蓋を開ける。「彗くんさぁ、つまんないよね」
大体の場合、仲良くなった女性はそう告げて去っていく。彼女たちが何を求めているのかは分かりやすくて、端的にいうと刺激だ。燃え上がるような恋だとか、ヒリつくような感情だとか、スリル。要するに日ごろ得られない特別なことが、非日常が欲しいわけである。
「ごめん」
千虎彗は、その外見はあまりにも非日常的だった。分かりやすく整った貌も、周りより頭一つほど高い体躯も、期待させるに十二分の働きをして、それから。
「…………別れ話されてるって分かってもそれなんだ?」
一言の謝罪に対し明らかに落胆の色を増した声に、特段返す言葉もない。彗はさほど金銭的な余裕があるわけでもなく、人を楽しませることができる能力があるわけでもない。そもそも、穏やかさを好む彼と刺激を求める彼女とでは相性などというもの以前の段階だったということでもあるのだろう。
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