《まだ知らない感情》 ページを捲る度に、ぎしりと革張りのソファーが小さく鳴く。背もたれと肘掛で体を支えて片手で持つには少々重たい厚みの本をピントの合う高さに合わせて、文字の海へ没頭する。
数ページ読み進めて、ふぅと溜め息をついた。そんなに重いならテーブルを持ってくるなり机に移動するなりすればいい。出来るものならそうしたい。出来ないのだ。ちらりと膝に視線をやる。組んだ脚の上に頭を乗せて心地良さそうに眠る仔犬が、その原因であった。
その日の朝早く、屋敷の門の前に置かれていたのは大きさの割にずっしりとした荷物。何が届いたかは検討がつく。薄い包装紙をぱりぱりと慣らして開けると、掠れた表紙が見えて、側面を見ればコーヒーが染みたような古びた色合いになった紙は、湿気を含んで歪んでいた。どうやら、偽物ではないようだと確信して口端を少し上げた姿を、音が気になって後ろから覗いた青年が見つめていた。それはロドが取り寄せた、吸血鬼に関する伝承を綴った本であった。
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