《紅で粧して》「私は、お前の想いに応える気はないよ」
ぶつかる度に何度も聞かされた、俺を強く突き放す言葉。
それは冷たくて、寂しくて……とても、淋しい。
「何でですか。俺が、先に死ぬからですか」
「種族が違うんだ。共に居るべきではない」
「種族が違うから何なんですか。俺はそんなこと、気にしません」
「そもそも私は男だ。分かっているのか」
「そんなこと分かってます。それでも、あなたと一緒に居たいって思ったんじゃないスか」
「…………」
「………………………」
ああ言えば、こう言う。いつもそうだ。
この人は分かりきっている建前の問題を並べ立てて、壁を作って、それ以上踏み込まれないように心を固く閉ざして。
沈黙の中、小さく囁く「諦めてくれ」と。逸らした瞳は弱々しく揺れていた。
くるりと背中を向け、扉に向かって歩き始める。
逃したくない、今日こそ、お願い
俺を、見て欲しい……!
机の上、先程まで彼が使っていたペーパーナイフを手に取って、躊躇なく手首を引き裂いた。
「……! お前!! 何をして」
「俺の!! 俺の全てを、あなたに捧げます。だから……逃げないで」
血の滲んだ手首を口元に近づける。固く閉ざした唇の奥、歯を食いしばる音が鳴って、弱々しかった瞳は、どくどくと鼓動に合わせて収縮を繰り返す。
ああ、欲しい。あなたのその、俺を求める欲を剥き出しにした感情全て、しまわないで。
「私は……お前が自由に駆け回る姿が、愛おしくてたまらない」
「……はい」
「だから、私に囚われて欲しくない………」
「…………」
「頼むから、私の傍に居ようとしないでくれ」
震える声が、愛おしい。
馬鹿な人だ。俺は囚われたりしない。俺は……自分で選んで、あなたと言う檻に飛び込みたい。
「あなたが望むなら、俺はどこまででも自由に駆け回ります……けど、最期に還る場所は、あなたの元がいい」
指先まで垂れた血で紅を引く。
誘うように鼻を擦り付ければどちらからともなく唇が重なった。
死がふたりを分かつまで、静寂の中、愛を誓い、愛を呪った。