常時特別な言葉を告げた記憶はなく、明確に何かを約束した覚えもない。いつの間にか隣に居た存在に対して今更何かしらの疑問を呈することはしないまでも、ふとした瞬間に別の関係性があったのかもしれないと頭が過ることが無かったとは言わない。
「見過ぎ」
「良いだろ減るもんでもねぇ」
「ふ、金取ってやろうか」
俺の身体を跨いで見下ろしてくる伏黒はそう言うなり舌舐めずりをして見せる。薄い口唇が舌で濡らされる様を見上げながら、その唇の軟さを思い返していれば響く金属音に従って軽く腰を上げてやった。
「テメェで脱げよ」
「オメェが脱がせてくれんのかと?」
軽口の応酬の間に何度か唇が触れ合った。上体を屈め顎先から舌を這わせて肌を舐め上げる伏黒に対して、舌先を捕えて口唇で挟んでやれば鼻にかかった甘ったるい声を漏らす。中途半端に緩められたベルトの続きを引き取って奴を抱えたままに尻を上げた先でスラックスを落とせば、横に流した視線でその様を確認したらしい伏黒は身に纏っていたキャミソールから腕を抜く。適当に丸めたそれをベッド下に投げてから改めて俺のネクタイを解きにかかる奴を真正面から眺めていると椀型に丸く盛り上がった胸元を飾る下着が目に入る。
「なんだ、見たことねぇやつだなそれ」
「は、逐一記憶してんのかよ。すけべ」
「悪いか」
「別に?」
伸ばした両手で膨らみを揉み込んでいると肌が徐々に上気してくることに気付く。指腹で皮膚を擦ったり、下着の際を少し引き下げたりして遊んだ後に顔を上げれば、眉間を軽く寄せて此方を見遣る伏黒と視線が交差した。
「はやく」
三音を告げた直後に重なる唇は合図代わり、首元に回る両腕に合わせて奴の胸元を包む下着のホックを外すべく、背に腕を回しながら一度強くその身体を抱き締めた。
end