黒い猫「あいたっ」
腕と胴に布が巻かれた小さな黒い猫に手を引っ掻かれて晴明は思わず声を上げた。
「いきなり手を出すからそんな目にあうのですよ」
赤い線が引かれた手の甲をさすりながら眉を顰めれば面白そうに道満が笑った。
いきなりも何も、猫相手に「撫でますよ」と了解をとって撫でるなど普通無いだろうと言いかけてやめた。
そんな言い訳は無意味だ。
「なんでこの猫はこんなに私が嫌いなんですかね」
そんな事を言いながらどうでも良さそうな晴明は自分が狐の血を引いてる事を思い出していた。
狐と猫は仲が悪い。というのは事実なのだろうか。
「ンンン。それはあれだけの事をしたらそうなるのでは」
それは数日前。
ある貴族の男に怪異を払うように頼まれて、道満はその邸を訪ねた。
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