歳下の男の子「お前スマホ指紋認証にしないの?」
梅宮が何の気なしにそう聞くと、濃い隈の居座る何も写してないような杉下の目がぱちりと瞬いた。
「いやさ、お前いつも長いパスワード手打ちしてんだろ?面倒くさくね?」
「……ああ、俺指紋ないんですよ」
杉下はきょろりと右側の少し下辺りを見て、それからまた梅宮を見て、きゅ、と目を細めて笑う。梅宮は杉下の返答に違和感を覚えた。ないわけはないだろう。
「や、けどした……ってことか?大丈夫か?」
「?はい、いいえ。薬で。ない方が都合が良いんですよ」
梅宮はああ、と納得がいった。
杉下京太郎という男は化け物である。真っ暗闇の目をして、路地裏の影の中に佇む悪魔である。約二年前この男を負かすのは梅宮であっても命がけだった。それも梅宮が勝ったわけじゃなく、この男は差し出してきた。それより前のこの男は悪い友達と悪意が溢れる大人と連み、夜を闊歩していたのだと言う。なんとかかんとか首輪を着けて手懐けて、梅宮はずっと自分の首にかかる爪を見ないふりしている。
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