アンサンブル·キャット 昔から演じることが好きだった。
自分が役になりきって演じれば大人たちが拍手をくれた。
大好きだったのだ、自分では無い『ナニカ』になれることが。
それが今はどうだ。大した役を勝ち取ることも出来ず、それでもなあなあに続けている。何も諦められずに小さな舞台でアンサンブルとして演者を続けている。
「…………もうやめよっかな」
誰も居ない楽屋でぽつりと呟く。
静寂に包まれる。嫌な思考を振り払うようにパシンッと両頬を叩いた。
やめるわけにはいかない。だって
「遥、怒るもんなぁ」
遥。オレの愛しい恋人。
オレの演技を一番傍で見てくれていた人。
オレの演技を「世界で一番綺麗だ」と抱きしめてくれた人。
愛しい人に宣言したのだ。「オレが、誰からも認められるような人間になったら一緒になろう」と。
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