明日の朝は目玉焼きが無い「ありがとう、買っていくよ」
天気に恵まれた夏の午前、私は紙袋に入ったフランスパンを抱えて上機嫌なチェンバーの後をついていく。市場の暖かな賑わいは、暑いほどだった。
店主の小気味いい商品解説を聞いていた彼はとくに悩みもせず、しっかりと質の良いものだけを選別して購入リストに加える。そういう所は抜け目がない。無駄使いは窘めないとな、と頭で考えるばかりで実行に移す事はしない。日々を営む彼の横顔を、出来るだけ長く眺めていたい。私だけの愛おしい景色だった。
また買い物袋がひとつ増える。勿論、荷物持ちは私。このくらいしか仕事がないから、わざわざ強請って得た役割。
「きみは気前がいいな」
水を撒いた後の、石畳の土やコケが焼ける独特なにおいにセンサーが反応する。嫌いじゃない。
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