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休日、雨天。兄弟揃って終日釣りに行く予定は諦め、部屋でゆっくりと過ごすことにした。お互い常日頃忙しく動いているものの、趣味はゆっくりとした時間を過ごす方が好きで、今もソファで向かい合って座れるにも関わらず隣に座っている。
今日はスタルークがソルムの面子から教わったコーヒーと言う飲み物を淹れている。ミスティラから「二人とも好きそうな味だよ!」と言われていたなと思っていると、スタルークは見慣れない道具を一式出してきた。曰く、フォガートが「二人ともこういうの好きそう!」と、最も丁寧で美味しく抽出できる淹れ方を教わってきたのだそうだ。
「凝り性には向いているのだそうですよ」
ふふっとミルをぐるぐると回していたスタルークは笑った。
サイフォンの湯がこぽこぽと鳴る音、雨の音。ときどきパラパラと頁をめくる音が部屋に響く。二人の言葉はない。しかし二人は隣に居れば良いとばかりに寄り添い、肩をくっつけ合っていた。途中からスタルークは読書を中断しサイフォンの下で揺れるアルコールランプをじっと見つめているようだった。ディアマンドもそれ習い、普段の焚き火とは違った良さのある炎を見つめながらそっと指を絡めた。雨の日の少し気温が低い今日のような日は自分とは違う体温が心地良かった。
「これは美味しいな」
ディアマンドはティーカップに注がれた黒い液体に感嘆の声を上げた。スパイスの入った紅茶とは違う苦味や深みは今まで味わったことはない。
「数回しか使ったことがないので心配でしたがちゃんと出来て良かったです」
サイフォンの調節は初心者には難しいのだそうだ。スタルークは難なくこなしていたが、抽出の時間、温度、混ぜ方……様々な条件の下この味は出されているのだそうだ。特にスタルークは、本人に自覚はないものの凝り性の性格に加え器用さが人一倍優れているから簡単にできたのではないだろうか。
「またスタルークが良ければ淹れてくれないだろうか?」
「もちろんです。兄上がお望みであれば準備いたします。」
サイフォンをはじめ一式はの道具はディアマンドの部屋に置いた。兄上の部屋にお邪魔するなんてとスタルークは自室に持っていこうとしたが、ディアマンドは割れるといけないから、そして今日の事を思い出せるからと敢えて望んだ。本や剣の手入れ道具など必要最低限しかない部屋の一角にソラネルのキッチンとは違った趣のあるカウンターのようなものが出来上がった。
「何かのお店屋さんみたいですね」
「隠れ家のような雰囲気があるな」
同じようなことを考えていたな、と二人で顔を見合わせるタイミングも同じで無性に笑いが込み上げてきた。
「そういえば、紅茶のように豆によっても味が変わるのだそうですよ。もし兄上がよろしければ次のお休みにお店へ行きませんか?」
「もちろんだ。詳しい事はわからないからスタルークも選んでくれると助かる」
次の休日も雨でも良いけど、でも晴れてくれると嬉しいな、なんて。二人は、日が沈み夕食に呼ばれるまでコーヒーと本と、恋人と休日を過ごした。