バニラ「なあ、君……」
とある昼下がり、隣で装備品の手入れをしているチェンバーに羨ましそうな視線を向けるKAY/Oが、ふと声をかけた。
「なんだい」
「思い出したんだが、君、この前カップアイスを食べていただろう」
「あぁ……ジェットに貰ったお土産の?」
「そうだ」
あれはなかなか素晴らしかった、と味を思い出したのかニコニコとご機嫌に笑む。KAY/Oはそんなチェンバーの口元を指差した。
「冷凍庫から出したばかりで、少し硬そうにしていたな」
「ああ、少しだけね」
「その時の、アイスをスプーンですくう時の君の口元が……」
そろりと唇に触れ、ふにふにと摘まんで弄ぶ。
KAY/Oはキスのかわりに、時折気紛れに唇を愛でる。これもまた、人らしい触れ合いを学んだ彼の愛情表現のひとつ。
「……ぐっと噛み締められていてな」
ここまで言って、KAY/Oが耐え切れないといったふうにくすくすと笑いだす。
「どんな時も顔色ひとつ変えない君が、菓子ひとつに苦労しているのかと思うと……ふはは……!」
やがては椅子の背もたれに仰け反って大笑いしはじめた。
日々新しい表情を見せてくれる恋人に、嬉しいやら愛おしいやらでコアが回転数を上げる。
「はずかしいぞ……!」
「ははは!愛らしく見えてな、ふふっ……、ムッとした顔になっていて、すごく……っふ」
「おい!」
チェンバーの口元も思わず綻び、恥ずかしそうに目元を覆った。
ここまで詳しく観察されている事も、KAY/Oの前だとつい表情が緩みがちな事も、どうにも恥ずかしい。
「君は可愛いなぁ、チェンバー」
「ああそうさ、親しみやすい僕も好きだろ?」
「当然だ」
KAY/Oがバシ、とチェンバーの背を叩くと、ウ!と苦しげに呻いて顔を顰める。
相変わらず、力の調節は下手なまま。
「時々、整備中もそういう顔になっているから、思い出したんだ」
「……もしかして今も……?」
「ああ」
まいったな……と目を瞑ると、それを見たKAY/Oがまた、大笑いする。もう笑うのはよしてくれ!と嘆くチェンバーの声。
それをたまたま部屋の前を通りかかった誰かが、物珍しげに聞き耳を立ててはクスクスと笑う。夕飯どきの話題が見つかった、と上機嫌に立ち去った事に二人は気付かない。