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    せなん

    地雷原(成人済) 誤字魔

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    せなん

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    ディアスタにしようと思ったけどならなかったんですよぉ
    楽器できる兄弟いいよねって話です(それはそうと一朝一夕で楽器はできないのでこれはファンタジー)

    「恐らく疲労で指の筋肉が炎症を起こしているのでしょう。」
    スタルークは医者に右指を見せた。矢を引く人差し指と中指は、豆が潰れ痛々しい様となっていたが、何より一目で炎症を起こしているとわかるほど太く腫れていた。
    「弓を練習されるのは良いですが程々に休息は取らねばなりませんよ」
    「でも……」
    「でももしかしも聞きません!」
    「ヒッ」
    皮膚の炎症をライブで治していた医者は大声を出した。一体その老齢の体のどこからこの声は出るのだろう。
    「本当に、こういう所はディアマンド王子とそっくりなんですから……!医者が安静と言えば安静です!」
    当て木をし、伸ばした状態で人差し指と中指をひとつに包帯で括られる。
    「一週間、一週間はくれぐれも固定をしてください。」
    「はい……」
    「私達が知る術はありませんが、現時点で骨がやられているかもしれません。このまま動かし続けると……」
    「……続けると?」
    「指が変形したまま治って、弓が引けなくなる可能性もあります。」
    スタルークは息を飲む。少なくとも魔法の才能はほとんどなかったスタルークに残された術は限られている。兄を守るという願いを叶えるためにも、発展途上の今、何も起こしたくなかった。

    「利き手が塞がれると不便ですね……」
    スタルークは逆利き手を矯正して利き手として動かす練習もしたが、書き文字はともかく弓はできなかった。本を読み、勉学に耽る。時々散歩をする。しかし弓を習い始め、いよいよ努力して実力をあげんとする今、安静を命じられ息抜きをしようにも落ち着いていられなかった。特に外に出てしまうと、ぶつかる鋼の音で、自分は何も鍛錬をしていないと誰かに後ろ指を刺されるようで、2日目にして外への散歩はやめてしまった。
    3日目、勉強をして、読書をして過ごす。んん、と背伸びをすると陽が天中を下るところになっていた。ずっと座りっぱなしも別の場所も悪くなると医者に釘を刺されていたのを思い出す。
    「?」
    城内が少し騒がしい。エントランスに出ると、楽器を持った兵達が並んでいた。
    「スタルーク様!」
    自分の方へ視線が一気に向き、敬礼が並ぶ。あまりの威圧にスタルークも敬礼をしてしまった。
    「御苦労様です。ええと、これは一体……?」
    「音楽隊の練習です。正確には配置のですが。」
    近々、祭典があることを思い出した。そのファンファーレの演奏だろう。
    「新入隊員も多いのでシュミレーションも有りますが実地で行いたいと無理を言って行わせて頂いておりまして。」
    「成程……」
    スタルークはふと思いつく。
    「あの」
    「如何なさいましたか?」
    スタルークはとある楽器を見る。
    「僕にあの楽器は演奏出来ますか?……今、弓が引けなくて何か熱中出来ることを探しているのです。」

    「スタルーク様は筋が良いですね!もう曲まで吹けますし何より高音域が安定した音程なのが私も羨ましいです!」
    「……ありがとうございます」
    お世辞かそれとも本心かすぐ探ってしまうのは自分の悪い癖。プロフェッショナルの人間に褒められたのであれば少なくとも礼は伝えるべきだろうと一応言葉にする。
    スタルークが選んだのはトロンボーン、右手のスライドと唇の開きで音程を変える楽器だ。スライドは手で軽く支える程度だったから、スタルークは弓が出来ない間この楽器の練習に費やした。練習一日目にして一通りの音階を覚え、狙った音を吹けるようになり、包帯を外したときには音楽隊の基礎練習についていっていた。強いて言うならば腹筋の弱さから音の持久力がないところが欠点だが、音楽隊の新入隊員以上の実力を見せつけたのだ。
    「最後に覚えることが正しい持ち方とは面白いものですね」
    包帯を外した日、包帯で違う持ち方をしていた右手の人差し指と中指を正しい位置に直した。
    「スタルーク様さえ宜しければまた来てください。楽譜もご用意いたしますので、ぜひその実力で隊員と共に来て欲しいものです。」
    スタルークは弓の練習を明日からし始めると伝えると、隊員達から残念がる声と、また来て欲しいとの声が上がった。
    「でも私たちはスタルーク様をお迎えするための演奏ですからね。ぜひご無事でご帰投くださいませ。」
    それからもスタルークはせっかくの楽器の腕を落としたくないと、弓の練習と勉強の合間、頻度こそ多くないものの度々練習を行っていた。
    「本当にディアマンド様そっくりですね」
    「……そうですか?」
    紺色の髪、細い体。兄と似ていないのだが、とスタルークは話し相手を見やる。同じ高音域を吹くパートリーダー(いわゆる小隊長だろう)はそうそう、と話をした。
    「実はディアマンド様もスタルーク様と昔同じようにここに来られたのですよ。」
    「えっ」
    スタルークは話を聞きたいと構えていた楽器を下ろした。
    「数年前になりますがディアマンド様が虫の毒で足が動かせない時がありましてね。」
    あの時かとスタルークは思い出す。水辺で兄弟共々虫に刺され、スタルークは今より更に幼かったせいなのか、意識が朦朧とする高熱を数日出して寝込んだ覚えがある。
    「あの時のディアマンド様は楽器もお上手で。トランペットを吹いておられましたよ。」
    スタルークはあの楽器、と指刺した方向を見る。小さいながらも空を割くような高音、きっと兄が吹く姿はさぞ絵になるのだろう。
    「お二人で演奏される姿は一生のうちに一度見たいものです」
    「ご謙遜を……しかし兄上は殊更お忙しそうで。近々またイルシオンと衝突がありそうです。」
    「左様でございますか……。また近日の遠征も、ご無事をお祈り申し上げます。」


    リュール率いる神竜軍が邪竜ソンブルを破り、二人は祖国ブロディアへと凱旋をした。あの時からスタルークも哨戒任務や戦場に出るようになり、忙しさから楽器は数年ほど全く触っていなかった。
    そしてとある話が舞い込んだのだ。
    「「サロンで演奏をしないか」……しばらく楽器は触っていないが」
    幸い二人とも教養の一環としてそれなりにピアノが弾ける。連弾か2台ピアノの曲か。音楽隊に、練習用の調律したピアノがあるか聞きに行った際に、2人ともが金管楽器が吹けることが発覚したのだ。
    「ピアノはございますが、折角なのでデュエットの曲はいかがでしょうか。楽器もございますので。」
    あれよあれよと言ううち楽譜を渡され、そしてスタルークは長細いケースを渡され。片手で持てるほどのケースを貰ったディアマンドが驚いた。
    「スタルークも吹けるのか?」
    「ええ、一応は……」
    「ではぜひ……何卒……!」
    何時ぞや二人の演奏が聞きたいと言っていた彼を、ふふっと笑いながら見る。数年で顔は変わらぬのだなとスタルーク思った。
    「ピアノだと有り体だしな、ちょうど良い機会かもしれん」
    2人ともサロンの招待状が、自分たちをあまり良く思っていない貴族の挑発を含んでいることを知っていた。傍目では無骨で、武を重んじ芸術を知らぬような男兄弟と思わがちだが、その実は違うのだと実力示すには良い機会だった。
    「武器を持って背中を合わせて戦っていたときのようだ」
    ディアマンドはケースを開け金色のトランペットを出す。バルブは油を差してあるのか年数を経てなお新品のようだった。スタルークの珍しい銀のトロンボーンも同様に動きに難はない。隊員をちらと見ると、再度吹かれるまでと手入れをしておりましたとにこやかに返された。
    「……僕も兄上のお隣に立てて光栄です」
    スタルークは貰った譜面を見る。華やかに舞うよう軽快なトランペットと、そしてトランペットを支えるよう、しかしときには前に出るようなトロンボーン。本当に戦場で二人肩を並べた時のようだった。
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