報告 報告、いじめ、嫌がらせ。報告、いじめ、嫌がらせ。報告、いじめ……。
「シェーブル?」
さっきまでのびのびとヴァイオリンを弾いていたはずのソナタは、いつの間にか目の前にいて、俺の持っているスマートフォンを覗き込もうとしていた。さっと画面を伏せて、見せまいとする。
「なにしてんだよ」
「別に。ネットサーフィン」
まったくもって嘘なんかじゃない。ソナタはヴァイオリンを持ったまま俺の隣に腰を下ろし、まだ画面を見ようとする。
「俺のアカウントだった」
「俺が動かしてんだよ、勝手にさせろよ」
ソナタはそのまま俺の方に迫るから、壁に預けていた背を動かして少し床にもたれる。
嫌な輩は、分母が多くなればわけもなく湧いてくる。ソナタがどのくらいの頻度でこのアカウントを見ているのか定かじゃないし多分そんなに見ていないだろうが、もしも見たときにそんな心ないコメントに刺されてしまったらどうなるだろうか。どうしようもなく暇なときに、ひとつずつ報告している。まあ、もぐら叩きみたいなものだから、効果には期待していない。
優しさとかじゃない。彼のナイーブなところを知っているから、その面倒臭さも身に染みているから、なるたけ避けたいだけ。つまりは俺のエゴ。
ソナタはまだ俺のスマートフォンの背面を凝視しているから、カメラを起動してシャッター音を鳴らしてみる。
「わ、勝手に撮るなよ。俺の写真は高くつくからな」
ぱちりと音を立てながら瞬きをするソナタ。
「知らねぇよ」
練習室の照明の影になるソナタは、それでも顔が良かった。だからもう一枚だけ撮った。彼は呆れ顔をして立ち上がる。
「それあとで確認させろ」
「あいよ」
また黄色いヴァイオリンは歌い出す。俺は作業を再開した。