りんごをどうぞ「ヨルンもどう?美味しいわよ」
そう声をかけてりんごを差し出すけれど、ヨルンから返ってきたのは無言と少しひやりとするような視線だけだった。相変わらず顔色が悪いなあ、と思いつつ、嫌ってことかと理解して引っ込める。
バラッドとカルツが街の人からもらって来た大量のりんごは丁度よく熟れていて美味しい。単純にカットしてデザートで出しても良いし、アップルパイもいいかもしれない。何にしようかとかんがえながらかじりついて、視線を感じてちらりと見ればヨルンと目があう。
ここ最近、よく目が合うなと思うのは彼には言っていない。気づいているのかいないのかわからないから。
「ヨルン、そんなに見られたら恥ずかしいわ、私」
まだまだこの話し方を素直に出すのは慣れないことだけど、馬鹿にしたりする人は旅団にはいないから、少しずつ、言葉遣いを素直に出してみている。
ヨルンもなんだかんだと言う方じゃないというかむしろ無言が多いし。
「そうか」
発した言葉のあと、何故かヨルンが視線を一度逸らす。下に。何かあるのかと追いかけてみたけど、青々とした草が生えてるだけだった。
「すまなかった」
「ふふ、大丈夫よ」
ぱちぱちと何度か瞬いて、それでも場を立ち去るでもなくそこにいてくれるヨルンをみれば、別に私といるのは嫌なわけではないらしいとわかって、くすくすと笑ってしまう。