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    Kiri78_tuwabuki

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    Kiri78_tuwabuki

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    ぷらいべったーには全く同じものが名前変換機能つきであります。
    名前変換がいらない方、ポイピクの方が読みやすい方等はこちらをご覧いただけたらと思います。
    夢主:牧野花 25歳のOL
    悪夢に悩まされている。

    回夜宝寿の甘美な夢私は薄暗い路地を歩いている。後ろからカツカツと足音が響く。私は誰かに追いかけられている。どんなにあるいてもその足音は止まない。やがて私は走り出す。カツカツといえ足音は止まらない。そしていよいよその音は私のすぐ後ろまで迫ってきていた。
     もうムリだ。そう思って振り返ると…そこには…。
     そこで私は目が覚めた。汗をかいて髪も身体もベタついている。しばらくは頭が覚醒せず、上手く身体を動かすこともできなかった。やがてここが自分の部屋であの薄暗い路地ではないことに気づいた。やっと夢から抜け出すことができた。その事実にほっと胸を撫で下ろす。
     私は牧野花、25歳のしがないOLだ。この八百万町には就職を期に越してきた。この町に不満はない。住民は皆助け合い、人も人外も平和に暮らしている。しかし、この町に越してきて以来、私はある現象に悩んでいた。それが悪夢だ。
     勿論この町にくる前も悪夢を見たことがなかったわけではない。それでもここ最近は眠れば必ず悪夢を見るのだ。3年前は月に一度程度だったそれが段々と増え、今では毎晩となってしまった。
     時計を見れば起きるには早すぎる4:36を指していた。しかし、眠ればまたあの恐怖を味わうことになる。私は仕方なく珈琲を淹れて、仕事をすることにした。

     「牧野さん。牧野さん起きて。」
     その声で目をさますと私は車の助手席にいた。隣を見ると会社の先輩が心配そうにこちらを見ている。今日は先輩と外回りをするはずの日だった。つまり私は先輩に運転を任せておきながら助手席で眠ってしまったこととなる。
     「ごめんなさい!先輩眠ってしまって。」
     慌てて頭を下げると先輩は頭を上げるように言った。
     「いいのよ。それよりも最近牧野さん顔色悪いし、体調悪いんじゃない?先方には私だけが行きましょうか?」
     「いいえ!大丈夫です!行けます!」
     夜眠れなかった反動なのか仕事中に眠ってしまった。私は頬をピシっと叩くと鞄を持って車を降りた。
     仕事の方は特に問題なくこなし、先輩の厚意で会社に戻らず直帰させてもらえることになった。
     家路を歩いていると、スマートフォンが鳴る。画面を見れば八百万町に住む友人である美波からの通話だった。通話に出ると元気そうな美波の声が聞こえる。晩ご飯のお誘いと私に伝えたいことがあるとのことだった。美波には私の悩みである悪夢について相談していた。きっとそのことだと思って、私は、友人の誘いに二つ返事で了承したのだった。

     美波に指定されたイタリアンレストランに行くと、2分後に美波が手を振りながら歩いてきた。
     「ごめんね。花待たせちゃって。」
     「全然待ってないよ!今日はありがとう。」
     美波は色白でスラリとした体型の美女だ。今日もオフショルダーのニットとショートパンツ、金色のチェーンの鞄という少し派手だが可愛らしい服装だった。仕事帰りのまま灰色のスーツで来た私とは正反対だ。
     店内に入り、注文が済むと美波から口を開いた。
     「ねぇねぇ、こないだアサヒくんとデートして来たの!」
     私は予想外の話題に咄嗟に反応することができなかった。アサヒくんのことは美波の話で聞いている。所謂レンタル彼氏というものでお金を払って食事やテーマーパーク等に行ってデートというサービスを提供する男性だ。私には縁のない世界だが、美波はアサヒというキャストにドハマリしている。
     「えっと…良かったね。」
     私は適当にそう返した。 
     「あっ花興味なさそう!私だって意味もなくこんな話しないよ!」
     美波は可愛らしい顔をぷくっと膨らませる。こんな表情は美波だから似合うのだろう。
     「花言ってたじゃん。悪夢を見るのが悩みだって。それアサヒくんに話してみたの。勿論花の名前はだしてないよ!悪夢なんて珍しい悩みでもないし。」
     意外な話の進み方に若干驚いてしまった。正直レンタル彼氏という職業には不信感しかないため、そんな人の助言など信用することはできないと思った。
     「アサヒくんって一応非公開だけど人間じゃないのね。まあ人間とは思えないくらいカッコいいから言われなくても分るんだけど。だから人外の知り合いも伝手も沢山あるみたいでね。相談してみたら悪夢の専門家と知り合いだって言うの!」
     美波は興奮したように言っている。もしかするとアサヒくんの新情報に喜んでいるのかもしれない。それにしても悪夢の専門家とはまた胡散臭い専門家がいたものだ。
     「花は獏って妖怪知ってる?」
     「バク…?黒と白の?」
     動物園で一度見たことがある。すごく大きくて可愛いとは思えなかったが、面白い動物だと思った記憶がある。
     「違う違う"獏"。悪夢を食べてくれるっていう縁起のいい妖怪だよ。」
     美波にそう言われて、確かにそんな妖怪がいたようないなかったようなという気持ちになる。八百万町に住んではいるが正直妖怪や怪異には詳しくない。むしろこの町に来るまでは怖くて一切調べてすらいないタイプの人種だった。
     「なんかねアサヒくんの住んでるアパートにめ…なんだっけかな…ほーじゅ、そうそうホウジュって名前の獏がいてその人が夢買いをしてるんだって。」
     「夢買い?」
     私が聞き返すと美波は頷いた。
     「そう。夢買い。夢に関するお仕事をしてて悪夢を取り除いてくれるんだって。面白いよね。」
     美波はそこまで言うと1枚の紙を取り出す。そこには美波のものではない筆跡でメモが書かれている。
     「これアサヒくんが書いてくれた夢買いさんのお店の名前。あっアサヒくんが書いてくれたものだから花は写真撮るだけね。」
     美波がちょっと怖い顔で言うので私は遠慮がちに写真を撮った。レンタル彼氏にハマると人は変わるのかもしれない。
     紙には「夢沢ビデオ店」と店主の名前なのか「めぐりやほーじゅ」とひらがなで書かれていた。画面を見つめていると美波は紙を大事そうにしまいながら言った。
     「貴重なデートの時間を使って色々聞いたんだから本当感謝してよね!まあそのおかげでアサヒくんのお友達情報を知ることができたんだけどね。」
     「ごめんね。でもありがとう…。」
     情報元がレンタル彼氏、さらに夢買いという怪しい職業。正直信用ならないが、せっかく自慢げにしている美波に対して水を差すわけにもいかない。それにどんな病院に行っても解決しなかったのだからもう妖怪でもなんでも縋りたい気持ちだった。
     その後は美波と楽しく食事をした。美波はずっとアサヒくんアサヒくんと言っていたため、あまりハマりすぎないといいなとこっそり心配してしまった。

     次の日、案の定眠ることができなかった私はコンシーラーでくまを隠して例のビデオ屋に向かった。駅から10分程度歩いたすこし古びた商店街のさらに奥まった場所にその店はあった。営業しているのか不安になるような外観だが電気がついていることから営業しているのだろうと判断し、店の入り口に手をかける。
     「あれ、開いてない……。」
     店の入り口を押しても引いてもガタガタと音が鳴るだけだった。おかしい営業時間はきちんと調べてきたはずなのに…。
     「ねぇお嬢ちゃん。天然なわけ?」
     突然後ろから大きな影が現れて周囲が暗くなる。そして耳元で誰かが話しかけてきた。ねっとりとした絡みつくような低音。慌てて振り向くとそこには背の凄く高い男性が立っていた。見上げると気だるげな表情と目が合う。
     「えっあっえ?」
     男性は何も言わず私の後ろに立ったまま腕を伸ばす。そしてドアに置いてある私の手の上に手を乗せる。その状況にドキドキと心臓が煩くなる。一体どういうことなのだろうと瞳を閉じるとガラッと音が鳴った。
     「ここの扉は…引き戸なんだよね。押しても引いても開かないよ。」
     「え…?」 
     私はしばらく状況が理解できず、開いた扉を眺めていた。そしてようやく飲み込めた時、あまりの恥ずかしさに顔が赤くなるのが分かった。
     「まあ初めてのドアって間違えるよね。次から気をつけて。それにしてもまさか客が来るなんてね。慌てて戻ってきたよ。」
     男性は私の手から手を離して、店内に入っていく。改めて見てみると物凄く背の高い人のようだ。店内に置いてある棚よりも頭が上にある。長い髪の毛の先端が白くなっており、その配色に見覚えがあった。
     「マレーバク…。」
     私がそうつぶやくと男性は振り返った。
     「なぁに。君もバク好き?俺めっちゃ好きなんだよね。」
     男性はそう言うとポケットからハンカチを取り出す。  
     「見てみてバク模様のハンカチ、その他アイマスクとかネックピローとか俺の周りバクばっかだよ。」
     嬉しそうに語る様子から相当バクが好きなことが伝わってくる。私は思い切って訪ねてみることにした。
     「あの!貴方が獏のめぐりやさんですか?」
     男性はそう聞かれると一瞬驚いた顔をする。意外だったのかもしれない。しかし、その後にやっと笑う。
     「こんな寂れた店に来る時点でワケアリってことね。そうだよ。俺が回夜宝寿。俺に何か用がある感じかな?」
     「あの、貴方は悪夢を取り除くことができると伺いました!私の悪夢を取り除いていただけないでしょうか!」
     私はそう言って頭を下げた。
     回夜さんはしばらく黙っていた。私は不安で嫌な汗をかきはじめていた。もしかすると美波の言っていたことは嘘なのかもしれない。しばらくすると回夜さんはあっと声をあげた。
     「もしかして君がアサヒの言ってた子の友達か〜。お客さんに悪夢について相談されたから紹介しといたよ〜ってわざわざ声かけられて珍しいこともあるもんだなって思ったんだよ。まさかこんなに早く来るなんてね。よっぽど困ってたんだね。いや〜大変だ。」
     「あ、あの。」
     私が不安そうに声をかけると回夜さんはにやっと笑い、私の頭を大きな手で撫でた。
     「大丈夫。大丈夫。宝寿お兄さんに任せなさいって。」
     頭を撫でられていると段々眠気が訪れてきた。
     「それじゃあ早速だけど君の悪夢見せて貰うね〜。」
     回夜さんがそう言うのを遠くに聞きながら私は眠りへと落ちていった。
     
     目を開けるとそこは夢の中だった。以前見た時と同じ薄暗い路地に私はいた。そしてカツカツという足音が遠くから響いてくる。私は恐怖で足がすくんだ。腰が抜けて尻もちをつきそうになる。
     「おっと危ない。」
     後ろから大きな腕が私の身体を支えていた。首を上に向けると回夜さんがいた。
     「回夜さん!?」
     「そんなにビックリする?獏だし他人の夢くらい入れるよ。どんな悪夢なのかちゃんと見ておこうと思ってね、お邪魔してるよ。」
     回夜さんは私を立たせると私の前に立つ。私は回夜さんの大きな背中を見つめた。はじめて話を聞いた時には胡散臭いと思ったが、今は凄く頼りがいのある背中に思える。
     「さあ、悪夢のお出ましだね。」
     回夜さんがそう言うと路地から足音の正体が現れる。そこには知らない男性がいた。
     「えっと、お嬢ちゃん名前は?」
     唐突に回夜さんが名前を聞いてきた。
     「驚かないでよ。聞いてなかったなって思ってね。」
     「えっと牧野花です。」
     「花ちゃんか…。可愛い名前だね。あの男はね、所謂花ちゃんのストーカーってやつだ。」
     「ええっ…。」
     衝撃の事実にビックリした。
     「あんな知り合い私にいませんよ!?」
     「そうだね。花ちゃんの記憶にあんな男はいないね…。おかしいな…。花ちゃんさ、なんか生命力馬鹿高い知り合いとか友人いる?」
     その問いに対してぱっと思い浮かんだのは美波だった。まさに名前の通り夏の海のように輝く美女だ。
     「生命力の高そうな美人な友達が一人います。」
     「その子から何か貰ったことは?」
     回夜さんは淡々と質問を続ける。
     「えっと…手作りのパワーストーンで作ったブレスレットを…。」
     今もつけてますと腕を見せると回夜さんはがッと私の腕を掴んだ。
     「あ〜なるほどなるほど…ね。」
     回夜さんとそうして会話しているうちに足音の主がすぐ側まで来ていた。その人は何やら鎌のような物を持っており、今にも回夜さんに襲いかかろうとしていた。
     「危ない!」
     「ああ、大丈夫大丈夫。これくらい俺の敵じゃないよ。」
     回夜さんはそういうと私を抱えて、後ろに向かって飛ぶ。すると先ほどまで私達のいた所に鎌が振りかざされていた。寸での所で避けたにもかかわらず回夜さんに焦った様子はない。
     「ラブラドライト、魔除けの作用のあるパワーストーンだねぇ。でも浄化してないでしょ。これじゃダメだよ。」
     回夜さんは私を抱えながらも腕のブレスレットを眺めている。
     「それって…。」
     私が話しかけたタイミングでまた次の攻撃が繰り出された。
     「とりあえずやりやすい場所に誘導するよ。」
     回夜さんはそういうと路地を駆けていく。私より背の高い回夜さんはあっという間に路地を抜けて広場へとでてしまう。回夜さんは私を噴水の縁に座らせるとブレスレットをするりと取った。
     「とりあえずこの子はいったん預かるからね。大丈夫、俺がいるから。」
     ブレスレットを取ると周囲の景色が一気に暗くなった。そして今まで見えていなかった黒い人影のようなものが無数に周りに見えた。
     「あの、これって…?」  
     「いままで辛うじて花ちゃんを守ってたブレスレットを外したからね。今の花ちゃんは無防備な的ってこと。」
     「それって危険なんじゃ……。」
     私が不安気に言うと回夜さんは堂々と言った。
     「大丈夫、俺はね夢の中では敵無しなんだ。まあ相手によるけど。」
     回夜さんが手を宙に伸ばすと、そこには細身の錫杖のような杖が現れる。
     「さてと、とりあえずここを吉夢に変えさせてもらうよ。」
     回夜さんが片手で印を結ぶと大きな風が起きた。周りにいた黒い人影が吹き飛ばされるのが見えた。その風圧に耐えかねて私は瞳を閉じて腕で顔を覆う。何が起きているのか分からなかった。しばらくして目を開けると信じられない状況がそこには広がっていた。真っ暗だった広場は明るい日が差し、色とりどりの花が咲き乱れている。
     「ど、どういうこと…?」
     「花ちゃんの夢を俺が食っただけだよ。さあ、ストーカーくん観念して花ちゃんの夢から出ていきな。」
     回夜さんは晴れ渡る広場に似つかわしくない一人の男性に話しかける。男性は何か叫んでいた。
     『いやだ!俺は牧野さんと夢の中でずっと一緒にいるんだ!!』
     「それ花ちゃんの迷惑になるからさ。もうこのブレスレットも浄化したから、君居場所ないよ。」
     『煩い煩い!ポッと出の獏なんかに牧野さんは渡さない!!』
     男性はそう言うと回夜さんに襲いかかった。回夜さんは杖を使って攻撃を受ける。そして力を込めるとあっという間に形勢逆転し、回夜さんが杖を男性の喉元に突き立てる形となった。
     「あの…この方は?」
     私は気になっていたことを回夜さんに聞いた。回夜さんは私の腕にパワーストーンを戻すとことのあらましを説明してくれた。
     「この男は、下級妖怪の一人みたい。ちょっとしたことをきっかけに花ちゃんに惚れたけど…、このパワーストーンが邪魔して花ちゃんに話しかけることもできなかったみたい。それでも懲りずに花ちゃんにつきまとっていたらパワーストーンが邪気を吸いすぎて花ちゃんに悪夢を見せるようになっていたってわけ。まあ元が強い石だったおかげで夢の外では相変わらず近づけなかったみたいだけど。」
     回夜さんがそう言ったのを聞いて記憶を辿ってみる。しかし、思い当たる節が全くない。
     『牧野さんは覚えていないの!3年前俺に食べ物を分けてくれたじゃないか!そのおかげで俺は生き延びているのに…。』
     「食べ物…もしかして3年前に公園で『腹減った…』と言ってた声…?」
     『そうだよ!ある日君は俺に飴玉をくれたじゃないか!』
     男性はすこし目を輝かせながら言う。しかし飴玉を渡した記憶はない。
     「そんな覚えはないけど…。私冬はポケットに喉飴入れてるから走って逃げた拍子に落としたのかな…。このパワーストーンのブレスレットも公園から聞こえてくる声について美波…友人に相談した時に貰ったんです。」
     そう話すと男性は絶望した表情を浮かべ、回夜さん対照的にハハハっと笑い出した。
     「あの、そんなに笑ったら可哀想では…。」
     「ハハハハハッそれを花ちゃんが言ったらダメだよ。あ〜おかしい。優しさだと思ってた飴ちゃんが逃げた拍子に落としただけだったなんてね…。哀れで……。」
     よほど面白かったのか回夜さんはずっと笑っている。すると男性から急に黒いオーラのようなものが湧き上がる。
     『許さない…、俺の気持ちを弄んだお前を許さないっ!』
     男性が私に襲いかかる。しかし、彼の爪が私に届くことはなく、パワーストーンが輝くと光のバリアのようなものがの現れる。男性はそれに跳ね返されて後ろに倒れ込んだ。
     「うんうん、ちゃんと浄化すれば強い石だね。大事にしたほうがいいよ。」
     回夜さんは感心した様子で見ている。
     「さてと、こういうわけで君が花ちゃんと結ばれることはないからさ。元気出して次の恋に進もうな。」
     『煩い!こんな夢こちらから願い下げだ!せいぜい不幸になりやがれ!!』
     男性はまさに負け犬といった台詞を言うと忽然と姿を消したのだった。
     「さてと、花ちゃん、もう大丈夫だと思うよ。まあまだ暫く何があるか分からないからもう少し様子を見させてもらうけどって…疲れたのかな?」
     回夜さんの声を聞きながら、うとうとと瞳が下がっていることが分かった。
     「大丈夫です…」と言おうとして、その言葉を言い切ることはできなかった。そして、私は意識を手放し地面に倒れ込んだ。倒れ込む瞬間回夜さんが私を支えてくれたことを微かに感じる温かさで察した。

     目がさめるとそこは知らない天井だった。古びた灰色の天井に白い蛍光灯。そしてどういうわけか私は床で寝ていたようだ。起き上がると身体はバキバキだが久々によく眠れたという感覚があった。
     「あれ、花ちゃんもう起きていいの?」
     回夜さんの声が何処かから聞こえた。キョロキョロと見渡すとくすくすと声が聞こえる。
     「隣、隣。」
     その声を元に隣を見てみると私のすぐ側で横になる回夜さんがいた。
     「ええー!」
     「花ちゃん元気だね…。一緒に寝てたかだけだって。」
     「それが問題なんです!」
     床にしかれた布団の上、2人の距離はほぼぴったりとくっついており、とてもはじめて会った男女の距離とは思えなかった。
     「あのね、元々は花ちゃんはそこのベッドに寝かせてたの。そんで俺は花ちゃんの夢を食べるために床で寝てたわけ。そこに落ちてきたのは花ちゃんだから。」
     「ええ、床に…私落ちたんですか??」
     「床に落ちてもグーグー寝てるから俺驚いちゃった。そんでそのままにしてたわけ。」
     色々と突っ込みたいのは山々だが、確かにすぐ横にはベッドがある。私が落ちてきたのは身体の痛みも証明している。私は恥ずかしさに耐えかねて顔を布団で覆った。
     「まあ俺がお姫様抱っこしてベッドに戻してあげれば良かったんだけど…。」
     回夜さんはそこまで言うと、私をそっと抱きしめる。
     「ちょうどいい抱き枕がきたから手放しづらくて。なんてね。」
     回夜さんはそう言うと自身も立ち上がる。私はというとさらなる追い打ちにさらに顔を赤くしてしまい当分顔を上げられそうになかった。
     「あの…そもそもなんで回夜さんは床で…。」
     「そりゃ俺もベッドで添い寝したいよ。でもさすがにそれはよくないじゃない?でもね夢を食べるならやっぱり距離は近い方がいいわけ。だから床に布団しいて寝てるの。」
     結局私が落ちたせいで回夜さんの配慮は無駄になったわけだが…。
     「あのっそれで私の悪夢は…。」
     肝心なことを聞くと、回夜さんはそうそうという感じで電卓を持ってきた。私が怪しそうに様子をみていると、回夜さんは怪しげに笑う。本能的に危機を察したがもう遅いようだった。
     「はい、俺はね夢買いってのを職業にしてるんだけど、今回は悪夢払いのご依頼ね。基本料が1回2万円、今回は1回で大元の原因を取り除けたからまあこれでいいでしょう。」
     2万円少し高いが、病院代、薬代と比べてしまえば決して高くない。甘んじて払おうと思った時、回夜さんはどんどん話を続けた。
     「でも今回は危険を伴う悪夢払いだったからプラス三万円ね。あの鎌でやられてたら俺怪我してたので。そしておまけ程度だけどパワーストーンの浄化代でプラス5千円。合計5万5千円だよ。」
     高い高すぎる。
     「ぼっ、ボッタクリ…。」
     思わずそう言っていた。
     「そんなことないよ〜五万円で命救われたんだからむしろ安いじゃない?」
     そう言われてしまえば言い返すことはできない。
     「で、でもまだ悪夢を見なくなったわけでは…。」
     「まーね。それにあのストーカーくん以外が原因の悪夢は取り除けてないから全く別の悪夢をみる可能性も全然あるね。まあそこは経過観察ってやつだ。」
     「だ、だったら完全になくなった時にお支払いします。」
     まだ一度も夜には眠っていないのだ。もしかするとまだあの男性が出てくるかもしれない。
     「別に払うのいつでもいいけどさ。花ちゃん、一生悪夢を見ない確実な方法教えてあげようか。」
     「なんですか?」
     一生見ないという甘美な響きに惹かれて聞き返す。
     「毎日俺と一緒に寝ることだよ。花ちゃんの夢は中々面白かったから俺的には大歓迎です。」
     そう言われて私の顔はまた真っ赤に染まってしまった。
     「か、からかわないでください!」
     私がそう言うと回夜さんはケラケラと楽しそうに笑っている。
     「ああ、でもとりあえず今夜は一緒に寝ようね。花ちゃんは不安で不安で仕方ないみたいだから。まあさっきの夢を見る限り、楽しく3段のアイス食べてたし大丈夫だと思うけどね。」
     自分でも買う覚えていない夢の内容を暴露された恥ずかしさもあり私はいよいよ羞恥でいたたまれなくなり、お金を払って出ていこうと財布に手を伸ばした。すると回夜さんはその手を掴んでしまう。
     「お代はしっかり悪夢が取り除かれたことを確認した後貰うからね。」
     回夜さんはそう言うと私の身体を持ち上げてベッドに横たわらせる。
     「そういえば、花ちゃん彼氏っているの?」
     「3年いないですけど…。」
     正直に答えると回夜さんはニヤッと笑う。嫌な予感がしたが回夜さんはそれ以上は深掘りせず、私の頭をそっと撫でた。
     「それじゃあおやすみなさい。いい夢を見ようね。」
     そう言われると私の瞼はどんどん下がっていく。先ほどまで寝ていたはずなのに回夜さんの声には不思議な力があるようだった。
     そうして私は夢の中に、いや獏である回夜宝寿さんの中に落ちていくのだった。

     悪夢を見なくなる代償に、どうやら私は厄介な人に目をつけられてしまったのかもしれない。それでも彼の低い声はどんな甘味よりも甘く響き、私に幸せな夢をもたらすのだった。
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