「全く…こんな格好で山登りさせられるとは思わなかったぞ…足さばきが悪すぎる。全く前に進まん。お前と同じような服じゃダメだったのか」
ぶつくさ文句を連呼しながらようやく頂上に着いた男もまた長身で、これまた豪華なあつらえの引きずるほど長い純白の長衣を身に着けていた。
「大変ご苦労申し訳ないが、その衣装以外ありえねえな…」
純白の艶姿を上から下までじっくりと眺めて大男が言った。そこから先の言葉が出ないらしく、夢見心地か呆けたような締まりの無い顔でひたすら見つめてくる。
「……何かおかしいか、着慣れぬ衣装だからな……多少の違和感は…」
「良く似合ってんぜ」
遮るように大男が断言した
「ものすごく似合ってる。天女が現れたと思た!」
「てん…なに?」
妙な事を言われて、また文句が出そうになったが大男があまりにも嬉しそうな顔をするので、言おうとした言葉は霧散してしまった。
「聞仲…」
愛おしさを込めてその名を呼ぶ。
「最高にキレーだ。窮屈ですまねぇが…俺の我が儘に付き合ってもらってありがとう」
呼ばれた男の奇跡のような美しさを湛えた目元に滑らかな頬に、はっきりと朱色が浮かんだ。
何と返そうかと考えているうちに頭一つ以上大きい男の胸に抱きすくめられていた。お互いの体温と良く知っている匂いに気持ちが落ち着いていくのを
感じた。二人はしばらくそうしてただただ抱き合った。
「みんなまだ来ねえな。座って待ってようぜ」
抱擁を解くと、そう言ってまたどっかりと木の根元に座り込んだ。隣に座ろうとすると止められた。
「俺の膝に座れよ。白い衣装が汚れたら大変だ」
「恥ずかしい事をいうな!大の男が大の男の膝に座っていたらなんだと思われるだろう!」
「誰もいねーだろうがよ」
また返す言葉が見当たらないまま、強引に男の膝にすっぽりと収まるところとなった。
「飛虎…お前はいつまでも不思議な男だ。お前と居ると怒るような事もどうでもよいかという気持ちになって来る…」
腕の中で溜息まじりに呟く様子はなんだか幼い。
「楽だろ。そうやってこれまでも俺たちはやって来たし、これからもそうしていくんだよ。多分な」
小さく笑いながら飛虎と呼ばれた男は、目の前で揺れている白金の髪に指を絡ませた。
簡単に結った白金の髪に金色の麒麟のかんざしが輝いていた。