「父さんのお手伝い?」

    「うん。兄貴が帰ってくるから〜って父さんはりきって料理してて、頼まれて」

    「よく料理、手伝ってるんだ?」

    「ううん。俺にできること少ないから…たまにだけ」

    そんな良守の不甲斐なさそうな表情に、正守は眉を寄せた。
    昔から良守は、とてもよく父に似ている。優しすぎて自分の手には負えないことにまで気をかけ、心を痛めてしまう性質が正にそうだ。
    俯く良守を見ればわかる。きっと今、父の負担を軽く出来ない自分に不甲斐なさを感じているのだろう。それどころか自分の存在が家族にとって大きな負荷になっているのでは無いか、とすら思っていそうだ。
    あほらしい。
    正守から言わせれば、それは良守の愚かな独りよがりでしかない。良守の後ろめたさと罪悪感に、父の思いは比例しないはずだ。
    少なくとも父は、良守にそんな顔をして欲しいから家事を手伝わせているわけではない。夜行で曲がりなりにも子供を預かっている身の正守にはわかる。
    子供は、大人の目なんて気にせず自分のしたいようにやりたいことをやればいいのだ。至極真っ当な父は、良守にもそれを望んでいることだろう。
    例え育った家の生業が異質だったとしても、父はとりわけ良守の気持ちを尊重しようと努めていた。
    洋菓子を禁じる祖父に内緒で、正守や良守に甘いケーキを振舞ってくれたり、ときには間を取り持ってくれた。不在にしている母の分まで家事や育児に励み、息子達が寂しい思いをしないよう、包み込むような温かさで接し続けてくれている。正守は常々、そんな父には頭が上がらない思いでいた。本当に、自分には勿体ないくらい良い父親だ。
    だから、そんな顔しなくていい。良守はもっと素直に甘えればいいのだ。父ならばその全てを受け止めてくれるはずだから。たとえ立場がそれを許さないとしても、父は息子を息子としか見ていない。子供が親に不甲斐なさを感じる必要はないのである。
    しかし良守は、恐らくそんな父の気持ちを正しく理解できないのだろう。それは良守が愚かだからではなく、墨村の家で生まれ育ったが故の弊害の一部である。
    良守に、世間一般の自由は許されない。許されないのに、それを真の意味で理解しろというほうが酷だ。どちらの思いも中途半端に理解ってしまう正守は、善悪で判断出来ぬ事象に頭を抱えたくなってしまう。でもわからなくてもいいから、せめて背負いすぎないでほしい。そう願うことは、正守の独りよがりなのだろうか。
    正当後継者である良守に、子供らしさを望むのはある意味で残酷だ。 どうせ我慢の連続でしかないのだから、欲望に従う人生など茨の道。もがけばもがくほど諦観の味を舐めさせられる。嫌になるほど無味無臭の絶望が喉元をすぎていく無情、正守には手に取るようにわかる。
    ああ、そうか。
    だとすれば「甘えればいい」なんて、口が裂けても言えやしないか。それは大人にとって都合がいい言い訳でしか無かった。 自由を与えてやれない責任まで、良守に押し付けようとして…
    良守は一見生意気に伸び伸びと成長したように思えたが、それは違う。いつだって身勝手なのは昔から正守のほうだったと思い知る。
    墨村の正当後継者として生まれ堕ちた時点で、良守の人生は良守のものではない。
    もしも良守が、母がいなくなったのも兄がいなくなったのも『正当後継者』に生まれた自分のせいだと思い込んでいたとしたら?父と弟から、大好きな母と兄を奪ってしまった罪悪感は底知れないはずだ。家族がバラバラになってしまったのは全て『正当後継者である良守』がいるせいだ、と万が一考えていた場合…正守が良守にしてやれることなんて何も無いのかもしれない。選ばれなかった者が何を言ったって、良守の心に影をさすことになる。
    雨に濡れてまで嫌いな兄の元へやって来たのは、大好きな父のため。他の家族のため。

    だとしたらバカだ、本当に…

    喜ぶべきではなかった。


    「ん?兄貴なんか言った?」

    「いいや。やっぱり菓子買いすぎたかなって思ってたとこ」

    「ばーか。だから言ったじゃん…知らねえからな」

    「そんなつれないこと言わないでくれ。良守にも消化してもらわなきゃ、いったい誰が食べるんだ」

    「案外ジジイが食うぜ?イヤイヤを装ってペロってさ」

    「それはそれでいいけどな。でもお煎餅は利守にあげてくれ。片手で食べられるものなら、父さんにも。仕事の合間に食べるだろうし」

    「ほらやっぱり。俺、必要ないじゃん…」

    だから、なんでお前はすぐそういう面倒なほうへ物事を捉えるのだ?とは言えなくて間があいた。きっと言葉を口に出したら止まらなくなり、意図せず刃物のように良守を抉ってしまう。それは不本意だ。
    嫌われてもいいが、それは故意に傷つけたいわけじゃない。
    良守のためを思うならば、子供らしさを望むのは非道だ。他の家族には出来まい。
    でも正守は良守に憎まれたい。憎まれたいから、甘やかすのだ。

    「そのチョコレートだけは、誰にも渡さないでくれ」

    「え?」

    「ほら、あれだ。ホワイトデー」

    だから良守に食ってもらわなくちゃ困る。
    我ながら苦しい理由だ。
    でもいい。なんでもいいからでっち上げないと、良守は甘やかされてくれない。


    「俺、兄貴にバレンタインあげてないけど…」

    「貰ったから渡すってもんでもないだろ。日頃の感謝の気持ち、ってやつだよ」

    「胡散臭え。なんでもいいけど、兄貴も帰ったら筋取り手伝えよな」


    驚いた。なんだ、それってそういう話だったのか。
    まさか一緒にやろうと誘われるだなんて、思ってもみなかった。

    「上手く、できるかな」

    「大丈夫!伝授してやっからさ」

    「ありがとう…良守」

    楽しみだ。そう微笑むと良守もニッコリ笑う。

    「なんか兄貴が素直だと変な感じする」

    「失礼な。俺のことなんだと思ってる?」

    「やな奴」

    「あっそ」

    存外ストレートな言葉に傷ついた。

    「怒った?」

    「怒ってない」

    「うそつけ〜怒っただろ」

    「うるさい」

    「やーい怒った!」

    「ガキか」

    本当こういう、可愛くないのが可愛い。
    虐めたくなるし、憎まれたくもなる。

    「兄貴!チョコ、ありがとな」

    たとえ良守が正守に笑いかけたって、空に虹はかからない。
    けれども良守の笑顔は、絡まった複雑な正守の情念を照らす、一筋の陽光となった。





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    ジュン

    MEMO片思い良すぎかよムーブやばち独りごつ
    これは正良かと言われたらわかんないけど一個思いついたのが、良が妖に時ねへの恋心を奪われてしまうのを正が取り返しに行く話読みたい。
    恋心奪われたのに良はそれに気づかなくて普段通りお勤めをして学校に行く日常を過ごしていて、時ねはちょっとだけ普段と何かが違うような違和感を感じるけど(元々良の想いを知らないから)それが何か気づかない。
    というのも良は時ねに対して恋愛感情が無くても大切に思う気持ちが変わらないから。周囲が良の心が欠けていることに本人含め気づかない。
    で、偶然実家に帰ってきた兄貴がいつも通り時との事をからかったら良が照れたり怒ったりしないことに違和感を覚える。
    その違和感を確信に変えるためにその晩、お勤めに正もついて行ってわざと時ねに思わせぶりな態度をとったりしてカマをかけてみる。普段の良なら絶対にあいだに割って入って怒ったり拗ねたりするはずなのに呆れたり赤くなるけど「兄貴もしかして、ときね好きなの?!」みたいな顔してるから正は良が時を好きだった気持ちがまるっと無くなってると気づく。良おまえ最近なんかあった?例えば厄介な敵と対峙したとか…って話を聞き出して妖に奪われたのだと確信。 でも助けてやる義理ないし、本人気づいてないし。あんなに好きだったのにこんな簡単に手放せるもん?とかモヤモヤ思ったりして。
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    ジュン

    REHABILI思いつくままとりあえず書き連ねていく正良のクリスマスってやつをよぉ。
    甘い上にこれさいごまで出来てないからよぉ。本当にごめんなさい。でも正良のクリスマスほしい。サンタさん来ない。泣いた。
    そのうち完成する、わからん。めっちゃねむい。明日も休ませろ。明日から冬休みになれ。越前青学の柱になれ。なんとか、なれー。
    寒波到来、この辺りにも雪が降り始めている。今晩は室内にいても凍えるほど寒い。だが一人暮らしの良守は節約するためなるべく暖房器具を使用したくなかった。親の仕送りを無駄遣いしたくないからだ。もちろん自身でもアルバイトをしているのでその金を宛てがうこともできる。でも今月はダメだ。12月24日、兄の正守がこの家に来る。理由は聞いてない。でもわざわざクリスマスイブに約束を取り付けてきたんだから、それってつまりそういうことだろう。良守は正守を愛している。正守も良守を…恐らく愛してる。断言はできない。イマイチ掴みどころのない男だから。しかし、一人暮らしを始めてから正守は何かと良守を気にかけるようになった。実家で暮らしていたときは年単位で会うことがなかったのに、今や月一程度には顔を見せあっている。何がどうしてこうなった?初めこそ困惑したが、正守と過ごす時間は存外楽しいものだった。突然ピザを一緒に食べようと言って家にきたり、成人したときには酒を持ってきて朝まで酒盛りをした。思い返せば正守は唐突に連絡を寄越してやってくる。そうして毎回良守を振り回しては満足そうに笑っていた。だけど良守が嫌がるようなことはしない。むしろ今までやれなかったけれど、やってみたかったことを叶えてくれているような気さえした。それは良守の思い上がりかもしれないが、しかし良守の中で正守は完璧でいけ好かない兄ではなくなっている。というか正守は全然完璧なんかじゃなかった。酒が好きなくせにすぐ酔って眠ってしまうし、ケーキは盗み食いするし、課題をして構わないと拗ねる。この部屋にいるときの正守はまるで子供みたいで、だから説教好きでジジくさい兄のイメージは簡単に崩れた。いつの間にかいけ好かないと思っていた兄との関係は、気の知れた良き友のようなものへと変わっていった。実家ではないからだろうか。二人きりで過ごしていくうちお互いに妙な意地を張るのをやめた。そのうち不思議と2人を取り巻く据たちの角は丸くなり、隣にいる時間がなにより愛おしく思えて…何気なく無言で見つめあったときキスをしてしまった。
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