初夏らしい、爽やかな夜だった。ほんのり湿り気を帯びた風が薄いレースカーテンを柔らかく揺らし、決して広くはない部屋に涼を運んでいる。その部屋の中央に据えられたテーブルを、楓は日和と郁弥と囲んでいた。こうして三人で顔を突き合わせることは、もうすっかり楓の日常に溶け込んでいる。
三人が囲んでいるさして大きくもない箱は、男子大学生の食欲を煽る、香ばしい匂いを放っていた。夕飯なに食べようか、と郁弥と楓の二人がどちらともなく言い出して、街角のとある看板にふと目を引かれた日和が「僕、たまにはフライドチキンが食べたいな」と漏らした一言で全てが決まった。どうせなら他にも色々買って家で食べようとテイクアウトにした。ずっしりと三人分のチキンが詰まった、温かな箱を抱えるという重要な任務を与えられたのは楓だった。誰がこの重たいものを持つのか三人でじゃんけんをして、負けたのだった。
2026