ひなまつりのはなし「ダディはさだいじん!」
モリアーティ教授が仕事帰りに保育園にいとし子を迎えに行くなり、飛びついてきたジェームズくん(3さい)はそんなことを訴えてきた。
「ぼくは うだいじんね!」
「ウ、ン????」
聞いたことはある、しかしいきなり発せられたその単語がどんな経路を辿って発せられたのかが理解できない。
教授の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになった。
「えーっと、今日はどんな事をしてきたのかな…?」
拒否しないで穏便に尋ねると、ジェームズくんは丸めた画用紙を取り出して見せてきた。
そこには日本の古風ゆかしい衣装と思しきものを着た人物が、つたないクレヨン画で描かれている。
「上手だねえ!」実際、同年代の子供より上手に見えるのは欲目だろうか。
「ん、とね。おだいりさまと、おひなさまを まもるのが、うだいじん と さだいじん なのだよー」
「ああ、今日はひなまつりだったネ!」
それでよくよく聞いてみると、絵を描く以外にもみんなで簡単な衣装を着て写真を撮るなどしたらしい。
きれいな銀髪に色白の肌、長いまつ毛に縁どられた黒い瞳はどこからどう見ても天使のごとき愛らしさをもつ子である。それが主役の座を射止めないハズがないと思ったのだが……。
「ぼくは うだいじんがやりたかったの! 弓がかっこいいからね!」
「そうだねえ、弓かっこいいネエ」それはそれで観たい。おそらく後でアルバムで見る事ができるだろう。
お内裏様とお雛様は藤丸さんちの姉弟だったらしい。(とはいえ、ジェームズの印象が強かったのがその子たちだっただけで、とっかえひっかえ皆で着替えてはいたようだが)
「ダディも弓がにあうとおもう!」
「そう? こんな感じ?」
弓を引く仕草をすると嬉しそうに幼子はピョンピョン飛び跳ねている。
「あと、ね。あと、さだいじんはヒゲはえてる。ダディもヒゲがにあうとおもう」
「ヒゲねえ…」
ふむふむと顎に手を当てる。いつまでたっても童顔に見られがちなので髭でも生やそうかとは考えていたのだ。
(そう、まだアラサーのこの教授は髭を生やしていない)
「ダディもおヒゲ、生やしてみようカナ~?」
「みたい!!!ぜったいかっこいいよ!」
Raishi, 20230303