酒飲み🥓🧀 🔪チバトルロワイヤル「もし、仮にだ」
ホルマジオがワイングラスを軽く揺らしながら話し出す。また始まった、とプロシュートはカウンターを拭きながら思った。
「それよりテメーでこぼした始末はテメーでつけてほしいんだがな」
先ほどホルマジオが倒したグラスからカウンターに溢れた赤ワインはプロシュートの持つをタオルを赤く染めている。倒した本人がゲラゲラ笑うなか、プロシュートは自分のスーツにシミでも出来たらたまらないとバーテンダーから渡された布巾を受け取らざるを得なかった。
「なあ、続き聞きたくねぇか?」
「それよりありがとうとかすみませんとか、感謝や謝罪の言葉は教わらなかったか?」
「オメーはいい奴だなあって思ってるぜ?一緒に飲みに来たのがお前で良かった。他のやつならこうはいかねえよ。たとえば」
名前が出そうになる口を、ワインを絞ったタオルを押し付けて塞ぐ。
「うげえっ!」
ホルマジオはのけぞり、危うく替えのワインごとスツールから落下しそうになった。
「お前は知らねぇかもしれねぇがな。デートの最中にヨソの男の名前を出すのは失礼なマナー違反だぜ?」
「デート相手の顔に雑巾押し付けんのはどうなんだよ…」
ブチブチ言いつつ、ホルマジオはタオルをプロシュートから受け取らされたタオルをバーテンダーに投げ渡す。
「まあ良いや。なあ、仮にの話なんだけどな」
「…何だ」
「もしうちのチームで喧嘩するなら、誰が一番強いと思う?」
「内輪揉めさせんじゃあねぇよ。そもそもスタンドの相性無視して優劣つけんのはフェアじゃあねえだろうが」
「だからスタンドは禁止で、だ」
プロシュートは口元に手を当てる。
「リゾットだろ。スタンド関係ねぇならそれこそただの体格勝負じゃねぇか」
「それならイルーゾォのやつはどうだよ?タッパならリーダーよりデケーじゃあねえか」
「…アレは収穫時期のぶどうみてぇにぶら下がってるおさげの一本引っこ抜けばオレでも勝てる」
「うわ〜兄貴残酷〜」
「普通に組み合いたくねぇのはメローネだな。何してくるかわからねぇ」
プロシュートがそう言うと、ホルマジオも苦笑いを浮かべて頷く。
「トーナメント形式で行くか、総当たりか…。トーナメント形式だとおまえは対戦相手によっては初戦で消えたりするかもな」
「リゾットはシードだろ…」
「いやいや、ペッシだよ」
「は?」
「おまえペッシに甘いからなあ。対戦が決まった時点で棄権するんじゃあねえのかあ?」
「そんなワケねぇだろ。ペッシは殺しの経験はなくても喧嘩が出来ねぇわけじゃあねぇ。当たったなら、全力で立ち向かうのがそのことを証明するのに、手は抜けねぇだろうな」
「うわ、カワイソー」
「それこそお前はどうなんだ?腕力なんて対してねぇだろ」
「オレに比べれば、って付けてくれよ。オレの名誉のために」
ホルマジオは口を尖らせる。
「時間制限まで体力温存して回避に専念するか…それならおまえにも勝てそうだ」
「勝手にルール増やしてんじゃあねぇ。それに、持久力だってねぇだろ。『オレに比べれば』」
プロシュートが上げた口角の意味を悟り、ホルマジオは苦々しげにワインに口をつける。
「今そーゆーのはナシだろ…」
「それで?あとはどうだ?ギアッチョは…」
「あ〜ギアッチョはなあ…スタンドの性質からいって、抑えとくってことが出来るかってとこだな。それさえ出来てれば手強い相手になるんじゃあねぇの?だからさっさとキレさせて失格させるね、オレなら」
「あとはソルベとジェラートだな」
「アイツらはダメだ」
「ダメってどういうことだ?」
「元々この話をしだしたのはソルベでよお。オレたちが喧嘩して、オレとソルベたちは誰が勝つか予想して賭ける…だからあの二人は主催者で胴元ってことになるから、不参加だ」
「お前も賭けに参加するなら八百長じゃあねえか」
「たしかにな。そうだったわ」
「ずっと何の話をしてたんだよ…」
「そういえば、おまえ言ってたよな」
「あ?」
「デートで男の名前出したらマナー違反なんだっけ?一人、二人…何人出たよ?」
プロシュートは大きくため息をついた。ヘラヘラ笑うホルマジオの背後から、バーテンダーが近づいて来ているのに気づく。壁の時計は閉店時間を指していた。
「出るぞ」
プロシュートは自分のグラスの中を飲み干した。食道を一気に下るウィスキーは、プロシュートの胸に火を灯していく。
(このまま優位でいられると思うなよ)
プロシュートは会計をしているホルマジオの項を見つめて、そんなことを考えていた。