七夢伊。 眠れない人がもしいたら、彼らに寝かしつけられちゃってください。 一度はうとうととしたものの、恐ろしいイメージが脳裏を横切った気がして、私は目を開けた。
これは、朝まで寝つけないパターンに、入ってしまったかもしれない。
同僚たちと慰安できた旅先の、畳敷きの旅館の一室で、私は体を起こす。
すると、少し離れた場所で眠っていた七海さんが、小さな声で問いかけてきた。
「どうしました」
「ひゃっ…すみません、起こしちゃい、ましたか」
「いえ、私も寝つけなかったので」
「…どうか、したんですか」
伊地知さんの声まで聞こえ、私は下を向く。
旅館の手違いとは言え、彼らと同じ部屋で眠ることになった上、安眠を邪魔するとは不甲斐ない。
小さく溜息をつく私へ、伊地知さんが問う。
「夢さん。何かお話を、しましょうか」
…私は彼らに、先ほど見たイメージの話をした。
怖い、怖い、怖い。
目を瞑って眠りに落ちる寸前、それが瞼の裏に現れるのが、怖い。
話していて、涙が出る。
すると、暗闇の中で、七海さんが私の背を撫で、提案があると優しい声で言う。
何もしないから、布団をくっつけて、眠りましょう。
あなたの夢に出てくる怖いものから、私が護りましょう。
伊地知さんも隣で頷き、私は彼らに挟まれて、眠る体勢となる。
恥ずかしい、と思ったのも束の間、急に疲れがどっと出たような気がして、私はもう一度目を閉じる。
少しずつ微睡の淵へ落ちる瞬間、またあのイメージが。
優しい大きな手が、私の手を握ってくれた。
もう片方からは、髪を撫でてくれる感触。
知っている二人の声が、大丈夫、と小さく告げるのが聞こえ、イメージが霧散していく。
残るのは、ただただ深くて暖かい、眠りの世界だった。