かじりつく 息を吸って吐く、食事を口に運び嚥下する。目を閉じて朝を待つ。歩く、走る、剣を持ち、奮う、眼を開けて、地面を見る。
生きていく上で、必要最低限の事、最低限の欲求、限りなくそぎ落として研ぎ澄ますもの。不要を捨てるなり削ぐなりしてきて歩いてきた。女の扱いも多少なりとも覚えていた方が良い、男でも良いが、と言われて師匠にそういう女性たちが働く店なり連れていかれて手ほどきを受けたことはあるが、こんなものなのか、が感想。
師匠はそうかと笑っていたような気がする。欲求の浅い、深い、はそれぞれなのだろうと思うが、やはり人と言うのは深く欲を持つものなのだなと思うのは自分が選んだ道のせいなのか。
わからない。
そう感じながら視界に入ったものと、首筋、項から背を通って、駆け抜け走った衝撃のような細やかな感覚に一瞬目を細めた。
「ヨルンもどう?美味しいわよ」
そういって熟れた果実を差し出して来たトリッシュをうっそりと見下ろす。彼女はと言えば笑って、食べないなら良いけど、といってそれを引っ込めた。そうして自分が手にしていたものを再び口元へ運んでかじりつく。
熟れすぎているわけではないが、熟した果実から、果汁がぷちゅりとはじけるのは腐った肉から零れる体液にも似ているし、別の、
「ヨルン、そんなに見られたら恥ずかしいわ、私」
思考を遮ったのはそんな彼女の声だ。ふっと意識を戻せば、もう、と笑う彼女と視線があった。トリッシュがこうしてくすくすと音を立てて笑うのは別に俺の前だからではない。……だからなんだ、と自分の思考をなじる。
「そうか、……すまなかった」
俺も別に、見たくて見ていたわけじゃない、とは言えない。それが事実のことかも、自分ではわからない。トリッシュ、彼女を見て、駆け抜けていった何かを探る手段も経験もあまりにも少ない。
彼女ではなくて、ただ単に、ざわついただけかもしれない。「女」なら別に誰でもそういう感覚が走った可能性はある。それが、でも、そうはしたくない、と微かに胸をかすめた何かについ、顔をしかめた。